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“場外騒動”も!! イ・ボミのメジャー挑戦前に知っておきたい韓国リオ五輪代表争いの熾烈な裏側

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
現在は世界ランク15位のイ・ボミ(写真は2011年)(写真:アフロスポーツ)

3月31日からスタートするアメリカ女子ゴルフツアー(LPGA)のメジャー大会『ANAインスピレーション』。宮里藍、宮里美香、横峯さくら、上原彩子、野村敏京、大山志保ら日本勢の活躍に期待が集るが、昨季日本ツアーの賞金女王イ・ボミにも熱視線が集る。

何しろ今季はメジャー優勝とリオデジャネイロ五輪出場を目標に掲げているのだ。『ANAインスピレーション』はLPGA今季初のメジャー大会であり、イ・ボミが日本ツアーを欠場してまでアメリカに渡ったのは、ポイントの高いアメリカ・ツアーで結果を残して世界ランキングを上げ、リオデジャネイロ五輪出場に一歩でも近づくためでもある。

そんな彼女がいよいよ動き出すのだ。日本のイボマーたちはもちろん、韓国のイ・ボミファンたちも注目している。

(参考記事:「ゴルフ女王イ・ボミは韓国でも人気1位なのか」

ただ、イ・ボミがその目標を達成するためにはライバルは多い。『ANAインスピレーション』には世界ランク1位のリディア・コなど世界トップクラスの選手が出場するし、とりわけ同じ韓国人選手たちがイ・ボミの前に大きく立ちはだかっている。

例えば世界ランク2位(以降、3月22日発表のランキングに基づく)のパク・インビだ。近年の強さは圧倒的で安定感もある。今季はまだ優勝がないが、韓国では“絶対王者”と言われる存在だ。イ・ボミとは同じ1988年生まれで、2009年の韓国ツアー『Nefs Masterpiece2009』ではイ・ボミにプレーオフの末敗れているが、今ではその実績と強さではるか上を行く。

(参考記事:「韓国女子ゴルフ史上最強の絶対王者パク・インビのスゴさとは!?」

世界ランク5位のキム・セヨンも強い。もともと韓国時代から新人離れした強さを誇っていたが、昨季はLPGA新人賞に輝き、今季も先日の『JTBCファウンダーズ・カップ』を制した。韓国では“逆転の女王”とも呼ばれている逸材だ。

(参考記事:「米国女子ツアー新人王のキム・セヨンが“逆転の女王”と呼ばれる理由

しかも、今季はこのキム・セヨンと同じくLPGA2年目のキム・ヒョージュ(世界ランク12位)、ジャン・ハナ(世界6位)ら若い世代が開幕から好調を維持している。LPGA今季開幕戦の『ピュアシルク・バハマLPGAクラシック』を制したキム・ヒョージュは以前から“ゴルフ神童”と呼ばれて期待を集めてきたが、今季はジャン・ハナの快進撃も凄まじい。

(参考記事:「“ゴルフ神童”と呼ばれる韓国女子ゴルフ界の若きエース」

『コーツゴルフ選手権』と『HSBC女子チャンピオンズ』を制して今季すでに2勝を飾っているジャン・ハナ。ただ、その陰で疑惑と誤解にも悩まされている。

発端は『HSBS女子チャンピオンズ』開幕前だった。大会出場のためにシンガポール入りした空港エスカレーターで、同じく韓国人ゴルファーのチョン・インジが落ちてきたキャリーバックにぶつかって負傷した。

チョン・インジと言えば、昨季、日米韓のメジャー大会を制して一世を風靡した人気者。今季からアメリカに主戦場を移し世界ランク9位にある。

(参考記事:「日米韓のメジャー大会を制した“若き女王”は現役女子大生だった!!」

ただ、チョン・インジにぶつかったキャリーバックの持ち主はジャン・ハナの父親だった。当初は偶発的なアクシデントとして扱われたが、全治2週間の負傷を負って棄権したチョン・インジを尻目に、ジャン・ハナは優勝。ふたりがリオ五輪の韓国代表枠を争っている関係もあって、韓国ネット上では双方のファンが対立。1994年リレハンメル五輪女子フィギュア出場権を巡って起きた“ナンシー・ケリガン襲撃事件”を彷彿させるとして、「ジャン・ハナはトーニャ・ハーディンクか」との論争まで起きたほどだ。

(参考記事:「米国で快進撃を続けるジャン・ハナに降りかかった疑惑と誤解」

韓国では別名“シンガポール空港事件”とも言われるこの一件が暗示させるのは、“場外論争”まで起こるほど、韓国では女子ゴルフのリオデジャネイロ五輪出場権争いに注目が集っていること。リオデジャネイロ五輪では、世界ランク15位以内に2人以上いる国には最大4人の出場権が与えられるが、韓国では「リオチケットは4枚だけ。世界9位のチョン・インジも不安」(『中央日報』)、「リオ行きチケット戦争で“熱いグリーン”」(『東亜日報』)など、その争いが熾烈化しているのだ。

そんな競争の中に満を持して身を投じるイ・ボミ。イ・ボミは現時点で世界ランク15位にあり、今後の活躍次第では十分射程圏内にあるが、韓国メディアの予想は厳しい。大方の予想を集約すると、現時点ではパク・インビは“五輪当確”、キム・セヨンとジャン・ハナは“ほぼ内定”らしく、残り1枚をヤン・ヨンヒ(世界ランク7位)、チョン・インジ、ユ・ソヨン(世界ランク11位)、キム・ヒョージュらが争うとしており、「アメリカはともかく、日本でプレーするイ・ボミは可能性が希薄だ」ともしている。韓国メディアはイ・ボミに対してかなりシビアなのだ。

(参考記事:「イ・ボミのオリンピック出場がこんなにも難しいワケ」

はたしてイ・ボミはそうした下馬評を覆すことができるだろうか。日本ツアー賞金女王としての意地とプライドを賭けて挑む彼女の活躍に期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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