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アリさんマークの引越社・「ブラック企業」とのイメージ悪化の教訓は?

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
引越作業のイメージ(写真:アフロ)

衝撃映像

ブラック企業だと訴訟を起こされた「アリさんマークの引越社」の役員らが、労働組合員を恫喝する様子がユーチューブで投稿されて、再生回数が60万回を超えて、大きく世間を騒がせています。

こちら

この動画をみて、私も大変驚きました。

労働組合に対して、敵対的な対応をとる会社は、決して珍しくはありません。ですが、ここまでの対応をする会社というのは本当に珍しいです。

しかも、これだけ規模の大企業ですから。

経過(概略)

この事件は、今年7月31日、名古屋地裁で「アリさんマークの引越社」が仕事中の事故の弁償を従業員にさせたことなどについて、社員らが弁償金返還・残業代など約7000万円の支払いを求める訴えを起こしたのが発端のようです。

こちら

その後、東京でも同様の訴訟が起こされました。

原告となった社員Aさん(34歳)が、労働組合に加入し団体交渉を行ったところ、Aさんを営業職から「追い出し部屋」でシュレッダー業務に異動し、報復行為をしました(報復1)。

これに対して、Aさんが、配転無効の確認を求めて提訴したら懲戒解雇し、Aさんを懲戒解雇したという通知を顔写真入りで、「罪状」という表現でグループ会社全支店に張り出したのです(報復2)。

これら報復行為については、こちらの記者会見が分かりやすいです。

会社の報復行為、とりわけ懲戒解雇が違法であることは明らかに見えます。

そのためでしょう。Aさんが9月1日に解雇無効の仮処分を申立てると、会社は自ら懲戒解雇を撤回しました。

この懲戒解雇を撤回する会社の判断自体は、賢明だったと思います。

本来であれば、(勝ち目がないと判断して)解雇を撤回したのですから、労使関係を改善する、まともな解決に向けた話し合いの場を作るよいチャンスでした。

ですが、Aさんが復職しても、壁には「過激派の流れを汲むような怖い人は去れ!」と書いた紙、Aさんの顔写真、氏名、年齢が貼り付けられているなど、会社の対応は、闇雲に報復を繰り返し、紛争を拡大するものでした。

そのような会社の対応に、労働組合が抗議をしていた場面が、冒頭の衝撃映像です。

企業にとってのダメージ

言うまでも無く、一連の訴訟を含めて、「アリさんマークの引越社」の受けたダメージは絶大でしょう。

こんな映像をみたら、企業イメージが著しく悪化することは、誰でも分かることです。

「引越社」は、有名タレントを広告に登場させ、企業イメージアップのため、膨大な宣伝費用を使っていたはず。その宣伝広告費をかけて培った企業イメージを、長年積み重ねた顧客からの信頼を、この動画は吹き飛ばす威力があったのではないでしょうか。

教訓は?

(好ましいことではないにせよ)会社が、労使紛争を抱えることは珍しくありません。

その際、労働組合を敵視し続けるとどうなるのか、引越社のケースは、またとない良い教材(悪い見本)になるはずです。

労働組合は、きちんと誠実に会社が話し合えば、わけもなく抗議行動を繰り返したりはしないものです(私の経験則では)。

労働組合は、きちんと誠実に交渉に応じる会社とは、場合によっては会社の立場も尊重しながら対応をします。今回の動画などが流れたのも、会社の組合員に対する報復行為がきっかけとなっており、最初はただの裁判提訴記事がでただけでした。

会社が一貫して労働組合敵視の対応をとり、報復行為等しようとしたことが、このような事態を招いたのです。

労働組合と接点のなかった会社経営者が、労働組合を恐れ、排除したくなる気持ちは分からなくもありません。

ですが、労働組合を排除しようと、誠実に向き合わず、報復などしたら、かえって紛争が拡大し、今回のようなケースにまで発展しかねません(不当労働行為として違法にもなります)。

経営者の皆さん。労働組合を敵視などせず、きちんと誠実な対応を!

これが、この事件が私たちに教えてくれる、大きな教訓です。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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