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崔順実ゲートが韓国スポーツ界で働いた「悪事」と野放しにした朴大統領の「責任」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ふたりの関係を風刺するポスター(写真:ロイター/アフロ)

日本でも連日のように報じられている“崔順実ゲート”。朴槿恵大統領に対する韓国国民の怒りの度合いがどれほどのものなのかは、週末にソウルなど韓国各地で行われた大規模なデモ行進の映像で日本にも伝わったことだろう。今週には検察による朴大統領への事情聴取も行われるが、今や“崔順実ゲート”は単なるスキャンダルだけでは収まらない国家的“事件”となっている。

その事件の経緯や“謎のおばさん”の破天荒な暮らしぶり、さらには朴槿恵大統領とその重鎮たちの失態などは日本のテレビや雑誌で「これでもか!!」と言わんばかりに報じられているが、ここでは今回の事件が韓国スポーツ界に与えた悪影響にフォーカスを絞る。。

そもそも崔順実氏の影が韓国で問題視されるようになったのは、スポーツ界での事件が口火となった。

乗馬選手である崔順実氏の娘の2014年アジア大会メンバーをめぐって、崔順実氏の息のかかった一派たちが、韓国乗馬協会の人事に介入したことが、キッカケだったのだ。

最近はそのせいで韓国馬事会も強制捜査されるとばっちりを受けている。なんでも崔順実氏の娘を2020年東京五輪に送り出すためのプランもあったというのだから、驚きだ。

(参考記事:崔順実ゲートはここから始まった!!サムスンも出資して娘を東京五輪に!? KRAにも検察のメス

とばっちりを受けたという点では、日本のワイドショーでも紹介された『ヌルプム体操』でも被害者が出た。

“文化界の皇太子”とされたチャ・ウンテク氏など崔順実の影響下にあった文化観光部(日本の文部科学省にあたる)の責任逃れも甚だしい見解のせいで、朴槿恵大統領の指南役を務めていた“ミス・コリア出身のマッスル美女”チョン・アルムにもさまざまな疑惑がつきまとった。

本人がチャ・ウンテク氏や文化観光部とのやり取りを公開したことで疑惑は晴れたが、クールビューティーなイメージに傷がついたのは間違いないだろう。

(参考記事:マッスル美女チョン・アルム、“崔順実ゲート”のとばっちり!?)

ただ、最もダメージを被ったのは韓国スポーツ界全体かもしれない。

というのも、朴槿恵政権はスポーツ行政に力を入れていて、韓国スポーツ界にはびこる八百長、暴力、非理、連盟組織などの私物化を一掃する「スポーツ界4大悪撲滅キャンペーン」を実施してきた。2014年には「スポーツ4大悪申告センター」を設けており、これまで580件の申告があったという。

これがなければ4月に発覚した「スケート韓国代表候補のセクハラ飲酒事件」や、リオデジャネイロ五輪後に明るみになった「水泳オリンピック代表の更衣室盗撮事件」なども明るみにならなかったかもしれない。

そういう意味では機能していた部分もあったが、このキャンべーンを主導した文化観光部が崔順実氏とその一派の影響下にあり、「ミル財団」や「Kスポーツ財団」といった文化スポーツ関連組織が不正の温床となっていたのだ。

しかも、崔順実氏の愛人ホストとされるコ・ヨンテ氏は、フェンシングの元韓国代表。そんなこともあって、韓国ではスポーツ界全体がダーティーなイメージに陥ってしまった。

個人的に愕然としたのは、崔順実氏とその一派は平昌五輪の会場建設や運営にも深く関与していたということだ。大会マスコットの選定でも文化体育観光部とその背後で糸を引いていた崔順実氏の傍若無人な影があり、その息がかかった文化観光部からの圧力もあって、大会組織委員長で“ナッツ・リターン問題”で有名なった大韓航空(KAL)の韓進グループ会長である趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏も、大会組織委員会の会長の座から退くことを迫られたという。

まさに相次ぐ事件のせいで、大きなダメージを受けてしまった韓国スポーツ界。その状況はかなり深刻で、1年数カ月後に迫った平昌五輪ムードもまったく盛り上がらない。それどころか、開催を危ぶむ声まで出ているほどだという。

(参考記事:崔順実ゲートに揺れる朴槿恵政権。その政治的混乱が平昌五輪にもたらす“危機”

そうした不満と不安の声が、スポーツ界だけではなく、政界、財界、芸能界はもちろん、学生など若い世代からも噴出し、その怒りの表れが週末に行なわれた大規模なデモだったわけだが、はたして朴槿恵政権は群衆たちの声にしっかりと耳を傾けているのだろうか。

言うまでもなくスポーツの世界では結果はもちろん、ファンやメディアからの支持を得られなければ「更迭」や「辞任」は免れない。まして不正に関与していたのなら、「解任」どころか「永久追放」という厳しい処罰も下されるだろう。

韓国のメディアや国民たちは、少なくとも朴槿恵大統領の「続投」は望んではいないような気もする。ただ、これといった「救援投手」も、流れを変えてくれそうな「スーパーサブ」もいないのが、今の韓国でもあるのだが…。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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