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サッカーが繋いだ平和への道筋 深まる広島とポーランドの絆 そのキッカケとは?

柴村直弥プロサッカー選手
ポーランドでU-18ポーランド代表と親善試合を行った広島県高校選抜

71年前の今日、1945年8月6日8時15分、広島に原子爆弾が投下された。

毎年この時間に黙祷をしているが、改めて犠牲になられた方々のご冥福をお祈りし、ご健在の方々のご多幸を祈念致します。

広島でこの時期に毎年開催されている平和祈念大会がある。広島平和祈念国際ユースサッカー大会だ。

11回目を迎える今年は、8月7日のレセプションパーティーを皮切りに、8月8日から8月11日まで試合が行われる。

※試合日程等 参考HP Balcom BMW CUP 平和祈念 広島国際ユースサッカー 2016 OFFICIAL NEWS WEB SITE

この大会は、海外チームを招待し、サッカーを通じて国際交流を図ると同時に、試合のない中日には、原爆ドーム、平和公園、平和祈念資料館などで平和学習も行う。

昨年来広したU-17ポーランド代表チームとU-17ウズベキスタン代表チームは、非常に熱心に平和学習を行い、選手、スタッフの方々は様々なことを感じたようだった。

※参考記事 広島平和記念公園を訪れた、10代のポーランド、ウズベキスタンの代表選手たち。彼らは何を感じたのか?]

そして、広島と同じように戦争によって多大な被害を受けたポーランドと、この大会をキッカケに絆が深まり、繋がっていく。

今年の春には広島県高校選抜がポーランドヘ

2016年春、広島の高校生18人は、ポーランドの南方に位置する、アウシュビッツ強制収容所にいた。

自分たちが何度も行っている広島の平和公園や平和祈念資料館、幾度となく学んできた戦争と平和、8500km離れた異国の地でその意味を感じていた。

昨年来広した、チェルシー(イングランド)所属のU-17ポーランド代表主将のアダムチェクは、広島平和祈念資料館での平和学習を終えて、「僕たちも子どものころからアウシュビッツについて多く学習しているが、広島でも同じように戦争によって多くの方々が亡くなった。今日学んだことは自分の心に深く刻まれた。」と語っていたが、今回アウシュビッツを訪れた広島皆実高校の吉田は、「アウシュビッツに行って,歴史は酷いもので,昔だけではなく今でも同じようなことが繰り返されて,関係のない人々が殺されていることは少しでも早くやめないといけないと思いました。何のためにアウシュビッツや原爆ドームなどが残されているのかをしっかりと世界の多くの人々に知ってもらいたいと思いました。」と述べ、昨年広島で原爆について学んだポーランドの同世代の選手たちと同じように、心にくるものがあったようだ。

ポーランドが示した敬意

広島県高校選抜が行ったポーランド遠征は、今年、2016年3月下旬にポーランドを訪れたものだ。これに対してポーランドサッカー協会は、異例ともいえる、U-18ポーランド代表チームで彼らと親善試合を行った。この試合が実現したのも、前年の広島平和祈念国際ユース大会があったからに他ならない。ポーランドまで来てくれた、前年からの絆がある広島県高校選抜に対し、ポーランドサッカー協会は最大限の敬意を示したと言えるだろう。

相手の土壌で戦い、肌で体感したポーランドの強さ

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前年の広島での大会で、ポーランドは、初戦でウズベキスタンにPK戦の末敗れ、広島と日本には勝利するも、2勝1分けで準優勝という結果に終わったが、飛行機も遅延し、20時間以上かかった長時間移動や、選手たちが初めて体験した日本の蒸し暑さが、彼らのコンディションに少なくない影響を及ぼしたことは否定できない。対して今回は、いわばポーランドのホームゲームだった。

