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社会保障給付総額を削減する余地は十分ある。

島澤諭関東学院大学経済学部教授

ポイント

  1. 社会保障財政の3分の1に税金が投入されている。
  2. 税投入分は消費税率16%程度に相当。
  3. 若年世代・将来世代への付回しは月7万円。
  4. 今後の少子化高齢化の進展を考えると税投入分を圧縮することが肝要。
  5. 社会保障制度の理念・哲学から議論し改革を進めるべき。

社会保障財政(2012年度現在)を国立社会保障・人口問題研究所の社会保障統計年報データベースで見てみると、社会保障財源127.1兆円は、保険料で61.4兆円(48.3%)、(厚労省は公費負担と呼びますが)現在および将来の税金(将来の税金とはすなわち公債発行による収入のことです)で42.5兆円(33.5%)、積立金の運用収入その他で23.1兆円(18.2%)賄われているのが分かります。つまり、よく誤解されるのですが、現在の年金受給者が受け取られている年金は昔払った掛け金が利子を付けていま戻ってきているわけではないのです。公的年金を含む社会保障制度には多分に税金が投入されているのです。

現在の日本の社会保障制度は保険原理と所得保障原理とが複雑に入り組んでいて非常に分かりにくくなっています。しかし実際には保険原理を強調するのであれば税金投入は理論上不要ですし、所得保障原理を強調するのであれば保険料は不要となるはずです。

2012年度現在、社会保障の税負担部分は先に見たとおり42.5兆円で、2013年度の消費税収が13.5兆円(SNAベース)ですから、消費税率換算でだいたい16%程度に相当します。したがって社会保障の税補てん部分を全額削減するとすれば最大限で将来の消費税率を16%程度引き下げられることになります。これは現行の消費税率10%よりも高いですが公債分等を含めて考えているからに他なりません。要は現在の社会保障給付に将来世代のお金が投入されているのです。将来世代は現在の意思決定に参加できず負担だけ押し付けられているわけですが、これは日本国憲法との関係でどうなのでしょうか?

もちろん、消費税に関しては老いも若いも負担していますので、高齢者が負担する割合は社会保障への投入を認めるとすれば、総務省統計局『家計調査』から試算すると消費税収13.5兆円のうち38%程度が高齢世代の負担となりますので、高齢者の消費税負担から社会保障財政へは5兆円の投入が可能(実際にはこの消費税収は現在の収入水準での消費額から得られますので社会保障給付を減額すればもう少し少なくなります)で、現在の127.1兆円から税金負担分42.5兆円のうち高齢者の消費税負担相当分5兆円を除した37.5兆円だけ社会保障給付費総額を削減可能となります。

なぜこのようなことを敢えて指摘するかと言うと、現在の日本の社会保障制度はその多くを若い世代に付け回している実態があるからです。下記の表をご覧ください。

(出典) 厚生労働省「所得再分配調査 第4表」
(出典) 厚生労働省「所得再分配調査 第4表」

現在世代は平均(総数)すると1年当たり84万円、1月当たり7万円も受け取り超過なわけですがこの財源はどこから来ているのか、お察しですね。自らの代表を国会に送り込めない若年・将来世代から搾取した結果がこれなのです。

政府財政が破たんすればいずれにしろ社会保障への税投入分は削減されざるをえません。破綻まで待つかあるいは破綻しない方に賭けるか、どちらが合理的かは判断にお任せしますが、最近相次いで報じられている年金減額訴訟の原告団は他世代の苦境についてはどのようにお考えなのでしょうかね。まぁ、自分の生活が一番!なのは高齢者に限りませんが、あまりにも自己保身に走りますと、世代間でのHot Warが勃発しかねません。

日本の年金問題で深まる「世代間の確執」=韓国ネット「生まれた時から老後が心配」「韓国は正確に日本の後を追っている」(2015.06.09 Record China)

最後に蛇足ながら、本記事では、あくまでも社会保障給付総額の削減の話をしているに過ぎないことにご留意ください。世代内格差がもっとも深刻なのは現状では高齢世代です。豊かな高齢者もいらっしゃればそうでない高齢者ももちろんいらっしゃいます。筆者は貧しい高齢者からも豊かな高齢者からと同じように同じだけ取り上げよう!ということは全く企図していません。総額を削減したからといって貧しい高齢者に回る分までが削減されるというのは必然ではありませんから。

そうではなく、負担できる人は年齢にかかわらず負担しましょう!と至極全うな主張をこれまでもしてきていますし、これからもしていくつもりです。

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関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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