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ACL第3節、広州恒大対浦和レッズ。ズラタンのPKは”妥当”だった

清水英斗サッカーライター
(写真:築田純/アフロスポーツ)

16日に行われたACL(アジアチャンピオンズリーグ)の広州恒大対浦和レッズの試合は、2-2の引き分け。勝ち点1を分け合った。

序盤に浦和のリズムを狂わせたのは、前半5分、ズラタンのファールで与えてしまったPKだった。

リカルド・グラウに決められ、13分にも追加点を許し、浦和はいきなり0-2と苦しい展開に追い込まれた。昨季王者を相手に、そこから同点に追いつき、アウェーで勝ち点1を持ち帰ったのは見事だ。

PK判定について、相手選手があまりにも大げさに倒れたので、不可解に感じた人もいるかもしれない。だが、ズラタンのファールは決して不可解な判定ではなく、むしろわかりやすいファールだった。

広州恒大のコーナーキックが蹴り込まれるとき、ズラタンはDFメイ・ファンを、後ろから左腕で抱き込むように押さえた。明らかなホールディングの反則である。

サッカーのルールでは、「相手競技者を押さえる」行為をした場合、ファールとなり、相手チームに直接フリーキックが与えられると規定されている。ズラタンの行為は、ここに該当する。

たとえば、相手にタックルしたり、相手を蹴ったり、つまずかせたりした場合は、その行為が不用意であるか、無謀であるか、過剰な力であるかを総合的に見極め、審判がファールか否かについて判定を下すのだが、「押さえる行為」は、それらとは異なる。

反則行為のうち、「相手を押さえる」「相手につばを吐く」「ボールを意図的に手や腕で扱う」の3つは、行為の程度が判定基準に含まれていない。つまり、押さえた力の入れ具合や、体勢にかかわらず、ファール判定が下される。そのように規定されている。

私たち日本人の記憶で言えば、2014年ブラジルワールドカップの開幕戦、ブラジル対クロアチアの試合で、クロアチアDFデヤン・ロブレンのホールディングに対し、西村雄一主審が下したPKの判定が、鮮明に残っている。

ブラジルのFWフレッジは、大げさにひっくり返ったように見えた。シミュレーションの反則が妥当かもしれない。しかし、そのことと、ロブレンのホールディングは話が別だ。手は確実にかかっており、あり得るとすれば双方にイエローカードだが、どちらにせよPKの判定は覆らない。

今回のズラタンも同じようなケースだ。

広州恒大のメイ・ファンは、大げさに倒れたようにも見えるし、オーバーヘッドシュートに行こうとしてバランスを崩したようにも見える。仮に前者だとすれば、やはり双方にイエローカードが妥当だが、いずれにせよ、ズラタンのホールディングとPKは覆らない。

今回はロブレンのケースよりも、腕で押さえ込んだ行為がハッキリと見えるので、多くのサッカーファンが過去の場面を思い浮かべて理解したのではないだろうか。

付け加えるなら、このファールを犯したのが、ズラタンであったことにも言及するべきだろう。

通常、ズラタンのようなFWが、コーナーキックで相手選手をマークすることは少ない。なぜなら、FWは相手をマンマークする守備に慣れていないため、こうした事故が起こりやすいからだ。多くの監督は、そのようなリスクを取らない。

このシーンでも、阿部勇樹、遠藤航、槙野智章の3人は、相手を自分の前に置きながらマークしていたが、ズラタンだけはそうしたマークが上手く出来ず、自分の背後に回り込まれ、結果的に腕で押さえ込むしかなくなった。繰り返すが、その力の入れ具合は、「押さえる」ファールの基準とは関係ない。

技術とスピード重視の浦和は、ヘディングが強い長身の選手が少ないので、186cmのFWズラタンにマークを任せる理由はわかる。また、それ故にズラタンが出来るだけ長くピッチに立つことは、浦和にとって価値が大きい。

辛い役回りだが、今後の修正に期待したい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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