結果は、4−0でポーランドが勝利。

彼らの土壌で戦うという経験をした広島県高校選抜の選手たちは、試合後、自分たちが体感した様々な違いを口にした。

「スピード,体格,切り替えの速さなど相手のほうが確実に上回っていた。ポーランド代表との試合は今までの試合の中で一番楽しかったですし,良い経験でした。」と、大石(広島皆実高校)は語り、GKの多々良(広島皆実高校)は、「本当に良い経験をすることができました。体格,フィジカル,スピード,止めて蹴ることの精度,ゴール前での技術,トップスピードでの技術などの差を感じました。また,速いパス回しなので,サイドに追い込んではめても,1対1でかわされ,DFを引っ張り出されてスペースを使われ失点する場面がいくつもありました。ポーランドのGKは,反応,セービング,ダイビングなどはとても上手だった。ポーランドの選手との差はとても大きく,まだまだだと気付くことができました。これからの意識のレベルを全国ではなく世界に変えて練習していこうと思いました。ポーランド代表との試合など,素晴らしい経験ができたのでこれを大切にしてこれからもがんばっていきたいと思います。」と感想を述べ、世界屈指のGK輩出国としても知られるポーランドのGKとの違いも感じていた。

ポーランド1部リーグのヤギロニアのユースチームとも対戦
ポーランド1部リーグのヤギロニアのユースチームとも対戦

また、吉田(広島皆実高校)は、パススピードにもっとも違いを感じていたようで、「ポーランドの選手との大きな違いはパススピードだと思います。DFラインでのパス回しのパスが速くてはめることが難しかったことや,縦パスも早くてインターセプトも難しかったです。逆に,自分たちのパススピードが遅くてはめられたりしたので,ここに大きな違いがあると思います。」とコメントしていた。それぞれが肌で感じた違いは、きっと彼らの今後の成長に繋がっていくことだろう。

遠征中にはポーランド対セルビアの国際親善試合も観戦
遠征中にはポーランド対セルビアの国際親善試合も観戦

「ワルシャ旧市街観光やスタジアムツアー観光,ポーランドvsセルビアの国際Aマッチなどどれもとても楽しく二度と経験できないことでした。特に,代表戦での海外の観客の応援や雰囲気,代表選手のプレーはとても刺激的だった。レヴァンドフスキーを生でみれてよかった。また,アウシュビッツ強制収容所見学も世界の悲惨な歴史を学ぶことができて多くのことを感じることができた。遠征中,経験したすべてのことが刺激的で楽しく本当に今までにないくらい充実した9日間だった。チームの雰囲気も良く試合をするたびに強くなっていくのを感じることができた。」

この大石(広島皆実高校)のコメントからもいかに充実した遠征であったかを物語っている。

サッカー選手として、そして1人の人間として成長していくこと

このような交流を体験することは、サッカー選手として、そして、1人の人間としても成長していくことに繋がるであろう。そして、サッカー選手として成長することと、人として成長することは、決して別のことではないと感じる。昨年、U-17ポーランド代表を率いたラファウ・ヤナス監督は、平和祈念公園を訪れた後にこうコメントした。

「10代の彼らはいま、様々なことを吸収する力が強い。人として成長することはサッカー選手として成長することに繋がる。今日のこの経験は必ず彼らの今後のサッカー人生にも大きく影響するだろう。」

ポーランドサッカー協会の幹部と交流する、昨年の大会でポーランドを招聘し、交流のキッカケを作った運営委員長の鯉迫氏(写真左から2人目)と、ポーランド遠征の実現に尽力した技術委員長の井手氏(写真右から3人目)
ポーランドサッカー協会の幹部と交流する、昨年の大会でポーランドを招聘し、交流のキッカケを作った運営委員長の鯉迫氏(写真左から2人目)と、ポーランド遠征の実現に尽力した技術委員長の井手氏(写真右から3人目)

平和とサッカーが繋いだ広島とポーランドの絆。

今年もU-18ポーランド代表チームが広島にやって来る。

広島とポーランドのこの交流が続いていくことは、戦争の痛みを知る両者の絆を深め、それはきっと平和への道標となっていくことだろう。

プロサッカー選手

1982年広島市生まれ。中央大学卒業。アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でプレーした後、徳島ヴォルティスでは主将を務め、2011年ラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。同年のUEFAELでは2回戦、3回戦の全4試合にフル出場した。日本人初となるラトビアリーグ及びラトビアカップ優勝を成し遂げ、2冠を達成。翌年のUEFACL出場権を獲得した。リーグ最多優勝並びにアジアで唯一ACL全大会に出場していたウズベキスタンの名門パフタコールへ移籍し、ACLにも出場。FKブハラでも主力として2シーズンに渡り公式戦全試合に出場。ポーランドのストミールを経て当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍した

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