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ブラック企業・たかの友梨が「ホワイト企業」に?~「ママ・パパ安心労働協約」締結の意味~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

「ブラック企業」と大きく報じられた、「たかの友梨」について、ユニオンと「マタハラ解決」宣言 「ママ・パパ安心労働協約」を締結したとの報道が飛び込んできました。

これには、ビックリしました。

たかの友梨と労組が「マタハラ解決」宣言 「ママ・パパ安心労働協約」を締結

出典:弁護士ドットコム 2月19日(木)17時35分配信

たかの友梨での労使紛争のおさらい

昨年夏以降、たかの友梨に関して、パワハラ・残業代不払いなどの事件が多数報道されました。

例えば、こんな記事。

「たかの友梨社長、組合活動に圧力」従業員ら申し立て

出典:朝日新聞デジタル(2014年8月28日)

社長自ら労働法を無視し、労働組合の活動を敵視した行動が、大きく報道されました。

こういった事件を通じて、「たかの友梨」は「ブラック企業」という、確固たるブランドイメージが定着したように思います。

裁判2つは和解解決との報道

マタハラ・残業代未払い訴訟が和解 たかの友梨運営会社

出典:出典:朝日新聞デジタル・2014年12月11日

「たかの友梨」が和解 残業代未払い訴訟/仙台地裁

出典:JILPTメールマガジン労働情報No1080(時事通信)2015年1月26日

労働協約締結は労使関係健全化の証明

そんな中で、本日、ユニオンとたかの友梨とが、労働協約(「ママ・パパ安心労働協約」)を締結したというニュースが飛び込んできました。

「労働協約」とは、簡単に言えば、労働組合(ユニオン)と会社の書面で取り交わした労働条件などに関する約束です(ただし、手続き上有効となるには労働組合法14条に定められた事項が守られていなければなりません)。

労働組合は、会社と団体交渉を行い、働く際のルールについて会社と合意をしたら、それを労働協約にすることで、労働者の権利を向上させていきます。

ですから、ユニオンが会社が労働協約を締結できたということは、まともに会社とユニオンが交渉できる関係になっている(まともな労使関係が築かれている)一つの証明といえるでしょう。

しかも、今回の協約締結のお知らせは、会社とユニオンが連名でメディアに発表しています。

会社がユニオンと連名で文章をだしたというのは、きちんとした労使関係が築かれつつある、一つの現れです。 

こういった連名での発表は、それほど多くの先例があるわけではありませんので、貴重な解決です。

ママ・パパ安心労働協約

ユニオンのブログを確認したところ、この労働協約は、法律で保護された水準を超えた育児への配慮(子育て期間の小学校入学までの短時間勤務制度導入、小学校在学中の残業免除)、シフト上の子育ての配慮などを内容としています。

これらは、いずれも「ママ・パパ安心労働協約」の名の通り、労働者が安心して子育てをしながら働き続けられことを目指した内容です。

労働法での保護を超える水準が確保されたのは、ユニオンがなければ実現できなかったことですので、大変重要な意義があります。

また、協約の対象も素晴らしい。

今回大きく報道された事件がマタハラを含んでいたことを踏まえ、きちんと事件の本質に向き合い、労働者が安心して働ける労働条件を確保しようと、今回の協約締結に至ったのでしょう。

この協約の内容は、いずれも「3歳の壁」「小1の壁」という(ほとんどの場合)女性が子育てしながら働き続ける上で大きな障壁となっていた問題を解消しようとしたもので、労働者(とそのパートナー)にとって本当に役立つ意義のある内容になっています。

ユニオンの活動は「会社を潰すため?」という誤解

これは、本当に良くある誤解で困ったものです。

たかの友梨の様に酷い報道がなされた会社に対して、第三者(他人)は「潰れてしまえば良い」と思うでしょう。人ごとですから。

ですが、ユニオンに加盟した労働者(当事者)は、たかの友梨で給料をもらい、お客様のために、日々頑張って働いているのです。

会社が潰れることなんて、ユニオンに加盟した労働者も望んではいないはずです。

私の知る限り、会社が心から嫌い・仕事が嫌いな人は、ユニオンになんか入りません

さっさと会社を辞めて、次の職場を探します(せいぜい、恨みを晴らすため会社を訴えるだけ)。

会社を潰すためでは無く、職場の仲間が安心して働ける労働条件を勝ち取り、これによって会社のサービスも向上して、会社も健全に発展していくことを目標に、ユニオンは活動しているし、組合員もその思いです。

少なくとも、私は、会社を潰すために活動することを、真っ当な労働組合活動だとは思いません。

真っ当な労働組合活動は、会社経営にとっても必ずプラスになるのです。

今回のユニオンが発表したメッセージにも、労働条件改善がお客様のメリット・会社の発展を期待するという、ユニオンの思いが表現されています。

今後は、労務改善計画やママ・パパ安心労働協約を確実に履行していくことを通じて、たかの友梨ビューティクリニックが、お客様にとって安心して利用でき、従業員にとっても安心して働くことができる会社として、エステ業界のリーディングカンパニーの役割を果たせるよう努めていきます。

出典:エステユニオンブログ・2015年02月19日

今後の課題=組合員(仲間)を増やそう!

今回の労働協約締結のニュースは素晴らしいことです。

ですが、だからといって直ちに、

たかの友梨はホワイト企業になった

と考えるのは早計でしょう。

今後、二度と労働法違反を繰り返さないこと、今回の労働協約をきちんと守って、初めてたかの友梨がホワイト企業に評価できるのです。

そのために大切なのは、仲間(労働組合員)を増やすことです。

組合員が少なければ、ユニオンは、会社を監視して、継続的に会社と交渉を続ける力を維持できません。

ブログ記事などからは、現在の組合員数は分かりませんが、今回のような意義ある労働協約を締結できたユニオンです。

ぜひ、たかの友梨で働く皆さんは、安心してユニオンに加入して欲しいですね。

このニュースが社会に与える影響は?

ユニオンができる→ 従業員定着率向上・サービス向上 → 会社の利益アップ

これが、本来の労働組合の果たす機能です。

こんな構図が、このニュースを通じて、社会にもっと知ってもらえると嬉しいです。

現在の労働組合の組織率は、わずか17.5%です。

このニュースを通じて、もっと多くの方が労働組合の活動に興味をもってもらえれば嬉しいですね。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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