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韓国人メジャーリーガーの先駆者パク・チャンホが語った「アジアから世界へ」(前編)

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
『アジアスポーツマネジメントセミナー』に登場したパク・チャンホ氏

先日6月29日に東京・汐留の電通ホールで行なわれた『アジアスポーツマネジメントセミナー』。電通とFIFAマスター運営教育機関であるCIES(スポーツ研究国際センター)が共催し今回で4回を迎えたセミナーに、個人的に注目していた人物が登壇した。韓国のパク・チャンホ氏だ。前編と後編の2回に渡ってその様子を紹介したい。

パク・チャンホ氏と言えば、かつて“コリアン特急”の愛称でその名を轟かせた韓国初のメジャーリーガーだ。日本のオリックス・バファローズでもプレーし、2012年11月に現役を引退。39歳でユニフォームを脱ぎ、現在は第二の人生を送っている。最近は韓国の人気バラエティ番組『チンチャ・サナイ(「男の中の男」という意味)』にも出演している。

(参考記事:韓国人メジャーリーガーの先駆者パク・チャンホは今、どこで何をしているのか)

そんな彼が今回のセミナーのためにはるばるロサンゼルスから来日すると聞いて、その話を聞きにセミナーに行ってきた。韓国でもシンポジウムに出席することが少ない人物だけにどんな発表をするのか興味があったが、最初のエピソードから興味深かった。

なんでもパク・チャンホは「小学校の野球部に入部すれば、野球部員たちは練習前に生徒や父兄から差し入れされた即席ラーメンを食べることができたので野球を始めた」という。それは冗談としても幼い頃は野球という存在すら知らなかったらしい。

それも無理はなかったかもしれない。1973年生まれのパク・チャンホがまだ小学校に上がる前の韓国には高校野球や実業団野球しかなかった。この時代、韓国では「サッカーは母国愛、野球は地元愛を刺激した」とも言われていたが、パク・チャンホ少年にとっても野球はさほど身近なものではなかったようだ。

そんなパク・チャンホ少年にとって野球が身近になるキッカケが、1982年にスタートした韓国プロ野球だったという。韓国ではその翌年にプロサッカー(Kリーグ)もスタートしているが、その背景には軍時クーデターで政権を握ったチョン・ドゥファン大統領の後押しもあったと言われている。

(参考記事:集中連載/Kリーグvs韓国プロ野球 プロ化を後押ししたのは軍事政権)

その過程ではさまざまな政治的思惑もあったとされているが、「テレビでプロ野球を見たり、慰問に訪れる選手たちを見て、プロ野球に憧れを抱くようなった」と語ったパク・チャンホ氏の言葉は、プロ化によって多くの子供たちが夢を抱くようなった事実を伺わせた。パク・チャンホ氏は、韓国プロスポーツ元年の影響を受けた“最初の世代”というわけだ。

興味深かったのは、そんなパク・チャンホ氏がロサンゼルス・ドジャースにスカウトされることになった過程である。なんでも1991年にロサンゼルスで行なわれた「韓日米青少年野球大会」(パク・チャンホ氏談)で活躍したときにドジャース関係者から初めてスカウトの打診を受けたが、「当時は東洋の選手がMLBでプレーする前例がなかったので断った」という。

「ちなみに韓日米青少年野球大会には日本の松井秀喜選手も出場していたと記憶しています」

そう笑いつつ、大会後に視察したMLBの公式戦を見てメジャーリーガーへの夢を初めて抱いたという。

「ドジャー・スタジアムの最上階のスタンドで試合を見守り、選手たちは蟻のように小さかったですが、5万人の大観衆が熱狂する球場全体の光景を目の当たりしながら、“自分があのマウンドに立ったらどうなるだろう”と思うと興奮して鳥肌が立ちました。それが初めてメジャーリーガーになろうと夢を描いた瞬間でした」

それから25年。今では多くの韓国人選手のメジャーリーグで活躍しているが、その礎を築いたのはパク・チャンホ氏だとされている。韓国ではパク・チャンホ氏に憧れて野球を始め、今ではプロになったという選手も多い。かつて韓国プロ野球に影響を受けた少年は、影響を与える側になっている。

(参考記事:韓国人メジャーリーガーの系譜と近年著しい野手増加の理由

ただ、そんなパク・チャンホ氏も「彼がいなければ今の私はいなかった」と言う。果たして、その人物とは・・・・・・。それは日本が誇るトルネード、野茂英雄氏だった。(後編に続く)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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