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男子ゴルフも韓国勢が席巻中。彼らはなぜ日本に来たのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨年は2度目の賞金王に輝き、今季も絶好調なキム・キョンテ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

韓国ゴルフと言えば、イ・ボミやキム・ハヌルなど女子ゴルファーたちの活躍が目覚しいが、今年は男子ゴルフも元気だ。男子ゴルフの日本ツアーは先週の『〜全英への道〜 ミズノオープン』を含め7試合を消化したが、韓国人ゴルファーの優勝は5回を数える。しかも、そのうち3回の優勝が同一人物。昨年の賞金王キム・キョンテだ。

キム・キョンテと言えば、2010年に韓国人初の日本ツアー賞金王に輝き、その勝負強さから“鬼”と呼ばれた人物。石川遼との競争の末に掴んだ賞金王だった。

その直後、雑誌の取材でロングインタビューする機会があったが、“鬼”という愛称とは対照的な、穏やかで柔和な表情が印象的だった。「世のビジネスマンたちからすると僕たちは羨ましい職業でしょう」と、プロゴルファーという職業をCEOに例えるところにビジネス感覚も備えていることを伺わせた。

(参考記事:「プロゴルファーは会社で言えばCEO」と語るキム・キョンテから見た日韓ゴルフ比較

ただ、そんな彼も数年間はスランプに苦しんだ。アメリカ、日本、韓国を転戦したせいで調子を崩し、飛距離アップを目指したスイング改造の模索もあったが、昨年は見事に復活。6年ぶりの日本ツアー賞金王に輝き、前出した通り、今季も早くも3勝しているのだから、もはや完全復活と言えるだろう。韓国メディアも「日本のグリーンの支配者」(『朝鮮日報』)と報じている。

特筆すべきは近年、このキム・キョンテに続けとばかりに韓国の男子プロたちの日本進出が急増していることだ。2011年賞金王に輝いたのはペ・サンムンだし、数年前にはKPGA所属の韓国人ゴルファー100名弱が日本ツアーのQTを集団受験していたことが判明したこともあった。昨年はツアー5勝で2度目の賞金王を獲得したキム・キョンテを含め9勝が韓国勢だった。

今年の『関西オープン』で日本ツアー初出場・初優勝を成し遂げてニュースになったチョ・ビョンミンも、昨年末に日本ツアーQTに出場し、25位で出場資格を得て、今季から日本ツアーと韓国ツアーを並行している。現在、日本には多くの韓国男子プロがやって来ているが、チョ・ビョンミンのような選手は多い。

思い出すのは、そうした流れをキム・キョンテがいち早く予言していたことだ。前出のロングインタビューのとき、彼は言っていた。

「僕たち韓国人選手が海外に飛び出すのは、国内では限界があるからです。賞金総額の規模は小さく、極端な話、男子の場合、ゴルフだけで生活できているプロは年間賞金ランクのトップ10ぐらいまででしょう。だから海外に飛び出す。世界にはもっとも大きなチャンスが広がっていますから」

実際、韓国男子ツアーの近年の低調ぶりは深刻だ。韓国男子ゴルフは2008年の20大会・賞金総額114億ウォン(約11億円)をピークに、年々規模が縮小し、今季行われるKPGA(韓国プロゴルフ協会)の公式戦はわずか12試合。賞金総額も89億ウォン(約8億9000万円)にしかならない状況にあるという。

(参考記事:下り坂を転がり続ける韓国男子ゴルフの悲しい現実

そんな停滞ぶりに見切りをつけて次々と海外に飛び出す韓国人選手たち。最近は日本やアメリカだけではなく、EPGA(ヨーロピアンツアー)を主戦場とする選手も急増中で、きっちり結果も残している。

昨年は『BMA PGAチャンピオンシップ』に優勝したアン・ビョンフンがEPGA新人王に輝き、今年は4月に昨季韓国ツアー新人王のイ・スミンが『深センインターナショナル』で優勝、5月にはワン・ジョンフンが『ハッサン2世トロフィー』と『モリシャス・オープン』で2週連続優勝を成し遂げている。いずれも20代前半と若い彼らの活躍は、「韓国男子ツアーの新しい希望」(『聯合ニュース』)と報じられている。

今季KPGAツアー公式戦のギャラリー数が昨年より平均で2000人近く増えていると言うが、それも彼ら海外で活躍する選手たちのおかげで男子ゴルフのメディア露出が増えているおかげだと言う。喜ばしいことなのに複雑な厳しい現実が暗い影を落としている。

もっとも、彼ら韓国人ゴルファーを受け入れる日本男子ツアーとて活況に沸いているわけではない。全盛期の1983年には46試合もあったが、今季のツアー数は海外2試合を含む計26試合。約4分の1となる7試合を終えた状態で、日本人選手の優勝が『パナソニックオープン』の池田勇太のみというのも寂しすぎるだろう。「日本ツアーが韓国から出稼ぎに来ている選手たちの草刈場になってしまっている」と言われても仕方ないだろう。

(参考記事:日本は韓国ゴルファーたちの草刈場!? 韓国選手たちがこぞって来日してくる理由

そんな中で今日6月2日から迎える今季初のメジャー大会『日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ』。果たして日本人選手は意地を見せるか、またしてもキム・キョンテら韓国勢が優勝カップを手にするのだろうか。男子プロたちのプライドを賭けた戦いにも注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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