男子新体操の革命児・永井直也(青森大学)の放つ輝きを見逃すな!~『BLUE vol.5』

2016年全日本選手権個人総合2位の永井直也(青森大学)

永井直也は、中学3年生のときに、まさに彗星のごとく男子新体操界で頭角を現した。

その当時は、「男子新体操」というにはあまりにも動きがなめらかで美しく繊細で、体つきが華奢なこともあって、やや中性的にも見える選手だった。

2013年・高校3年の永井
2013年・高校3年の永井

「男子新体操のプリンス誕生!」~永井直也の登場に、多くの人がそう思った。

2010年の全日本ジュニアでいきなりジュニアチャンピオンとなると、男子新体操の名門・青森山田高校に進学。

1年時から青森県代表選手として高校総体にも出場し、常に優勝争いにはからんでいたが、意外にも高校総体での優勝はない。

同世代に強い選手がひしめいていたせいもあるが、永井自身、高校時代は肝心なところでミスが出てしまうこともあり、今ひとつ吹っきれない時期を過ごしていたようにも思う。

ジュニア時代の持ち味だった「繊細さ」「柔らかさ」と、高校で身につけつつあった「強さ」とのバランスがうまくとれていないように見えることもあり、「より上の成績」を周囲が期待することさえも、彼はうっとうしく感じているのではないか、と見えていた。

『BLUE』初演の2013年。

永井直也は、まだ青森山田高校の高校生だったが、当然、この舞台を踏んでいる。

実力も華もある永井は、高校生としては目立つポジションで踊ることが多かったように記憶している。

たしかに彼は、これまでのどの新体操選手よりも、舞台の上で輝ける選手だった。

スポットライトがあまりにも似合ってしまうのだ。

「もしかしたら、永井直也は高校までで新体操を卒業するんじゃないか」

そんな予感さえした。

2013年11月・高校3年の永井
2013年11月・高校3年の永井

しかし、2014年。

永井直也は青森大学に進学した。

そして、そこから「迷走していた高校時代」がウソのように、自分の道を突き進み始めたのだ。

永井の新体操を、どう評価すればいいのか。

それは男子新体操に難題を突き付けた。

彼の体操は、完璧に近く美しく、正確だ。

柔らかく、大きく、なめらかで、姿勢欠点も少ない。

まさに「男子新体操の理想形」を体現している選手だと言える。

男子新体操関係者で、そのことに異論をはさむ人はほとんどいない。

しかし、男子新体操にはタンブリング、そして個人競技の場合は手具操作というまったく別の能力も求められる。

この部分では、永井直也が一番というわけではない。

実際、2016年の全日本チャンピオン・臼井優華(中京大学/OKB体操クラブ)は、タンブリングの強さ、手具操作の多彩さで永井を上回り、全日本選手権では永井をねじふせるかのような完全優勝を成し遂げた。

それでも、チャンピオンの臼井さえも「永井選手は自分にはないものをたくさん持っている」と認める。

総合力では一番ではない、のかもしれないが、誰もが認める存在。大学3年生になった永井直也はそんな選手になった。

2016年7月・練習中の永井
2016年7月・練習中の永井

昨年の夏、全日本インカレを控えた永井に話を聞くことができた。

そのとき彼は、これまでの自分を振り返って語ってくれた。

「今までの自分は「人が見て感動してくれればいい、勝負は別にいい」とずっと考えてやってたんですが、2015年のJAPAN前に、それは『逃げ』ではないかと、言い訳にすぎないと思って、勝ちに行こうと思ったんです。

が、みごとに総崩れで、ミスが出たらそのまんま次の種目にも引きずる感じで焦りが出て、もっと冷静になれば出来たことも出来なくなりました。よく言われる《練習は本番のように、本番は練習のように》ってことを意識しすぎて、きっちりやることにこだわった結果が惨敗だったんです。」

