Yahoo!ニュース

リオ五輪ゴルフ出場を熱望するも、クラブの代わりに銃を手にする韓国の“飛ばし屋”の今

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨年のプレジテンツ杯には松山とも共闘したペ・サンムン(一番左)(写真:ロイター/アフロ)

リオデジャネイロ五輪で112年ぶりに正式種目として復活するゴルフ。ただ、男子ゴルフはトップ選手たちの辞退者が続出している。韓国も世界ランキング42位で、昨季の日本男子ツアー賞金王のキム・キョンテが出場を辞退した。

キム・キョンテも辞退した多くの選手同様、ジカウィルス感染症(ジカ熱)への不安から五輪出場を見送ることを決めたわけだが、もしもあの選手ならどんな結論を下しただろうかと思う。

あの選手とは、ペ・サンムンのことだ。2011年に日本ツアー賞金王のタイトルを獲得し、2012年から活躍の場を移したアメリカ・ツアーでも通算2勝。日本で言うところの石川遼や松山英樹のような存在だ。

だが、ペ・サンムンのオリンピック出場は叶わなかった。オリンピック出場どころかアメリカPGAツアーからも一時撤退を余儀なくされている。ペ・サンムンは現在、韓国の国民の義務である兵役を務めるために韓国にいるのだ。彼の兵役を巡っては告発問題まで起こったほどだった。

(参考記事:国民の務めを破棄!? 韓国ゴルフ界のスター選手が巻き込まれた兵役問題)

もしもペ・サンムンが今もPGAツアーでプレーしていれば世界ランクでもかなり上位にいたはずだし、韓国選手の中では1、2位のポジションにあったことだろう。年齢的にも脂の乗ったプロゴルファーである彼は、誰よりもリオ五輪出場を熱望していた。以前、ペ・サンムンを取材したとき、彼はこんなことも言っていた。

「韓国代表になるということは、ナラガ・プルンダということ。リオ五輪代表に選ばれたら、絶対行かなきゃダメでしょう」

ナラガ・プルンダを日本語にすると、「国が俺を呼んでいる」という感じだろうか。その言葉には独特の重みがあるが、ペ・サンムンもきっと「国が呼んでいる」と言ってリオ五輪出場を表明していたことだろう。選手としての名誉欲や挑戦心もさることながら、五輪にこそペ・サンムンが抱えた問題解決の道が残されていただけに、余計に意欲を見せていた。

というのも、メダル獲得なら兵役免除という恩恵を得ることもできるのだ。2年間の兵役で選手生活に“空白”が生じてしまうことを考えれば、 “ジカ熱”も恐るるに足らずだったかもしれない。

(参考記事:韓国スポーツと兵役/韓国アスリートたちが五輪やアジア大会に執念を燃やすワケ)

現在、ぺ・サンムンは現役兵として江原道・原州(ウォンジュ)市に駐屯する陸軍で現役兵として軍務に励んでいる。かつて韓国男子ゴルフの中でもっともマスターズ優勝に近いとされてきた男が、兵役のせいでクラブの代わりに機関銃を握っていると思うとその現実は複雑だが、辞退者が続出する現状を果たしてペ・サンムンはどんな心境で見つめているのだろうか。

(参考記事:韓国スポーツと兵役/世界で活躍するトップ選手も強制帰国を余儀なくされる現実)

おそらく兵舎で観戦することになるであろうリオデジャネイロ五輪のゴルフ競技を見ながら、言い知れぬ空しさを感じることになるに違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事