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なぜポーランドは優秀なGKを輩出し続けることができるのか?

柴村直弥プロサッカー選手

去る5月27日、ポーランドはワルシャワのナショナルスタジアムで行われた2014-2015UEFAヨーロッパリーグ決勝。

ウクライナのドニプロ対スペインのセビージャというカード。開始早々のドニプロの先制点を皮切りに、セビージャでプレーするポーランド人選手クリホビアクの同点ゴールで観客で埋め尽くされたワルシャワのスタジアムは熱狂した。逆転したセビージャに対して前半の内にドニプロは同点に追いつき、最後はセビージャのバッカがこの日2点目となる決勝点を決めて、セビージャ3-2で勝利し、UEFAカップ/UEFAヨーロッパリーグ史上最多となる4度目の優勝を成し遂げた。

この2014-2015シーズンのUEFAヨーロッパリーグ決勝のアンバサダーを勤めたのはポーランド人GKのイェジー・ドゥデク。

2001年から2007年までリバプールで守護神として公式戦184試合に出場している人物である。

FCバルセロナの優勝で幕を閉じた2014-2015UEFAチャンピオンズリーグから遡ることちょうど10年前。イスタンブールで行われた2004-2005シーズンのそのUEFAチャンピオンズリーグ決勝、リバプール対ACミラン。前半0−3でリードされていたリバプールが後半に3−3の追いつき、PK戦の末リバプールが勝利した、イスタンブールの奇跡と呼ばれたあの試合…

記憶に残っているサッカーファンの方々も多いと思うが、あのゴールを守っていたGKがこのドゥデクである。PK戦の際にはキッカーが蹴る際に身体を上下左右に動かしてキッカーを困惑させ、ピルロとシェフチェンコのPKをセーブし、優勝に大きく貢献。UEFAゴールキーパー・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされた。

UEFAチャンピオンズリーグで優勝を果たしたポーランド人GKは、ユヴェントスの守護神として活躍したズビグニェフ・ボニエク、FCポルトなどで活躍したユゼフ・ムイナルチクに続いて、ドゥデクは3人目であった。

ポーランドは世界屈指のGK輩出国と呼ばれている。

ドゥデク、ボエニク、ムイナルチクなどだけでなく、昨シーズンまでイングランドプレミアリーグのアーセナルの正GKとしてゴールを守っていたヴォイチェフ・シュチェスニー(今シーズンはASローマへ移籍)は、若干25歳にしてアーセナルでリーグ戦にすでに132試合に出場している。アーセナルで正GKの座を掴んだのは若干20歳のときであった。当時、アーセナルのベンゲル監督は以下のようにコメントしている。

「シュチェスニーはアーセナルF.Cの正GKを任せられる器だ。そして我々にはファビアンスキもいる」

出典:アーセナル公式HP

シュチェスニーとアーセナルでポジション争いを演じていたウカシュ・ファビアンスキ(2014-2015シーズン同リーグのスウォンジーへ移籍し、昨シーズンはプレミアリーグ37試合に出場)もまたポーランド人である。

そして、イングランドで言えば、マンチェスターUで6年間活躍したトマシュ・クシュチャクもポーランド人だ。

イングランド以外の国でも、アルトゥール・ボルツもセルティック、フィオレンティーナ、サウサンプトンで守護神として活躍しているし、昨シーズン、スペインリーガエスパニョーラのエルチェCFの正GKとして活躍していたGKティトン(今シーズンはシュツットガルトに移籍)もまたポーランド人である。

他にも数え上げればキリがないが、なぜポーランドでは長年に渡りこれほどまで多くの優秀なGKが育っているのか?