それでも、やはり「勝ちたい」と、昨年は勝負にもこだわってきた。

「新ルールになって、これまでよりも難度を入れなくてはならず、その中で勝つ工夫をしなければならない。自分の個性を出しにくいなと感じることもありました。つなぎの動きなど、やりたいことが多すぎて演技が1分半に収まらないし、手具も活かさないといけない中で《自分らしさ》を見せたい、そんな葛藤はあります。」

2016年11月・全日本選手権での永井
2016年11月・全日本選手権での永井

そして、彼自身、高校時代のことをこう言った。

「《自分らしさ》ってなんだろうって高校のときにはわかってなくて、団体もあったから精神的にもキツくて。迷いっぱなしでほんとあのころの自分は、「クソ」でした(笑)。」

そんな時代も経て、今では、自分が新体操でやりたいこと、が見えてきたという。

「今は、自分は新体操はダンスの中にあるジャンルのひとつと考えていてジャズやヒップホップみたいな。その中でいろんなジャンルを取り混ぜて新体操でやる。その新しい形をみつけたくて、それを大きな目標にしています。

大学に入るときに中田先生にも先駆者になりたい、と話しました。新体操を変えたい、と。

大1のスティックで新体操の型が、かなり変わったと思ってます。

※2015年全日本選手権種目別スティック決勝。永井は8番目に登場。2016年シーズンからはスティックの曲・構成とも変更し、「化粧」(中島みゆき)を使った印象的な作品となっている。

最近高校生でも自分の動きを真似してくれる選手も出てきて、「新体操を変えたい」という想いが少しは叶えられてきたのかなとも感じるけれど、まだまだ自分が気づかないといけない部分はたくさんあります。

演技の流れの中で難度でプツッと切れる瞬間があるのが嫌で、一瞬素になる瞬間をなくしたい。見始めたら引き込まれてどんどん近寄って見たくなるような、人を魅了する演技がしたいんです。」

永井は、その思いを、2016年全日本選手権の種目別決勝のクラブで結実させた。

あのときのクラブの演技は、突き抜けていた。

彼のいうとおり、「素になる瞬間のない」演技であり、ひとつひとつの音に、永井の動きがすべてはまり、彼がその体と動きで曲を奏でているようにすら見えた。

1分半、誰も目を離すことのできない。息をすることさえも忘れるような演技だった。

そして、演じきったとき、今まではクールな様子を崩すことのなかった永井直也が、感情を爆発させ、大きくガッツポーズを作り、フロアでぴょんぴょん飛び跳ねたのだ。

「会心の演技」

おそらく、何年も何年も彼が目指していた演技がするりと実現できた瞬間だったのだろう。

永井も葛藤していたとおり、今の男子新体操は求めるものが多くなっている。

それも高いレベルで求められる。

2016年11月・全日本選手権でのクラブの演技
2016年11月・全日本選手権でのクラブの演技

男子フィギュアで4回転ジャンプは必須、それも何回も、何種類も、となってきたのにも似た変化が起きている。

永井のような「表現」に重きを置く選手にとっては逆風とも言える時代だが、それでも、

「やっぱり永井直也は別モノ」とうならせる演技を彼は見せ、このクラブの演技では、種目別優勝の臼井に0.125差と迫る評価をもぎとったのだ。

去年の夏、彼はこう言った。

「表現者でありたいけれど、自分は競技者なので、勝ちにこだわりつつ自分らしさ、自分のやりたい新体操も両立させる。そのためにはまず、自分に勝たないといけないと思います。」

今年、永井は大学4年生になる。

おそらく、競技者としてはラストシーズンになるだろう。

卒業後については、

「踊り続けたい。自分らしさ、やりたいことをプロで活躍しつつ叶えたい。そのために、新体操の世界でできる限りのことはやろうと思います。」

と永井は言った。

今シーズンの競技にもおおいに期待したいが、まずは明日からの『BLUE vol.5』で、彼ならではの輝きを見せてくれるに違いない。

新体操選手としても。

表現者としても。

今の永井直也は、一度は見ておきたい逸材だ。

<写真提供&永井インタビュー:清水綾子>