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「ゴルフに対する考え方が変わった」恩師が明かしたイ・ボミ快進撃のヒント

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
守りのゴルフから攻めのゴルフへと変化したというイ・ボミ(写真は2011年)(写真:アフロスポーツ)

昨季日本女子ゴルフツアー賞金女王のイ・ボミが、『アース・モンダミンカップ』を制した。昨季に続く大会連覇で、今季2勝目。その結果は、「イ・ボミ、モンダミンカップ優勝」(『聯合ニュース』)、「イ・ボミ、日本通算17勝達成、賞金ランク1位に復帰」(『イーデイリー』)と、韓国メディアでも報道された。

日本男子ツアーの『ISPSハンダグローバルカップ』ではパク・ジュンウォンが優勝したこともあって、「イ・ボミ、パク・ジュンウォンが日本ツアーで揃って優勝」(『スポーツ京郷)「“恐ろしいイ・ボミ”、“凄い”韓国軍団」(『ソウル経済』)と報じるところもあったほどだ。

それにしても感嘆するのは、今季のイ・ボミの安定感だ。今季3月の『ヨコハマタイヤPRGRレディス』から数えて、日本ツアー11試合連続でトップ5入り。ツアー新記録を打ち立てている。知人のゴルフ記者は日本の選手と比べて韓国人選手は「大きく崩れずスコアを落とないから最終的には上位にいる」と語っていたが、昨季から続くイ・ボミの強さはそれだけではないだろう。

(参考記事:女子ゴルファーたちが見て、感じて、語った!! 日韓女子ゴルフ比較

ひとつのヒントになるのは、イ・ボミの専属コーチであるチョ・ボムス氏が言っていたことにあるかもしれない。10代の頃からイ・ボミを指導しているチョ・ボムス氏曰く、「近年、ボミの成績が飛躍的に向上したのは彼女のゴルフに対する考え方に変化がある」という。

そして、そのひとつの象徴的なシーンが3月の全米女子ツアー『ANAインスピレーション』でもあったという。チョ・ボムス氏は「イ・ボミが “守るゴルフ”から“攻めのゴルフ”に転じるようになったことを示すシーンだ」と話していたが、奇しくもこの『ANAインスピレーション』のあとは常にベスト5入りを果たしていることを考えると、「攻めのゴルフでも大崩れしない」のが今季のイ・ボミの強さなのかもしれない。

(参考記事:イ・ボミと名物コーチの二人三脚物語/守りのゴルフから攻めのゴルフへ

そしてそれは韓国時代の彼女にはなかった強さでもある。同じ韓国人選手で、韓国では“元祖美女ゴルファー”と呼ばれるユン・チェヨンに独占インタビューしたときも「ボミは良く知っている1つ年下の妹。ボミが日本に行く前は一緒をしていました」と言いながら韓国時代よりもパワーアップした妹分の強さに舌を巻いていたほどだった。

そんな安定した強さのせいだろうか。韓国メディアもここにきてイ・ボミのリオデジャネイロ五輪出場の可能性についてふたたび論じるようになった。

世界ランク上位4位に与えられる韓国のリオ五輪出場枠はこれまでパク・インビ(3位)が本命で、残る3枠をキム・セヨン(5位)、チョン・インジ(6位)、ヤン・ヒヨン(8位)、ジャン・ハナ(9位)、ユ・ソヨン(11位)などが争い、世界ランク15位(6月21日時点)のイ・ボミは序列7番目だけに可能性はかなり低いとされてきたが、ここにきて本命のパク・インビが左手親指のケガで欠場や棄権が相次いでおり、パク・インビ本人も「ケガが回復しなかったら、国のためにリオ五輪を辞退することもある」とコメント。イ・ボミにも可能性が出てきたのである。

『中央日報』も、「パク・インビが五輪に出場しない可能性があり、イ・ボミにもチャンスが来るかもしれない。イ・ボミが全米女子オープンで優勝すれば、「一糸のようだった可能性が現実になるかもしれない」としているほどなのだ。

今季開幕前は韓国メディアからリオ五輪候補の8~9番手とされたイ・ボミ。『ANAインスピレーション』では「結果的にイ・ボミにとっては得るものはなかった」と酷評されたこともあった。

それでも韓国メディアの取材に応じ、「私よりうまい選手も多く、出場資格を得る可能性が低いことは私もよく知っています。ただ、それでも最後までリオ五輪を諦めない」と健気に語ったイ・ボミの姿に、もしかしたらかの国の記者たちも応援したくなったのだろうか。

(参考記事:母校の100勝達成記念行事に参加したイ・ボミ「アメリカ進出はない。これからも日本でプレー」発言に込められた真意

果たして、イ・ボミは最後のチャンスとなる全米女子オープンで大逆転劇を演じてリオデジャネイロ五輪行きの切符を手にすることができるだろうか。最後の大一番を前にイ・ボミは一旦、韓国に戻るそうだが、韓国滞在中は当然チョ・ボムス氏のもとを訪ねるはずだ。そこで入念にスイングチェックをしたり、一緒にコースに出てアライメントを確認したあと、決戦の地カルフォルニアに乗り込むのだろう。

安定感抜群の“攻めのゴルフ”で夢を掴む。リオデジャネイロ五輪を目指したイ・ボミのラストスパートがいよいよ始まる。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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