Yahoo!ニュース

キム・ヨナに圧力をかけ土下座パク・テファンを脅迫していた“体育界の大統領”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
フィギュア女王キム・ヨナも間接的ながら圧力を受けていた!?(写真:ロイター/アフロ)

韓国を揺るがしている“崔順実スキャンダル”。その余波はまったく収まりそうもなく、さまざまなメディアで崔順実容疑者の傲慢ぶりや、その娘の不正と破天荒な暮らしぶり、さらには朴槿恵大統領とその重鎮たちの失態などが次々と明らかになっているが、韓国の国民的英雄と言えるスポーツスターたちも“崔順実スキャンダル”の被害者であったことが、韓国メディアのスクープ合戦によって次々と明らかになっている。

例えば日本のワイドショーでも頻繁に紹介されている『ヌルプン体操』だ。

ミス・コリア出身の“肉感マッスル美女”チョン・アルムがさまざまな疑惑にさらされイメージダウンするとばっちりを受けたことは以前紹介したが、彼女が朴大統領を指導する『ヌルプン体操』のお披露目映像をよく見てみると、とある国民的アイドルの姿もあることがわかる。

その愛くるしいルックスから“国民の妹”“国民の姪”とも言われてきた新体操界のソン・ヨンジェだ。

ソン・ヨンジェは文化体育観光部の指示を受けた韓国体育協会の要請で『ヌルプン体操』発表会に参加したが、朴大統領と崔順実容疑者がアンチエイジングの施術を受けていた病院の常連だったこともあって、一部ネットユーザーから「ソン・ヨンジェも崔順実ラインの人脈だったか」と疑われるハプニングも起こった。

この『ヌルプン体操』お披露目会にはフィギュアスケートのキム・ヨナにも、文化体育観光部からの参加要請があったらしい。ただ、当時、キム・ヨナは平昌五輪とリレハンメルユース五輪の広報活動で忙しく、丁重に断ったという。

(参考記事:韓国のフィギュア女王キム・ヨナは今、何をやっているのか)

だが、韓国の国営放送KBSのニュース報道によると、崔順実容疑者の姪で横領容疑で逮捕されたチャン・シホ容疑者はキム・ヨナの“塩対応”に激怒。自分の側近に「キム・ヨナは背いた。あの子は文化体育観光部に背いた。よくない」と言っていたらしい。

注目すべきはその後に文化体育観光部が主催・選定した『2015スポーツ英雄』の受賞候補者から、キム・ヨナが外れたことだ。事前のネット投票では候補者12人中最高の82.3%の支持を集めていたキム・ヨナだったが、最終審査で「年が若い」という理由で選ばれなかった。

こうした背景もあって韓国メディアは、崔順実容疑者とその一派がキム・ヨナにも圧力をかけていたとみている。

と同時に、以前から一部で囁かれていた、かの有名なキム・ヨナと朴大統領の不仲説も再燃。ふたりの不仲説は2015年夏のとある行事で取り沙汰され、多くのメディアで取り上げられてさまざまな憶測を呼んだが、ここにきてそれを裏付けるよう事実が明らかになったわけである。

何よりも衝撃的なのは、韓国水泳界の英雄パク・テファンへの処遇だ。

パク・テファンと言えば、日本ではすっかり“土下座スイマー”のイメージが先行してしまっているが、土下座までしてオリンピック出場を嘆願した彼に対し、崔順実容疑者の息のかかった文化体育観光部の高官が脅迫まがいの発言をして、パク・テファンにリオ五輪出場を断念させようとしていたことが明るみになったのだ。

そもそもパク・テファンはドーピング問題で国際水泳連盟から18カ月間の選手資格停止処分を受け、それを消化したあとも「3年間は国家代表として活動できない」という規定にこだわった大韓体育会の意向もあって、なかなかリオ五輪出場が決まらなかった。

その過程で起きたのがあの土下座嘆願でもあったのだが、その前の5月に大韓体育会を管轄する文化体育観光部の高官がパク・テファン関係者を呼び出してこんなことを言っていたというのである。

韓国のテレビ局SBSがパク・テファン関係者から入手した音声データによると、「テファンがリオ五輪に諦めればスポンサーを融通してやる」としつつ、「将来的に大学の教授もしたいだろ?でも、大韓体育会とケンカした奴を世間はどう見ると思う? 」としながら、大韓体育会の決定に従ってリオ五輪出場を断念するよう、脅迫じみた言い回しで迫ったというのだ。

(参考記事:“土下座スイマー”の汚名晴らせなかったパク・テファンの落日と韓国水泳界の驚愕すべき実態)

ちなみにこの高官とは、金鍾(キム・ジョン)前文化体育観光部次官。アメリカでスポーツ経営学を学び、韓国プロ野球の斗山ベアーズで企画広報課長などを務めたあと、母校の漢陽(ハニャン)大学でさまざまな教授職と各種スポーツ学会の会長を歴任した人物である。

その実績が評価されて朴大統領政権発足後の2013年9月に文化観光部の次官に大抜擢。「スポーツ界4大悪撲滅キャンペーン」などさまざまな改革を主導して、絶対的な権力を誇っていたことから“韓国体育界の大統領”とまで言われていたが、実は崔順実容疑者との関係も深かった。

崔順実容疑者に文化体育観光部の長官候補リストを秘密裏に提出したり、崔順実容疑者が関与していた「ミル財団」や「Kスポーツ財団」、さらにはチャン・シホ容疑者が所有した「韓国冬季スポーツ英才センター」に資金援助するよう、財閥や企業に強要していた疑いがかけられている。

言わばキム・ジョン前次官は崔順実の最側近のひとりで、キム・ヨナへの圧力もパク・テファンへの脅迫も、“崔順実スキャンダル”とは無縁ではなかったのだ。

政界や財界だけではなく、スポーツ界にまで及ぶ“崔順実スキャンダル”の波紋。その不正の多くが文化体育観光部がらみの事業で起きているだけに、今後も韓国スポーツ界に飛び火するかもしれないし、新たなスキャンダルや問題が発覚する可能性は十分にある。平昌オリンピックなどは今からその開催が危ぶまれている。

果たして今週はどんな“崔順実スキャンダル” が飛び出すのだろうか。あまりにも酷すぎて呆れてものを言わず、一部には信憑性のない噂話が「スクープ扱い」になっていて食傷気味の感も拭えないが、腐った膿は出し切ったほうがいい。それだけは間違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事