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“ノーベル賞コンプレックス”から抜け出せない韓国の「嘆き」と「やる気」と「空回り」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ファン・ウソクのES細胞論文不正事件(2005年)(写真:ロイター/アフロ)

「やはり」といってもいいのかもしれないが、今年もゼロだった。韓国人ノーベル賞受賞者の数のことだ。

生理学・医学賞、物理学賞、科学賞の科学分野はもちろん、平和賞、経済学賞、そして最後に発表された文学賞にも韓国人の名前は一人も挙がらなかった。

日本は大隅良典氏が生理学・医学賞を受賞し、3年連続の快挙を達成。そんな日本をうらやむように、「2016年ノーベル賞受賞者発表、日本は25人目…韓国はいつ?」(『韓国経済』)、「ノーベル賞強国、日本の秘訣は?」(『中都日報』)、「日本ノーベル科学賞、根っこは“サムライ”、幹は“旭日旗”」(『イーデイリー』)など、韓国メディアは日本絡みの見出しをずらりと並べている。

「“ノーベル賞強国”日本に対する恥ずかしさと羨ましさ」という記事を掲載した『ノーカットニュース』は、「毎年迎えるノーベル賞シーズンになると、縮こまるしかないのが私たちの姿だ。基礎科学分野では候補者リストに名前すら挙がらない悲惨な水準だ」と嘆いていたほどだ。

興味深かったのは、ノーベル賞の選定手続きについてまで分析記事が出ていることだ。韓国がノーベル賞を取れないのはまるで候補者を委員会に推す“韓国人推薦者”が少ないからだといわんばかりの記事で、なんとも違和感を覚える。

(参考記事:ついに「“韓国人推薦者”を増やすべきだ」とまで主張するようになった韓国ノーベル賞コンプレックスの今

また、「ノーベル賞はもらわないほうがいい」(『韓国経済』)というコラムでは、「韓国の研究開発投資は世界最高水準だ。しかしその成果は見当たらない。その多くの投資がどうなったのか知りたい状況だ」と指摘している。

実際に韓国は国内総生産(GDP)比のR&D投資が4.29%(2014年)で、断然の世界1位だという。日本は3%半ば、アメリカ3%以下、中国は2%強、ヨーロッパは2%以下だ。以前、世界的な科学誌『Nature』が「お金ではノーベル賞を得られないことも悟らなければならない」と忠告したことがあったが、それと同じ論調だろう。

(参考記事:“ノーベル賞コンプレックス”に苦しむ韓国に世界的科学誌が突きつけた厳しい指摘とは?

一方で、ノーベル賞を目指す人材を養成すると発表していた韓国の未来創造科学部(「部」は日本の「省」に相当)の計画が、思い通りに進行していない事実も明らかになっている。

世界上位1%の優秀な科学者300人を誘致するという未来創造科学部の計画は、今年7月末時点で53%の160人の誘致に留まっており、しかも、そのうち121人は韓国国内で活動する科学者で、海外から誘致できた科学者は39人(在外韓国人6人を含む)に過ぎなかったというのだ。

また未来創造科学部は「2017年までにノーベル賞にチャレンジできる科学人材3000人を養成する」ともしていたが、「10月現在、目標対比実績は72.1%の2164人」と明かした。その2164人という数字には、研究支援・経営支援・制作企画本部のような行政組織の人たちも含まれているため、実際の数字はさらに低いともいわれている。

そもそも「そういうことではない」という気がしないでもないが、いずれにしても韓国の対策が何もかもがうまくいっていないことは確かなようだ。

「ノーベル賞間違いなし」とまでいわれたファン・ウソクの捏造事件は2005年のことだが、それから10年以上が過ぎた現在も、これといった候補者がいない現実がある。“ノーベル賞コンプレックス”を克服しようという思いが強すぎるためか、天才待望論も少なくない。昨年も “天才少女”騒動が起こっている。

(参考記事:ハーバードとザッカーバーグが惚れ込んだ頭脳!? 韓国の“天才少女”騒動

今年もノーベル賞を受賞できなかった韓国だが、いつか受賞する日は来るのだろうか。近年は韓国屈指の名門・ソウル大学の世界ランキングも下落しており、今のところ明るい未来は想像しづらいが…。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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