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微妙だった日本人選手の評価を再び復活させた高萩洋次郎の「専売特許」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
優勝を決めた大一番にも出場した高萩(写真提供:FA photos)

久保建英のJリーグ史上最年少出場記録の更新に名古屋グランパスのJ2降格など、週末のサッカー界は話題に事欠かなったが、それらのニュースは韓国でも報じらせている。

例えばFC東京U-23の久保建英に関しては、「2001年生まれの久保、Jリーグ最年少デビュー」(『MKスポーツ』)、「15歳5カ月の久保、Jリーグ最年少デビュー」(『スポーツ朝鮮』)と大手メディアも取り上げいたほどだが、久保と同じくバルサ下部組織に所属するイ・スンウの名を枕詞にしながら報じるメディアも多かった。

「イ・スンウのバルサ後輩である日本の久保、15歳でJリーグ最年少デビュー」(『金剛日報』)、「イ・スンウと“同門修学”の久保、Jリーグ最年少デビュー」(『聯合ニュース』)といった具合だが、イ・スンウと久保は今から何かと比較される運命にあるのかもしれない。

(参考記事:日本の久保建英だけじゃない!! 韓国のイ・スンウとペク・スンホはなぜ、バルサの一員になれたのか

名古屋グランパスのJ2降格についても報じられているが、韓国メディアがより注目しているのは「オリジナル10」の降格理由よりも、来季の監督人事だ。『スポーツ朝鮮』も、「ル・グエン監督、J2名古屋の指揮棒を取るか」と、名古屋の新体制に注目している。名古屋には期限付き移籍とはいえ元韓国代表のハ・デソンやイ・スンヒなどがいるだけに、彼らの今後にも気を払わずにはいられないのだろう。

このように日本発のサッカー情報が韓国に多く伝わる一方で、日本に伝わってくる韓国のサッカー情報は少ないような気もするが、今回はぜひとも紹介したい韓国サッカー情報がある。FCソウルに所属する元日本代表・高萩洋次郎についてだ。

高萩が属するFCソウルは11月6日のKリーグ・クラシック(1部リーグ)最終節で、全北現代を下し、今季のチャンピオンに輝いた。純粋な星取り勘定では全北現代(20勝2敗16分け)だが、全北は審判買収問題で勝ち点9の剥奪処分を受けたため、勝ち点67。一方のFCソウルは21勝10敗7分けで勝ち点70とし、2012年以来4年ぶりの王座に輝いた。

このFCソウル優勝の原動力として、韓国ではブラジル人FWアドリア―ノ、モンテネグロ人FWデヤン、元韓国代表のパク・ジュヨンの頭文字をとった「ア・デ・パク」ら攻撃陣の充実や、スペイン人DFでキャプテンを務めたオスマールの統率力、さらには韓国代表DFクァク・テヒらの強固な守備が挙げれているが、高萩洋次郎の働きを評価するメディアも多い。

例えばサッカーメディア『インターフットボール』は、「高萩は専売特許である繊細なキックと鋭い技術でFCソウルの中盤を牽引した」と評価している。高萩が韓国メディアの間で評価が高いことは以前も紹介したが、高萩はKリーグ優勝クラブの主軸を担ったことでその評価をさらに高めたと言えるだろう。

(参考記事:サッカー専門誌による日本人Kリーガーたちへの容赦なき“格付け”4段階査定評価

実際、今季の高萩はシーズンを通じて安定した活躍を披露。リーグ戦32試合に出場。そのうち26試合が先発出場で、フル出場は16試合あった。

FCソウルは今季、シーズン途中にチェ・ヨンスが中国スーパ―リーグの江蘇蘇寧に引き抜かれ、7月からファン・ソンホン監督が指揮を執っているが、1999年Jリーグ得点王であるファン・ソンホン監督も高萩に信頼を寄せ、彼の実力を高く買っていたわけだ。1得点4アシストと攻撃ポイントは少ないが、前述した韓国メディアの評価のように高萩は「中盤の核」だった。

それだけに期待したいのは高萩効果でKリーグにおける日本人選手の評価が再び高まることだ。

海本幸治郎(東京ヴェルディ)が2001~2003年に城南一和(現・城南FC)に移籍してKリーグ初の日本人選手となって以来、前園真聖、戸田和幸、大橋正博、岡山一成、高原直泰、馬場優太、家長昭博、島田裕介、エスクデロ競飛王などがKリーグでプレーしてきたが、近年は日本人選手の立場が若干微妙だった。

元大宮アルディージャで今季開幕を釜山アイパークで迎えた渡邉大剛も、韓国サッカーに馴染めず現在はカマタマーレ讃岐に所属する。

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”

そんななかで高萩がKリーグ優勝クラブの主軸として活躍し、現地メディアからも高い評価を受けていることの意義は大きい。スマホで記念写真を自撮りしたり、優勝トロフィーを掲げる高萩の歓喜の姿は、彼がFCソウルというクラブにすっかり馴染み、今や欠かせぬキーパーソンになっていることを伺わせる。

韓国でその存在感をハッキリと示した高萩洋次郎。その挑戦にはこれからも注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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