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韓国も注視する日本プロ野球の開幕と相次ぐ不祥事

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
開幕した日本プロ野球。韓国はどう見て報じているのか(写真:アフロ)

3月25日に開幕した日本プロ野球。その幕開けは韓国でも報じられている。「大谷、開幕戦で敗北」(『STAR NEWS』)、「大谷、開幕戦で7イニング9K3失点、初勝利失敗」(『OSEN』)など、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平のことも大きく取り上げられていた。

ただ、今季日本でプレーする選手が千葉ロッテマリーンズの李大恩(イ・デウン)や東北楽天ゴールデンイーグルスの金無英(キム・ムヨン)しかいないこともあって、テレビ中継はなかった。昨季まではケーブルテレビの『Sky Sports』などが福岡ソフトバンクホークスに在籍していた李大浩(イ・デホ)の試合を中継していたのだが・・・・・・。

とはいえ、韓国の日本プロ野球への関心が激減したわけではない。むしろ元巨人・清原和博の覚せい剤逮捕、野球賭博、円陣・練習などでの選手間の金銭授受といった問題は韓国でも大きく取り上げられている。

「“終わることない雑音“読売巨人、野球賭博に続き拠出金論乱」(『News1』)

「危機のNPB、選手間での金銭授受まで」(『OSEN』)

「阪神も拠出金問題発覚、ゼニ麻疹を患う日本球界」(『エックスポーツ』)

「麻薬、賭博、現金授受。相次ぐスキャンダルに揺れる日本野球界」(『SBSスポーツ』)

韓国メディアや韓国の野球ファンたちが日本球界の不祥事に敏感にならざるを得ないのは、韓国球界も昨季、違法賭博スキャンダルに襲われたこととも無関係ではないだろう。まして容疑をかけられた選手の中には、韓国球界を代表する2人の名投手の名前もあった。ふたりとも海外のカジノでの賭博行為とはいえ、常習性がある者に対しては刑法で厳しく処罰する韓国だけに大きな問題になった。

(参考記事:「日本球界でも活躍した名投手たちが違法賭博でイメージ失墜」)

また、自チームの公式戦での勝敗に絡んで選手たちが現金のやり取りをしていたことも、韓国球界には他人事には映らない。というのも、やり取りの手法は異なるものの、韓国球界にも勝敗に絡らんだ金銭授受があったからだ。

別名「メリット」と呼ばれるものがそれだ。メリットとはチームの勝敗や個人の成績に応じて発生する特別ボーナスで、言わば勝利給のようなもの。韓国の各球団は1試合当たり少なくとも500万ウォン、多くて3000万~4000万ウォンの“メリット”を掛金として用意して選手たちの発奮を促してきた。韓国の野球規約ではメリット支給が以前から一種の不当競争行為だとされてきたが、どの球団も暗黙の了解として採用していただけに、どこかおざなりにされてきた。

(参考記事:「不正“メリット”を根絶!!クリーン・ベースボール改革に乗り出したKBO」)

ただ、このメリット。とある球団では選手とコーチングスタッフ間の分配比率をめぐって意見衝突が起きているし、とある地方球球団ではメリットの支給方式をめぐって選手と球団フロントとの間に摩擦も起きている。こうした事態を受けてKBOは今年から不正な“メリット”の支給を禁止する項目も設けているが、韓国球界からすると日本球界で起きた金銭授受問題は決して他人ごとのようには映らないのである。

「日本で論乱となっている“勝利給集め”、KBOは問題ないか」という特集記事を組んだ『イルガン・スポーツ』も報じている。

「ペナントレースの順位争いが激しくなれば、秘密裏に勝利手当をかける球団が出てくる可能性もあるだろう。 球団の自浄努力がいつになく必要な時期だ。NPB(日本野球機構)の事例は、韓国のメリット支給が今後大きな論争に飛び火する恐れがあることを示唆している」と。

程度ややり方の違いがあるとはいえ危惧されるのは、日常的な金銭授受が野球賭博や八百長の温床にもなりうる危険性を孕んでいるからだろう。特に韓国はプロスポーツの世界で不正賭博と八百長事件が絶えない。そうしたこともあって、韓国は日本プロ野球界の相次ぐスキャンダルをまるで「明日はわが身」と言わんばかりに注視しているのかもしれない。

(参考記事:「不正賭博と八百長が絶えない韓国プロスポーツ界の闇」)

いずれにしても、韓国球界にとって日本球界はときにライバルであり、ときに参考モデルであり、常に何かと気になって意識せざるを得ない存在でもある。そういう意味では、昨今相次いだ日本球界の不祥事は韓国にとっても「対岸の火事」ではなく、自分たちもいずれ直面する問題かもしれない。韓国にとって日本球界は単なる競争相手ではないのだ。

(参考記事:「アジア版ヤンキース対レッドソックス!? 宿命と因縁の日韓野球激闘史」)

ちなみに韓国プロ野球は日本より遅れること1週間。4月1日に開幕する。韓国球界ではどんなニュースが開幕の話題になるのだろうか。注目しておきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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