クローズアップ現代+で導入された 「グラフィックレコーディング」とは一体何だったのか?

筆者が以前IDEO Tokyoで行ったグラフィックレコーディングの様子

グラフィックレコーディングに集まった誤解

1993年4月5日からNHKで放送されているニュース・報道番組「クローズアップ現代」が、この4月より「クローズアップ現代+(プラス)」として大規模にリニューアルされました。日替わりのキャストや今までにないテーマの切り口など、変化したポイントは多々ありますが、一番の目新しい取り組みはスタジオの後方で、番組の内容をリアルタイムで描く「グラフィックレコーディング」だったのではないでしょうか。(4月11日放送回から「スケッチノーティング」と名称を変えた模様)しかしながら、この手法を取り入れてる意図が視聴者に明確に伝わっているとは言いがたい状況のようです。Twitter上では、下記のような反応が散見されました。

クロ現+で始まったらグラフィックレコーディングってやつ、ただの落書きで分かりやすくなってることは全くない

出典:Twitter

落書きみたいなのはほんとにやめてほしい。番組の品位を落としてる気がする。しかも分かりやすいならいいけどぜんぜんだし #クロ現プラス

出典:Twitter

グラフィックレコーディングが意味不明すぎる。何も分かりやすくなってない。なんじゃあれ #nhk #クロ現プラス

出典:Twitter

番組内で描かれた成果物はクローズアップ現代+のWEBサイトで確認できるようです。

筆者は今回の番組企画には関われていないのですが、2013年3月よりTokyoGraphicRecorderという名称で、グラフィックレコーディングに関する実践と研究教育の活動を行っており、現在グラフィックレコーディングの実践方法を記した書籍を執筆中でした。しかしリニューアル日から 4月12日放送回までのクローズアップ現代+視聴し、グラフィックレコーディングに関する誤解が広っている恐れを感じたので、今一度、実践者として本来の効果や使い方をシンプルに解説したいと思います。

▼筆者の運営するグラフィックレコーディング活動

TokyoGraphicRecorder

そもそもグラフィックレコーダーとは何をする人なのか?

何かを話し合おうとした時に、議題に対する複雑な構造や関係性から齟齬が生まれ、険悪なムードになってしまった経験はありませんか? グラフィックレコーダーはそんなシーンに対して、リアルタイムで場に散らばっている論点や情報を聞き分けわかりやすいグラフィックに変換し、一箇所のボードに整理します。そうして、リアルタイムに更新されていくグラフィックを参加者に見せることで、伝えにくい視点や視野のズレを提示し、参加者が快適に対話できる場に変えていく役割を担います。

↑アプリ開発のミーティングを筆者がグラフィックレコードで描く様子

グラフィックレコーディングの活用方法とは?

会議の大小やジャンルは問いません。少人数のビジネス会議から、大規模なカンファレンスやトークイベントまで、自分以外の様々な人が集まって、何かについて話しあうための環境ならば効果を発揮します。初対面だったりや立場が違うと、遠慮して言葉で言えなくなってしまうことも、グラフィックに変換して共有すると、矛盾や課題がわかりやすく浮かび上がり、建設的に意見を言い合えるフラットな場が生まれます。

言葉では齟齬が生まれそうな瞬間に、リアルタイムで議論を可視化する
言葉では齟齬が生まれそうな瞬間に、リアルタイムで議論を可視化する

すでに海外ではグラフィックレコードはじめ、コミュニケーションのプロセスをビジュアルで構築するサービスを提供するコンサルティング会社やデザイン会社、教育機関が多く登場しています。アメリカでは、Grove Consultants InternationalImage Think、シンガーポール、香港、マレーシアではSketch Postなどが有名です。またSXSWWorld Economic Forumなど、世界的に有名な場でもグラフィックレコーディングが当たり前のように活用されています。グラフィックレコーディングは、世界的に注目されている情報伝達のための手法なのです。

↑SXSWのカンファレンスにてトークをグラフィックレコードで描く様子

「クローズアップ現代+」で効果が伝わらなかった原因

先週の放送でグラフィックレコーディングが、本来の機能を果たせなかった原因として、下記の2つが考えられます。

<1>描く内容が「予想外の議論」ではなく、「想定内の番組概要」だった。

番組を視聴していた方は既にご存知と思いますが、今回行われたグラフィックレコーディングは、番組開始時に1/3ほど描かれており、時間内にあらかじめ決めている内容を仕上げているようでした。そのため、予想外の議論をリアルタイムで整理するという技術的な価値が伝わらなかったと思います。

<2>番組の尺が25分と短いため、振り返りの時間がとれない。

グラフィックレコーディングの感動は、出来上がったグラフィックそのものよりも、参加者のモチベーションや関係性の向上にあります。殺伐とした議論の齟齬をグラフィックにより解消できる瞬間は、本当に素晴らしいものです。今回の番組は25分と大変短いため、グラフィックレコードを参加者で眺めながら、意見の食い違いをじっくり解きほぐして楽しむような取り組みは難しかったのではないかと想像します。

番組の目的がグラフィックレコードに合ってなかった

そもそもの番組の目的が「議論」ではなく、「意見交換と情報伝達」だったため、グラフィックレコーディングの強みを活かせなかったのは間違いありません。そこを踏まえて、4月11日放送回からは、番組の情報を端的に伝える「まとめ」に徹するために、「スケッチノーティング(sketch noting)」と名称を変えているのではと思います。こちらも海外では人気の手法で、The Sketchnote Handbookという書籍も出ています。ただそうなってくると番組内でデジタルデバイスでリアルタイムで勢いよく仕上げる必然性はもはや無いので、丁寧にじっくり仕上げていく手法に路線変更したほうが良いかもしれません。

▼2016年4月12日(火)放送回のスケッチノーティング

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グラフィックレコーディングが適切に活用される社会になるために

  1. クロ現プラス におけるグラフィックレコーディングの「扱い」の酷さは、誰にでもすぐ判る。何のためにやっていのか不明。その「質」は、良質なものに触れたことがなければ判らない。ただの落書きにしか見えないが、そういうものだと思ってしまう。

出典:Twitter

上記のツイートの通り、本当に価値あるグラフィックレコーディングは存在するもののまだまだ広く発信不足でした。googleトレンド検索を参照すると、今回の放送で一気に知名度が広がったように思いますが、価値の本質を伴わず、誤解された認知を万人に広めることは分野そのものが死んでしまう可能生も十分ありえます。グラフィックレコーディングは、流行りものではなく、文字や言葉や映像のように、普遍的に人々のコミュニケーションに貢献し得る手段だと筆者は感じています。そのためにも丁寧に価値を伝えていけるようになることを願います。

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グラフィックレコーディングは適切な場面で活用していけば、絶大な効果を発揮する手法ですので、クローズアップ現代+が、実験的な手法を積極的に導入した動きは素晴らしいと思います。筆者は、より多くの方が適切にグラフィックレコーディングを活用していけるように、もっと意識的に情報を発信していこうと思っています。

最後に、グラフィックレコーディングはファシリテーションスキルと関連性が深く、一つの会議の中だけではなく、組織変革のきっかけとしても機能しうる可能性もあると言われています。しかし残念ながら、まだ国内では目立った事例が少ないこともまた事実です。より効果的な事例を思想と技術を合わせて紹介するべく、近くドイツでコミュニケーションプロセスデザイナーとして活躍中の井口奈保さんに取材を予定しているので、追って発信していきたいと思います。どうぞお楽しみに。