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安保法施行! 自衛官・家族の悩みとは?

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
3/26 自衛隊員・家族のための安保法施行・緊急電話相談会

先日、防衛大学校の卒業生の任官拒否者が昨年から倍増の47名、定員の1割が任官拒否をしたというニュースが報道され、注目されています。

防衛大学校の卒業式が21日、神奈川県横須賀市の防衛大であった。卒業後に自衛官への任官を辞退する「任官拒否者」は卒業生419人中、11%にあたる47人に上り、昨年に比べ2倍近くに達した。40人を超えるのはバブル景気で就職戦線が学生の売り手市場だった19

91年の94人以来25年ぶりで、89年の51人に次ぐ過去4番目の多さ。

防大が任官拒否者から理由を聴き取ったところ、内訳は、民間企業などへの就職26人▽身体的な理由11人▽大学院など進学6人▽その他4人−−。今月29日の安全保障関連法施行で、自衛隊は他国軍の後方支援など任務の幅が広がり、リスクも高まるが、安保関連法を理由にした任官拒否者はいなかったという。防大は「景気動向などさまざまな要因がある」としている。

出典:毎日新聞2016年3月21日 23時48分

防衛大学校の発表によれば任官拒否者自身が明確に安保関連法を理由にしてはいないようですが、実際の要因は、ご本人しか分からないでしょう。

私には、現在の就職戦線がバブル景気の頃と同様の売り手市場であるとは思えません。任官拒否の主たる原因が、景気動向などにあるとは思えません。

任官拒否の要因としては、安保関連法の施行による集団的自衛権の行使、(日本国民やその財産を守るためではなく)他国を守るために自衛隊員が出動する可能性が高まっている点が関わっていると考えるのが、素直ではないでしょうか。

防衛大学校の在学中には、特別職の国家公務員として手当が支給され、普通の大学生とは性格が異なります。その事の意味は、誰よりも防衛大学校の卒業生全員が重く受け止めていらっしゃったはずで、にもかかわらず1割もの卒業生が任官拒否を選択するという現実は、無視できないものがあります

政府は、3月22日午前の閣議で、安全保障関連法を29日に施行することを決定しました。

これにより、自衛隊が集団的自衛権を行使する可能性がある状態に置かれることになったのです。

自衛隊で働く自衛官の皆さんにとっては、自らの労働環境、さらには命にも影響を与える重大な問題です。

このことは、自衛隊員ご自身のみならず、自衛隊を家族にもつ皆さんにとっても同じです。

これまでに、労働者の権利擁護のために活動するる弁護士約1700名が会員となっている日本労働弁護団から、自衛官の皆さんに対して、以下のメッセージがだされています(自衛隊員の皆さんへ呼び掛けます「君死にたまふことなかれ」2015年9月19日)。

私たちは、自衛隊員の皆さんに、1「新たな法律により追加された外国のための防衛出動命令」が発せられたときにはこの命令に服従するとの同意書や誓約書等の提出を求められても、これを提出しないこと、及び、2「新たな法律により追加された外国のための防衛出動命令」が発せられても、これには従わないことを訴えます。

皆さんは、任官に際して宣誓をされています。また、少なくない皆さんは海外で任務を遂行することへの同意書を既に提出されています。

皆様方の災害における献身的な働き、また、我が国に万一のことがあり日本国民の生命が危険にさらされるときに身を挺して働くとの決意には敬意を表します。

しかし、今回の法律により新たに追加された外国のための防衛出動は集団的自衛権の行使によるものであり、皆様方がすでにされている国民を守るとの宣誓や平和維持活動のための海外任務についての同意とは質が異なるものです。

皆様方は外国のための防衛出動命令に応じる義務はありません。

米軍と共同した集団的自衛権の行使は、いかなる理由があるにしても、先制攻撃であり、皆様方が決意されている、日本が攻撃をされ日本国民の生命を守るために皆様がやむにやまれず出撃される場合とは大きく異なります。

この安全保障関連法は、憲法学者の殆どが、日弁連を初めとする数多くの法律家団体、法律家が憲法違反であると明言しています。

そんな違憲の法律のため、(日本のためではなく)外国のための防衛出動により、志をもって任務に就いている自衛官の皆さんの命を危険にさらすことはあってはならないのです。

より詳細な安全保障関連法と自衛官の労働問題に関する法的見解は、日本労働弁護団の自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピールをご覧下さい。

国は一人一人の自衛官に対し安全配慮義務を負います。

最高裁判決によれば、国は、公務員に対して安全配慮義務を負い、自衛官に関しても防衛出動時をも含めて安全配慮義務を負っています。ですが、今回の安全保障関連法では、集団的自衛権行使のために出動を命じた自衛官に対する安全配慮義務を尽くすことが、全く想定されていません。

自衛官の労働問題という側面からも、集団的自衛権行使のために、政府が、自衛官に対し集団的自衛権行使のための出動を命じることは許されません。

日本労働弁護団は、既に2度にわたりこの安保関連法に関して、自衛官・その家族の皆さんに向けたホットラインを開催しました(2015年9月12日、15日)。

その際にも、自衛官、自衛官の息子さんやお孫さんをもつご両親、恋人が自衛官という方から、数多くの切実なご相談がよせられました。

どれも、自分のみならず、その大切な身の回りの方を思う声でした。

この度、日本労働弁護団では、法律の施行にあわせての、緊急相談会を開催することになりました。

ぜひ、多くの皆さんに、ご相談をお寄せいただきたいと思います。

3/26 自衛隊員・家族のための安保法施行・緊急電話相談会

開催日時 2016年3月26日(土) 17時~20時

電話番号 03‐3251‐5363、03-3251-5364

日本労働弁護団は、昨年7月、国の安全配慮義務、自衛官の同意の観点から、「自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール」を発表しました。

しかし、本年3月29日の安保法制施行を前にしても、自衛官の身体・生命の安全についての対応は何らなされていません。

そこで、日本労働弁護団では、自衛隊員の労働条件などに関する不安、悩みの声を集約するとともに、可能な法的手続きを検討し、リスク回避に協力することを目的とするホットラインを開催します。

以下の不安を抱えている方、ご相談・情報提供をお待ちしています。

・危険地域への赴任を命じられた場合、拒否できるのか

・海外で自分の身に何かあった場合、家族はどうなるのか・・・等

出典:日本労働弁護団ホームページ

北海道でも、同日、弁護士の有志により同様のホットラインが開催されていますので、北海道の自衛官の皆さん、FAXやメールをご利用の皆さんは、ぜひこちらにも声をお寄せ下さい。

電話 3月26日午後3~8時 

フリーダイヤル 0120・777・239

私たち人権問題を取り扱う弁護士も、自衛官・家族の皆さんなどと一緒に、この問題に向き合い続けていきます。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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