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アジア王者としてCWCに挑む全北イ・ドングッの現地インタビュー

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
CWCでの健闘を誓ったイ・ドングッ(写真撮影:慎武宏)

韓国代表としては2度のワールドカップ出場を誇り、クラブ・レベルでも4度のKリーグ優勝4回を経験してきたイ・ドングッ。

だが、ACLのタイトルにはなかなか縁がなかった。全北現代の一員として出場した2011年ACLでは得点王のタイトルを獲得しているが、決勝戦でカタールのアル・サッドに敗れて優勝目前で涙を飲んでいた。

それだけに2016年にACLのタイトルを手にしたときは感激もひとしおだった。と同時に、初めて挑むFIFAクラブ・ワールドカップへの意欲もあふれてきたという。インタビュー後編は、ACL制覇の喜びとクラブ・ワールドカップへの抱負を紹介しよう。

―全北現代は決勝でUAEのアル・アインを下し、イ・ドングッ選手にとっても悲願だったACL制覇を成し遂げました。

「感無量でしたね。アル・アインとの決勝戦2ndレグでは途中で交代し、試合終了の瞬間はベンチで戦況を見守ったのですが、それでも緊張していました。小さなミスでも起きれば、優勝を逃してしまうというプレッシャーが凄かった。

ただ、チームメイトたちが最後まで集中していました。今季はいろいろと紆余曲折が多かった全北ですが、優勝カップを手にした瞬間、この選手たちと一緒に戦えた事実が何よりも誇らしかったです」

―優勝の喜びを大爆発させるよりも、若干自制するようにも見えましたが?

「2011年ACL決勝のことがあったからです。当時、全北はアル・サッド相手に圧倒的な試合を進めながらも、PK戦の末にタイトルを逃した。そのときのショックもさることながら、相手チームが過度に喜びを爆発させる姿を見せつけられ、悔しかった思い出があったので、同じようなことはすまいという自制が働いたのかもしれません。いずれにしても、あのときの悔しさは今回の優勝できれいサッパリ忘れました。あのときの悔しさがあったからこそ、今回のような劇的な瞬間を味わうことができたと思っています」

―全北現代にやってきて8シーズンになりますよね。あなたにとって全北現代とはどんなクラブですか?

「初めて全北に来たときと今とでは、本当にたくさんのことが変わりましたよね。素晴らしいクラブハウスもできたし、タイトルもたくさん勝ち取った。全北は今や全州(チョンジュ)市を代表するクラブになったと思います。

以前、“全州といえばピビンパプではなく、全北現代と思われるようなクラブにしたい”と言ったことがあると思うのですが、今では全州と言えばサッカー都市というイメージが出来つつある。僕自身、気が付くと全北現代のチームカラーであるグリーンが大好きな色になったほどです。“タッコンサッカー”などを通じてKリーグを代表するクラブになったと言えるでしょう」

―アジアを制した今、今度はFIFAクラブ・ワールドカップです。クラブ・ワールドカップは初出場となりますよね。

「ええ。Kリーグはもちろん、アジアを代表して出場するわけですが、大きな自負心をもって最高のチームと対戦したいと思っています」

―Kリーグ勢が今季のACLを制した意義は大きいと思います。資金面では中国リーグが台頭し、人気やシステム面ではJリーグがアジアをリードする中、Kリーグは国内でも存在意義が問われていた。Kリーグの存在価値を示すためにも、クラブ・ワールドカップでは結果を残したいところですよね。ちなみにKリーグ勢の過去最高成績は09年に古巣の浦項(ポハン)スティーラーズがマークした3位です。

(参考記事:韓国人記者も評価!!「総合力ではJリーグがアジアNo.1だ!!」)

(参考記事:企業からも地方自治体からも愛されていない!?Kリーグの実情)

「浦項が3位なら、それよりももっと良い成績を上げたいですね。最終順位はともかく、初戦に勝つことが重要だと思います。初戦に勝ってこそ次がある。韓国のファンやマスコミも初戦に勝って、準決勝でレアル・マドリードと対戦することを期待していますが、僕たち自身もそれを期待している。そして、そのためにも初戦に照準を合わせねばならない」

―初戦の相手は北中米カリブ王者のクラブアメリカです。メキシコのチームですが、印象は?

「メキシコのサッカーは代表Aマッチで経験したことがありますし、メキシコと言えば最初に連想するのは1998年フランス・ワールドカップで韓国の前に立ちはだかったフランコ選手のカニ挟みを思い出します(笑)。とにかく、個人技が高い。僕たちとしては組織的なプレーで対抗したいところですが、1対1など局面の戦いでも勝たなければならないでしょうね」

―勝算はありますか?

「彼らは自国リーグのシーズン真っ只中にある。対して僕たちは、長いシーズンをやっと終えたばかりで負傷者も多い。精神的にも肉体的にも疲労がないと言えば、嘘になります。それが負担でもありますが、しっかり準備して大会に挑みたいと思います」

―初戦を勝利すれば、準決勝で待ち受けているのはレアル・マドリードです。対戦を期待している選手はいますか?

「彼らが僕のようなロートル選手と会えることを期待しているんじゃなですか(大笑)。それは冗談としても、今季のプレ・シーズンマッチの最初の試合をドルトムントと行なったんですよ。試合は負けましたが、僕はシーズン最初のゴールを決めることできた。だからというわけじゃないですが、シーズン最後の大会で、それもレアル・マドリード相手にゴールを決めてシーズンを締めくくることができれば、最高でしょうね」

アジアを代表して大会に臨めることに、大きな自負心と責任感を感じているというイ・ドングッ。くしくも開催国王者として出場する鹿島アントラーズには、若き日にタイ・チェンマイで友情を深めた同世代の小笠原満男がいる。

“チェンマイの夜”から約20年の歳月を経て、ふたりが同じ世界のピッチに立つと思うと感慨深い気持ちになってくる。

(参考記事:日韓サッカー黄金世代たちが語り合った伝説の“チェンマイの夜”を完全再現!!)

12月8日から始まるFIFAクラブ・ワールドカップ。アジアのプライドを胸に日本のピッチを駆け抜ける“韓国のライオンキング”の咆哮を期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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