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レンジャーズ同僚韓国人選手が明かしたダルビッシュ復活勝利の意外なエピソード

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ピッツバーグ・パイレーツ戦で670日ぶりの白星を上げたダルビッシュ有(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

5月28日に行われたピッツバーグ・パイレーツ戦で670日ぶりの白星を上げたテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有。その復帰を喜び歓迎するのは、日本の野球ファンだけではない。同じくテキサス・レンジャーズのチームメイトの韓国人野手チュ・シンスも、韓国の大手ポータルサイトNAVERで連載する『チュ・シンスのMLB日記』でこう賞した。

「(クレイトン・)カーショーがどんなときでもカーショーであるように、ダルビッシュもやはりダルビッシュだった。今日、ダルビッシュが復帰した。どれだけこの日を待ったことだろう。すでにマイナーリーグで完璧な実力を示していたが、それでも僕の経験に基づくとメジャー復帰のときは微妙な緊張感があるもの。ダルビッシュもそれに近い感情があったはずだが、彼は以前通りブレることはなかった。彼らしい投球をした」

(原文記事:『チュ・シンスのMLB日記』)

チュ・シンスは韓国でも絶大な人気と信頼を誇るメジャーリーガーだ。韓国でメジャーリーグ人気の火付け役となったのは、90年代後半にロサンゼルス・ドジャースで“コリアン・エクスプレス”と呼ばれたパク・チャンホだが、そのメジャー人気を再興させたのは2005年から野手としてメジャーで活躍するチュ・シンスである。近年、メジャーでは韓国人野手が増えているが、そのキッカケを作ったのはチュ・シンスとも言われている。

(参考記事:韓国人メジャーリーガーの系譜と近年著しい野手増加の理由

そのチュ・シンスが歓迎していることもあってか、韓国ファンの反応も好意的だ。ダルビッシュの復帰を伝える韓国メディアの記事のコメント欄を調べてみると、「手術後の復帰戦で5イニング7奪三振・最速158km…やはり怪物だ」「脱アジア級だ」とのコメントが並んでいた。

もともと韓国でダルビッシュの評価は高い。韓国メディアは「メジャーリーグ最高のスライダーを持つ選手」、「現役最強最高のアジア人先発選手」と評してきたし、同じ野球選手たちもダルビッシュの名を語ることを躊躇わない。2009年のWBCで対決した韓国人打者が、「ダルビッシュのスライダーは本当に素晴らしく手が出せなかった」と脱帽したこともある。

(参考記事:“韓打日投戦”の今季MLB。韓国で評価が高い日本人メジャーリーガーは?

興味深いのは、そんなダルビッシュが今回の復帰のマウンドで韓国のとある選手との対戦を待望していたということだ。前出の連載コラムでチュ・シンスはこんなエピソードを紹介している。

「トニー・バーネットにボールを預けてマウンドを下りたダルビッシュと一緒に試合を見ながらいろんな話をしたが、彼がとても興味深いことを言った。ピッツバーグ相手の復帰戦が決まってから自分はカン・ジョンホと対決したかったのだと。瞬間、耳を疑った。それで“本当?韓国のカン・ジョンホを相手にしたかったということ?”と尋ねてみると、ダルビッシュは“イエス”と答えた。自分が日本の投手で、ジョンホが韓国選手だから対決したいと言ったかどうかはわからない。そこまでは聞かなかったので」

昨季終盤のケガで今季開幕に間に合わなかったカン・ジョンホだが、5月6日のセントルイス・カージナルス戦で復帰。いきなり2本塁打を放つなど好調だが、29日の試合は大事をとって出場しなかった。実はダルビッシュとカン・ジョンホの初対決は韓国でも注目されており、「カン・ジョンホ対ダルビッシュ、韓日スーパー対決が実現か」(『MKスポーツ』)とされていただけに、韓国のメディアとファンも肩すかしを食らった感もある。

もしかしたらチュ・シンスのコラムはそんな韓国ファンへのリップサービスも含まれていたかもしれないが、ダルビッシュの復活によって、韓国メディアによる「メジャーリーグ韓日スーパー対決」報道はこれからますます熱を帯びてくるだろう。とりわけダルビッシュは韓国のファンたちの間でも好感度が高く、「骨のある男」と称されているだけに、最高のキャスト復活と言えるだろう。

(参考記事:「日本のネトウヨを一喝する骨のある男!!」と絶賛。ダルビッシュ有が韓国でも人気なワケ

何しろ以前に本欄でも紹介したが、韓国メディアの中には今季MLBを「2016年メジャーリーグ“韓打日投”」(京郷新聞』) 、「期待される韓日の投打対決」(『スポーツ朝鮮』)と見ているところも多い。ダルビッシュの復帰はその対決図式をさらに盛り上げること必至というわけだ。

今季メジャーリーグは日本人が投げ、韓国人が打つ!? ヤフーニュース個人 2016/04/02

いずれにしても、韓国でも話題になったダルビッシュの復帰。韓国ファンからすると、リュ・ヒョンジン(ロサンゼルス・ドジャース)やチュ・シンスの完全復活も待ち遠しいというのも本音らしく、チュ・シンスの連載日記にはこんなコメントもぶらさがっていた。

「MLB日記、面白いのですが、日記はもういいです。野球選手なのだからそろそろ野球で語ってください」と。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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