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2クラブがACL8強進出でもKリーグに影を落とす“審判買収“の全北スキャンダル

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
浦和レッズを下してACL8強進出を決めたFCソウル(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「PK戦の末に劇的にACL8強へ」(『MKスポーツ』)「奇跡のFCソウル、PK戦の末に浦和を下し8強」(『news1』)、「血が滲むようだった韓日戦、最後に笑ったのはFCソウル」(『ソウル新聞』)「恨(ハン)が残るACLで歴代級のソウル劇場が開かれた」(『NAVER』)。

これは昨日のAFCアジアチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦・浦和レッズ対FCソウルの2回戦の結果を報じた韓国メディアの見出しの数々だ。延長戦でも決着がつかずPK戦の末に手にした勝利に、興奮を隠せないでいるようだ。

ただ、いつもならこれ見よがしに「Kリーグのプライドを守った!!」と鼻息が荒くなりそうなところだが、そのトーンはどこかぎこちない。サッカー専門誌『Four Four Two KOREA』のホン・ジェミン編集長も、「サッカーで受けた傷を、一瞬だがサッカーで忘れることができた」という。

「Kリーグが世の中に与えてしまった傷は深い。痛みが激しい。ただ、今日のソウル劇場は3時間だけその痛みを忘れさせてくれる麻酔剤になってくれた」

傷と痛みとはほかでもない。5月24日に明らかになった全北現代の審判買収疑惑だ。2013年のこととはいえ、現在Kリーグ2連覇中で親会社ヒュンダイ自動車の強力なバックアップのもと、Kリーグ屈指のビッグクラブへの道を走っていた“絶対王者”の不祥事は、「全北スキャンダル」と呼ばれ、連日のように続報が報道されている。

「Kリーグのリーディングクラブ全北、イメージ失墜」(『エクススポーツ』)、「名門クラブの審判買収に凍りつくKリーグ」(『朝鮮日報』)、「全北スキャンダルの波紋拡散、Kリーグ危機に」(国営放送『KBS』)。

全北現代は5月24日にメルボルン・ビクトリーに勝利してACLのベスト8進出を決めたが、「8強進出でも笑顔なき全北現代」(『マイデイリー』)、「ACL8強でも全北の危機は終わらない」(『NAVER SPORTS』)とされており、今後の進展次第ではチェ・ガンヒ監督とクラブ代表が辞意の可能性も示唆しているが、ファンの反応は冷ややかだ。

「即刻降格させるべき」「全北がこれまで積み上げてきた記録もタイトルも勝ち星も、すべて没収すべき」「スカウトが個人的にやったと?それを信じる人が世の中にいると思っているのか?」「韓国プロサッカー連盟は断固として断罪すべき。さもなければKリーグは本当に死んでしまう」

現在、今回の審判買収に関与した2名の審判と全北現代のスカウトを在宅起訴した釜山地検は「心証はあるが物証はない」として3人の追加召喚はなく、今後は裁判などを通しで真相を解明していくとしている。

全北現代はクラブ内部での調査を徹底し、近日中に釈明資料を韓国プロサッカー連盟に提出する予定。それを受けて韓国プロサッカー連盟は全北現代への処罰を検討するとしているが、果たして・・・。

韓国メディアの中には「これぞKリーグのチカラ、ソウル-全北ともに8強進出・・・日本Jリーグは全滅」(『インターフットボール』)と報じるところもあったが、「Kリーグのチカラ」という言葉に説得力はなく、むしろ空しく見えるのは私だけではないと思うのだが・・・・。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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