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WBCでまたもや老将に頼るしかない韓国のドタバタ監督人事の背景

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨年の『プレミア12』で韓国を優勝にも導いたムキ・インシク監督(写真:ロイター/アフロ)

来年3月に行われる第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。日本は早々と小久保裕紀監督体制を固めて着々と準備を進めているが、韓国もようやくチームを率いる代表監督が決まった。

悲願の初優勝を目指す韓国を率いるのは、キム・インシク監督だ。そう、2006年と2009年のWBCで韓国代表を率いた監督である。昨年11月の『プレミア12』も監督を務め、準決勝では小久保ジャパン相手に逆転勝利を飾ってその勢いのまま優勝した韓国の指揮官だけに、もはやその顔と名前は日本でもお馴染みだろう。韓国で“国民監督”と呼ばれる指揮官は、まさに近年の日韓野球激動史を語る前では欠かせない人物でもある。

(参考記事:アジア版ヤンキース対レッドソックス!? 宿命と因縁の日韓野球激闘史

その実績から韓国では“短期決戦の達人”とも言われている名将だが、その選任の背景には韓国球界の複雑な事情もあるらしい。

そもそもキム・インシク監督は2009年シーズンを最後に現場から退き、2010年からKBO(韓国プロ野球機構)の技術委員長を務めていた。前出の『プレミア12』も率いる予定ではなかったのだ。

というのも、そもそもKBOの規約では、「代表監督は前年度の韓国プロ野球優勝監督、もくしは準優勝監督からKBO総裁が選任する」となっていたのだ。この規約に基づいて2013年WBCでは三星ライオンズのリュ・ジュンイル監督が選ばれ、2014年仁川アジア大会でもリュ・ジュンイル監督が韓国代表を率いて金メダルに輝いた。

規約通りに進めるなら『プレミア12』もリュ・ジュンイル監督になるはずだったが、「ほかの球団の選手たちを把握するには時間が少なさ過ぎる」と固辞。2014年準優勝のネクセン・ヒーローズのヨム・ギョンヨプ監督も、「監督3年目の自分は “しっかりやれる”という確信が持てない」と固辞。その結果、白羽の矢が立ったのがキム・インシク監督だったのだ(『プレミア12』で優勝しただけに結果オーライだったが)。

複数の韓国メディアの報道によると、水面下で行われた今回のWBC監督選びもプロ球団の監督たちから「代表監督の兼任性は負担が大きい」との声が相次ぎ、難航したという。ほかならぬキム・インシク監督もKBO技術委員長として現役監督たちに打診したが、固辞されたらしい。結果、KBOは理事会を開き、「大会開催時期と比重を総合的に判断してKBO総裁が代表監督を選任する」と規約を改定。昨日9月5日に、キム・インシク監督を指名されたわけだ。

そんなキム・インシク監督の元にはイ・デホや“タトゥースラッガー”のパク・ビョンジュなどMLBでプレーする野手たちから早速祝福の連絡とWBC参加への意志表明もあったらしい。近年、韓国球界は野手たちのMLB進出が増えたが、監督としては心強いかぎりだろう。

(参考記事:日韓対決 in メジャーリーグ!! 今季は日本人が投げ、韓国人が打つ!?

ただ、キム・インシク監督は就任会見の席で懸念材料も口にしている。「選手構成について考えると、頼れる右腕投手がいないことが一番の悩みだ。MLBでプレーするオ・スンファンが切実だ」とまで語ったほどだ。

元阪神で今季からセントルイス・カージナルスでプレーするオ・スンファンだが、彼の韓国代表入りは簡単ではない。昨年末に発覚した海外での賭博行為によりKBOから懲戒処分を受けているのだ。オ・スンファンを起用するためにはKBOが自ら下した処分を覆さなければならず、また、その決定がファンや国民から理解を得られるか・・・・・。

(参考記事:日本球界でも活躍した名投手たちが違法賭博でイメージ失墜

いずれにしても数え歳で今年で70歳になるキム・インシク監督には、これから解決せねぱならない問題が山積みだろう。韓国メディアの中には「またキム・インシク?韓国野球の新しいリーダーシップ不在」(『OSEN』)と指摘する声もあるし、高齢監督にWBCのプレッシャーは耐えうるかと懸念する声もある。

韓国は地元ソウルに今季オープンした国内初のドーム球場『高尺(コチョク)スカイドーム』で第1ラウンドを戦える地の利があるが、東京で行なわれる第2ラウンドに駒を進めるためにはオランダ、チャイニーズ・タイペイらと同居するB組を突破しなければならない。

果たしてキム・インシク監督はどんな選手構成で臨むのか。

ちなみに以前キム・インシク監督にインタビューした際、韓国人なら誰もが抱くイチローへの愛憎を口にしつつ、こんなボヤきもあった。

「日本は代表チームを作ろうと思えば、3、4つは作れるほど選手層が厚い。対して韓国は1チームが限界です。選手層で大きな開きがある」

それでもWBCで“侍ジャパン”と互角に渡り合った韓国。韓国の“国民監督”は、来年のWBCでもきっと日本にとって手ごわい相手になるに違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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