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気になる千葉ロッテマリーンズのイ・デウン(李大恩)の軍入隊。過去には泣く泣く帰国した選手も・・・・

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
千葉ロッテでの活躍で韓国代表にもなった(写真提供:SPORTS KOREA)

千葉ロッテマリーンズの投手であるイ・デウン(李大恩)が兵役のために今季限りで退団へ。各種スポーツ新聞やポータルニュースでも報じられただけに、このニュースに接した方々は多いだろう。現役選手が「兵役に行かなければならないのか」と感じた人たちも多いかもしれない。

イ・デホやオ・スンファンは兵役免除

ただ、韓国では成人男子に約2年間の兵役義務があり、スポーツ選手や芸能人であっても兵役に就かなければならない。基本的に韓国の成人男子は適齢期になると徴兵検査を受けなければならない。

(参考記事:【まるっとわかる韓国の兵役】徴兵制は韓国男児の義務!)

スポーツ選手の場合、オリンピックでのメダル獲得、アジア大会では金メダルを獲得すれば「兵役免除」の恩恵に授かることができるし、ベスト4進出した2002年サッカーW杯でのベスト4進出メンバーや第1回WBCでの準決勝メンバーたちは特例的に「兵役免除」になった。韓国人初のメジャーリーガーであるパク・チャンホは08年アジア大会での金メダル獲得で、現在はメジャーリーグでプレーするチュ・シンスや元阪神のオ・スンファンはWBCで、元ソフトバンクのイ・デホは08年北京五輪金メダルで兵役問題を解決した。

もっとも、オリンピックやWBCで成績を残すのは簡単ではない。08年北京五輪以降、野球は五輪種目でなくなり、イ・デウンはWBC出場歴もない。そうしたこともあって、韓国のアスリートの中には、「兵役は選手として“死んだ時間”だ」と嘆く者も多い。

兵役期間中でもスポーツに専念できる2つの方法

だが、兵役を務めながら選手生活を続ける方法はある。

例えば別名“尚武”と呼ばれる国軍体育部隊である。尚武は身分は軍人でも朝から晩までスポーツ漬けの毎日を送ることができる。

最近は義務警察制度を使って警察庁管轄の野球団に属して兵役期間中のブランクを埋めようとする選手も多くなった。警察庁野球団は韓国プロ野球のフューチャーリーグ(2軍リーグ)に属しており、試合感覚を錆付かせることもないからだ。

そのためイ・デウンもこの警察庁野球団での入隊が濃厚だと複数の韓国メディアが報じ、本日9月23日に行われた義務警察・野球特技志願者選抜試験の受験者名簿にも彼の名があることを確認しているが、韓国メディア『SBS』や『聯合ニュース』の速報によると、イ・デウンは試験を受けなかったという。

イ・デウン関係者によると「千葉ロッテの選手としてイースタン・リーグの試合があったため、元々身体検査は受けられなかった」そうだが、警察庁野球団のテストを見送ったのは、どうやら彼の経歴も関係しているらしい。

イ・デウンは高校卒業後に渡米して07年8月にシカゴ・カブスと契約。メジャー経験はなく約8年のマイナー生活を経て、2015年から千葉ロッテマリーンズでプレーしており、韓国でのプロ経験がないのである。サッカーでもイングランドのプレミアリーグでプレーするソン・フンミンが同じような問題を抱えているが、イ・デウンの経歴もちょっぴり複雑なのだ。

(参考記事:リオ五輪ピッチに泣き崩れたソン・フンミンの涙のワケと“最悪のシナリオ”)

過去には兵役逃れスキャンダルも

しかも、KBOは今年1月の理事会で「海外進出後、国内に復帰して国内プロ球団と契約していない状態で尚武や警察庁野球団に入団した選手は、フューチャーリーグに出場できない」という規定を新たに設けた。

この新規定があるため警察庁野球団側はイ・デウンに選抜するのは難しいと伝え、イ・デウンも警察庁野球団への入団を諦めたというのが最新情報のようだが、気になるのはイ・デウンの今後である。

警察庁入隊が難しくなった今、イ・デウンはどんな形で兵役問題を解決するのだろうか。最近では男子ゴルフのペ・サンムンが兵役のためにアメリカPGAツアーからの撤退を余儀なくされ、現在はクラブの代わりに銃を握っているが・・・。

(参考記事:リオ五輪ゴルフ出場を熱望するも、クラブの代わりに銃を手にする韓国の“飛ばし屋”の今)

いずれにしても韓国のスポーツ選手たちにとって、兵役問題は自身の選手生命にも直結しており、とてつもなくナイーブな問題だ。兵役を不正に逃れようとして発覚する事件も多々起きる。

韓国スポーツ界で記憶に新しいのは、2004年に起きた大量のプロ野球・兵役逃れスキャンダルだ。その巧妙な手口で兵役を逃れようとしたプロ野球選手が51名もいたことが明らかになり、大きな問題になった。

不正を働いてまで兵役を逃れようとした彼らの行動は決して褒められるものではなく、当然のごとく国中から非難を浴び、事件発覚後は即座に入隊を命じられたが、逆に言えばそこまで追い詰められていたということでもあるだけに、キム・デウンの胸中を思うと今後が気になってならない。

彼にとって最善の、いや次善の解決策であっても早急に見つかることを願わずにはいられない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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