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ネットからついには現実世界にまで…韓国社会に蔓延する“女性嫌悪”の正体

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
江南で起きた通り魔事件の現場(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

今年2016年の干支は「丙申(ひのえさる)」だが、韓国ではこれを「ピョンシン(丙申)ニョン(年)」と呼ぶ。韓国語の同音異義語を当てはめ、こじつけだが漢字に置き換えると「病身女」といった具合になるわけだが、年始には男性同士の飲み会の席などで「ピョンシンニョン」が笑いのネタになっていたという。SNS上では「ピョンシンニョン冗談NOキャンペーン」といったものが行われたほどだ。

それほど韓国では、極論が多いネットを中心に“女性嫌悪”がイシューとなった。ネット上では女性を卑下する言葉が次々と作られており、代表的なのが“キムチ女”だ。もともとは「デート費用はすべて男性が負担して当たり前」と考える図々しい女性を指す俗語だったが、ネット上ではいつの間にか韓国女性全般を指す言葉として使われている。

(参考記事:“キムチ女”に“寿司女”…韓国男性たちに蔓延する「女性嫌悪」とは

他にも「ルーザー(loser)女」(「身長180cm未満の男はルーザー」などと発言したある女性が発端)、「味噌女」(味噌と糞の区別がつかないバカな女という意味)など、女性を卑下するスラングは多い。

驚くのは、そんな言葉に共感を示す男性が多いことだ。女性政策研究院の調査によると、54%の男性がこういった言葉に共感を示しており、8.6%の男性がSNSなどで拡散行為まで行っているという。

それでもネット上の話に限定されるのであれば、まだ看過できる問題だったかもしれない。

去る5月17日には、ソウル江南(カンナム)のとある男女共用トイレで、通り魔殺人事件が発生してしまった。被害者は23歳の女性。飲み会の途中でトイレに行くために席を立った彼女は、偶然出くわした34歳の男に、いきなり左胸や肩、背中などを刃物で複数回刺されて、死亡したのだ。2人にはまったく面識がなかった。

男は事件現場となったトイレ付近で1時間半ほど居座り、女性を待ち構えていたという。精神異常者だったという話もあるが、逮捕された男が語った犯行動機も当時、社会的な物議をかもし出した。

(参考記事:“女性嫌悪”が招いた最悪の通り魔殺人事件、その残酷すぎる犯行動機とは

ネットはもちろん、現実社会においても女性嫌悪が止まらない原因のひとつとして、近年の韓国女性の活躍が下地になっているという見方がある。周知の通り、韓国大統領は女性であるし、フィギュア女王キム・ヨナゴルフ界の絶対女王パク・インビをはじめ、世界で活躍する女性アスリートの活躍も目立った。

また、女性の社会進出の影響があるともされている。ソウル市が発表した「2015年ソウル市事業体調査主要結果」によると、ソウルには女性が代表を務める会社や事業体が27万228社もあるという。毎年増加傾向にあり、全体の33.25%は女性社長が経営しているというのだ。前出の女性政策研究院も「働く男性が社会的成功、職場内の競争から追いやられ、そこに伝統的な優越感などが相まって葛藤が大きくなっている」と分析している。そういった男性側のストレスが女性嫌悪につながっているというのだ。

韓国における「女性嫌悪」は、韓国人だけの問題ではない。訪韓する外国人が増えている近年、韓国では外国人観光客、とりわけ女性観光客のトラブルが増えているという。オーストラリアでは、「女性観光客にとって危ない国」ランキングのトップに韓国の名が挙がるようになってしまった。

(参考記事:外国人女性の被害続々…“女性観光客にとって危ない国”に落ちた韓国

今年に入って、ますます加速しているように見える韓国社会の女性嫌悪。今のところ、解決の糸口は見つかっていないようだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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