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ハローワーク「ブラック企業求人拒否制度」に期待される具体的な制度とその意義

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

ハローワークが、ブラック企業求人を拒否する制度に向けて動き出したと報道されている。

→ こちらに記事

ハローワーク求人は信用できる?

「ハローワークは公的機関だから、信頼できる求人が多い」

そう考える方も多いだろう。

しかし、実際には、多くの方がハローワークでの求人で、ブラック企業の被害に遭ってきたのが実情だ。

「ブラック企業」はハローワークで人手不足を解消している

ブラック企業にみられる特徴の1つは、慢性的な人手不足だ。

若者を使い潰していくブラック企業は、離職率が高い。ブラック企業は、使い潰し離職していった若者の代わりとなる労働力を求めている。

そもそもブラック企業とは、本来支払うべき対価を支払わず労働力を搾取して、利益を上げてるビジネスモデルだ。

代わりになる安い労働力を見つけなければ、ブラック企業は利益を上げられない。

それなのに、ブラック企業が容易に人手不足を解消して利益をあげられるように、ハローワークが税金を使って加担してきたという実態があったのだ。

なぜ代わりがみつかるのか

ブラック企業が、新たな労働力を確保できるのは、若年層で非正規労働者が増え続けている雇用情勢が大きな要因だ。

若者も、不安定・低賃金の非正規労働を避けて、できれば正社員になりたいと考えるのが普通だ。

「何としても正社員に!」「正社員にならなければ一人前ではない」といった、プレッシャーを感じている方も多い。

そんな背景の下、ブラック企業は、公的機関であるとのお墨付きをえたハローワーク求人で、新たな労働力を確保しているケースが多いのだ。

非正規雇用の増大 → 少ない正社員の椅子取りゲーム → 何とかして正社員になりたい若者の増加 → ハローワークで正社員の求人募集に応募

ハローワークでは、現在の法律では原則、「求人の申し込みはすべて受理しなければならない」と規定されていて、求人の内容に違法性がない限り、受理することになっている。

そのため、現場のハローワーク職員の中で、異常な離職率や時後のクレームから「ブラック求人」と認識されている企業でも、求人募集ができてしまうという問題があった。

行政のお墨付きを得たハローワークの求人だからと信頼してしまう人が多いのも、やむを得ないだろう。

こんなハローワーク求人の実態は、長らく指摘されていたのに、放置されてきた。

このハローワーク求人の問題点については、筆者が、今野晴貴(ブラック企業対策プロジェクト共同代表)・上西充子(法政大学教授)と共同で執筆した2014年2月19日公開のブラック企業対策プロジェクトの無料冊子「企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―」でも、既に具体的な対策を含め改善を指摘をしていた。

以下、紹介しよう。

応募した方は、

「ハローワークの求人だから大丈夫だろう」と考えていたでしょう。

ハローワークで求人情報を出している企業に対しては、あたかも国(ハローワーク)がお墨付きを与えたかのように信頼してしまいがちで、被害に遭いやすい状況になっていると感じます。

ですから、こんな事態を改善するために、ハローワークの求人と、実際に結ばれた労働条件が異なっている場合がどれくらいあるのか、まずはきちんとハローワーク(国)が責任をもって実態調査を行うべきです。すべてを調査するのは難しくても、一定数のサンプル調査であれば、調査に必要となる人員や予算の問題も、ある程度クリアできるでしょう。

そして、その調査結果に応じて、国は、具体的な対策を講じる必要があります。

問題のある企業には、求人を出させないようにする、問題のあった企業名を公表するなど、さほど予算がかからなくても、効果のある対策は考えられますし、ハローワークという公共サービスに対する利用者の信頼を高める意味もあります。

出典:ブラック企業対策プロジェクト無料冊子 「企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―」27頁以下

どういった制度にすべきか

とはいえ、具体的な制度の中身は、今回の報道ではまだ具体的に明らかになっていない(1月9日の労働政策審議会で法案のもととなる報告書案が示されるという)。

以下、ぜひ取り入れて欲しい点を、2点に絞って指摘したい。

1 募集要項とは異なる労働条件で働かせている求人

嘘みたいな話だが、多くあるのが実態だ。

◆「正社員」の募集だったのに、入社してみたら契約社員だと言われた

◆給料が「25万円」と書いてあったのに、20万円だった

◆「賞与支給」と書いてあったが、支払ってもらえない

◆正社員募集だったのに、「業務委託」だった

これらは、いずれも私が実際に受けた経験のある相談事例だ。

平成 24 年度に全国のハローワークに寄せられた申出で、求人票の記載内容と実際の労働条件が違うといった申出は7783 件にのぼり、厚生労働省も昨年3月に対策をはじめていた。

こういったケースで、労働者が抗議をして改善を求める(又は退社する)のは、そう簡単ではない。

厳しい雇用情勢で、ようやく正社員のイス取りゲームを勝ち取った労働者に自分を置き換えて想像して欲しい。既に30社応募して採用されず、ようやく採用にこぎつけた会社だとしよう。騙されていたと分かっていても、職を失いたくないため、簡単には文句を言えないという方の立場を理解していただけるのではないだろうか。

こういった状況を悪用してブラック企業が人手不足を解消するため使っているが、「募集要項で騙す」手口であり、極めて悪質だ。

実際の労働条件とは異なる求人を出して、騙して人手不足を解消するブラック企業を、きちんと排除するべきだ。

全て調査しなくても、複数の苦情が来ている会社などに絞って、求人情報と労働条件(労働契約によって決定される)との差異が無いかを、サンプル調査をしてみてもいい。

2 残業代不払いのある企業の求人

ブラック企業は、本来払うべき賃金を払わず長時間労働させて、人件費を浮かして利益を上げるビジネスモデル(=もちろん違法)。

きちんと残業代を支払うと(最低でも25%増しの割増賃金まで支払うことになり)ブラック企業は利益を上げられない。

したがって、ブラック企業の特徴は、残業代不払いと言って良い。

こういった残業代不払いのある実態の会社に求人を出させないことで、労働市場を通じ人手不足に陥るブラック企業を社会から排除できる。

制度の意義は?

今回の厚労省の取り組みは、(もっと早くと思わないまでも)大変評価できる方向の改善と言って良い。

ブラック企業撲滅に効果的な対策は、人不足状態を作ること。

これまでは、ブラック企業が人手不足を解消するのに、ハローワークが税金を使って加担してきたのだ。

このような状況が改善する方向で一歩を踏み出すことは、ブラック企業被害撲滅にとって非常に大きな意義がある。

ブラック企業が社会から排除されると、きちんと残業代を支払う企業がブラック企業との価格競争に敗れるという、正直者が馬鹿をみるような事態もなくなり、企業の公正な競争も確保される。

また、誠実に偽りのない募集要項をだしている会社が、虚偽の募集要項で人を集めるブラック企業との競争に負けて、人手不足に悩まされると行った事態も防ぐことが出来る。

だから、きちんとした制度が作られれば、労働者はもとより、真っ当な会社にとってもメリットがあるのだ。

ぜひ、ブラック企業撲滅に実効性がある制度の創設を期待したい。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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