まず、比較的分かり易い要因としては、ポーランド人は比較的身長が高く、体格の良い人種であることが挙げられる。

しかし、これはポーランドだけに限らず、欧州諸国でも同じような体格を持つ国もあるため、それだけが理由とは言い難い。

次に、ポーランドではGKもゴールを決めるFWと並んで人気ポジションの1つであることも挙げられるだろう。GKをやりたがる子どもたちも多いということも理由の1つだと考えられる。

前述したように人種的に身長が高く比較的体格の良い選手が多く、GKも身長が190cm以上ある選手が珍しくないどころか、190cm以下のGKの選手のほうが珍しいくらいである。そうした190cm以上あるGKが数多くいる中で、育成年代から凌ぎを削り、厳しい競争に打ち勝ったほんの一握りの選手だけがプロ選手になれるため、数と競争の原理から考えても優秀なGKが生まれてくることは容易に想像できる。

さらに、ポーランドでは1対1の戦いが比較的重要視されるため、試合において前提としてDFは相互間でカバーし合って守ることよりも、相手FWに対して1対1で守ることをより求められる。フィールドプレーヤーにはそのスキルが身に付くとともに、GKはDFがかわされてGKとの1対1になる局面も多く、それを止めることが求められる。そのような試合を育成年代から常にこなしてきていることでスキルが上達していくのである。

そして、レヴァンドフスキ(バイエルン)に代表されるように、ポーランドには突出したFWも生まれる土壌がある。実際にポーランドリーグでプレーし、対戦したり観たりしている筆者の感覚では、個人の力で突破でき、ゴールに貪欲な得点力のあるFWが数多くポーランドには存在している。

今シーズン(2014-2015シーズン)のポーランド1部リーグの得点ランキングを見ても、1位〜5位までの5人中4人がポーランド人選手であり、得点王もポーランド人選手である。

そのようなFWと日々練習や試合で対戦しているGKのレベルが上がっていくことは必然であろう。

ポーランドのGKの育成では12,3歳くらいから独特な器械体操、マット、新体操のようなものを取り入れて行うクラブもあり、選手たちの間接が非常に柔らかい傾向にある。先日、日本からポーランドに子どもたちを連れて遠征に来たある指導者の方が、「ポーランド人のGKは、肩でボールを吸収していますよね。」と筆者に言ってきた。肩の間接に柔軟性があることにより、比較的ボールの勢いを吸収することができる傾向にある。

昨シーズン、ポーランド1部リーグの最優秀GKに輝いたのは、若干17歳のポーランド人GKドラゴフスキ。3位で今季のUEFAヨーロッパリーグ出場権を獲得したヤギロニアの正GKとして昨季29試合に出場し、その内10試合を無失点に抑えている。しかもデビューしたのはまだ16歳のときだ。

このように若い世代からも随時優秀なGKが生まれてくる。

GKのレベルの高さは筆者がポーランドに来る前に想像していた以上であった。1部リーグや2部リーグだけでなく、4部リーグや5部リーグでも、身長が190cm以上あり、機敏に動けてセービングや判断も良いGKが数多くプレーしている。

一過性のものではなく、これまで長年に渡り世界屈指のGK輩出国と言われてきたポーランド。

日本でも今シーズンからジュビロ磐田に加入したポーランド人GKカミンスキーが活躍を魅せている。

これからもポーランドは数多くの優秀なGKを輩出していくことであろう。

育成年代から含めたトレーニング方法など、日本が学べることが数多くあるかもしれない。

プロサッカー選手

1982年広島市生まれ。中央大学卒業。アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でプレーした後、徳島ヴォルティスでは主将を務め、2011年ラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。同年のUEFAELでは2回戦、3回戦の全4試合にフル出場した。日本人初となるラトビアリーグ及びラトビアカップ優勝を成し遂げ、2冠を達成。翌年のUEFACL出場権を獲得した。リーグ最多優勝並びにアジアで唯一ACL全大会に出場していたウズベキスタンの名門パフタコールへ移籍し、ACLにも出場。FKブハラでも主力として2シーズンに渡り公式戦全試合に出場。ポーランドのストミールを経て当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍した

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