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“爆買い”中国マネーに侵食される韓国サッカー。「Kリーグ・エクソダス(大脱出)」の前兆か!?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
シーズン途中でFCソウルを離れ、中国行きを選んだチェ・ヨンス監督(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

韓国サッカー界があっと驚く突然のニュースだった。6月21日、KリーグのFCソウルを率いるチェ・ヨンス監督が中国スーパーリーグの江蘇蘇寧の監督に就任することが発表されたのだ。

チェ・ヨンス監督と言えば2011年からFCソウルを率いた、今年で42歳のカリスマ青年監督。監督2年目でソウルをACL準優勝に導き、今年4月にはKリーグ史上最年少・最速スピードで通算100勝も達成。以前インタビューした際、「イビツァ・オシム監督はもっとも影響を受けた監督のひとり」と語っていた元Jリーガーの青年監督は、“若き名将”とも言われていた。

(参考記事:Kリーグの名将になった元Jリーガー、チェ・ヨンスの監督力

今季もリーグ戦で首位争いを演じており、ACLでは浦和レッズを下してベスト8進出。準々決勝では中国の山東魯能との対決となり、悲願のACL制覇にも意欲を見せていた。それが一転してシーズン途中にもかかわらずソウルと惜別。中国の江蘇蘇寧の監督に就任することになったのだから、ファンもメディアも驚きを隠せなかった。(個人的にはその後任が、昨季まで浦項スティーラーズを率いていたファン・ソンホン監督ということも驚きだった)。

もっとも、チェ・ヨンス監督の中国進出説は昨季もあった。昨年7月、同じく江蘇蘇寧から年俸20億ウォン(約2億円)という条件でオファーを受けたことが明るみになったが、そのときは「シーズン途中に離れるのは無責任な選択」として断っている。が、それでも引き続きラブコールを送り続け、今度は契約期間2年6ヶ月、推定年俸350万ドルを含め毎年500万ドルを保証するという破格の好条件を提示してきた江蘇蘇寧の誘いは断れなかったようだ。

「1年前はチームがどん底にあったが、今は安定した。否定的な見方はあることは理解しているが、江蘇蘇寧行きを決めたのは挑戦だ。世界的な監督たちと面白いゲームをしてみたい」と、チェ・ヨンス監督も語っている。

もっとも、メディアやファンは少なからず衝撃を隠せない。Kリーグは昨季もシーズン途中に各クラブ有力選手が海外から引き抜かれ、メディアやサポーターたちの間では「もはやKリーグはアジアの”セーリング・リーグ”に転落してしまうのか」との嘆きもあった。

(参考記事:Kリーグはこのまま“セーリング・リーグ”に落ちぶれるのか

また、高額年俸の誘惑に負けて「Kリーグ・エクソダス(Exodus=大脱出)」が起きているという指摘もあった。今回のチェ・ヨンス監督の中国行きがまたしても「Kリーグ・エクソダス(Exodus=大脱出)」の前兆になるのではないかと気を揉むファンも多い。

それにしても目を見張るのは韓国人監督の中国進出の数である。

現在、中国スーパーリーグでは、元韓国代表コーチのパク・テハ監督が延辺富徳、かつて大宮アルディージャを率いたチャン・ウェリョン監督が重慶力帆、中国通で知られるイ・ジャンス監督が長春亜泰、そしてロンドン五輪銅メダルでブラジル・ワールドカップでは韓国代表を率いたホン・ミョンボ監督が杭州緑城を率いている。チェ・ヨンス監督の江蘇蘇寧行きで韓国人監督は5名となり、「中国は今、韓国人監督全盛時代」(『NEWSIS』)、「中国スーパーリーグで韓流の風」(『京郷新聞』)とも報じられているほどだ。

しかも、いずれも高額契約。チャン・ウェリョン監督は5億7000万ウォン(約5700万円)、パク・テハ監督は11億ウォン(約1億1000万円)、イ・ジャンス監督は13億6000万ウォン(約1億3600万円)、ホン・ミョンボ監督は17億ウォン(約1億7000万円)という高年俸でスカウトされたと言われている(いずれも韓国メディアによる推定)。

韓国では昨今、芸能界でも“チャイナ・マネー”が威力を発揮して、韓国のドラマ制作現場やアイドル文化にまで多大な影響を及ぼし始めているとされているが、韓国サッカー界ももはや“チャイナ・マネー”を無視できなくなったと言ってもいいだろう。

(参考記事:韓国芸能界を根底から覆す可能性も…“チャイナ・マネー”の衝撃

だが、中国進出した韓国人監督がすべて成功しているわけではない。6月22日現在、パク・テハ監督率いる延辺富徳は3勝7敗4分で12位、チャン・ウェリョン監督率いる重慶力帆は2勝6敗6分で13位、イ・ジャンス監督率いる長春亜泰は2勝8敗4分で15位、ホン・ミョンボ監督率いる杭州緑城は2勝9敗3分で16位と最下位に甘んじている。中国サッカーは結果が出なければ即監督のクビが飛ぶことで有名だが、韓国人監督も決して安泰ではない。むしろかなり苦戦を強いられている。

そんな中でチェ・ヨンス監督は江蘇蘇寧で結果を残せるだろうか。江蘇蘇寧と言えば、元チェルシーのラミレスらブラジル勢を擁することでも知られているが、韓国の“カリスマ”青年監督が彼らとどのような関係を築くかにも注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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