復活“マリンボーイ”が乗り越えた「土下座の汚名」と「政局スキャンダル」
本日12月19日に韓国に戻ってくる“マリンボーイ”の帰国会見がにわかに注目を集めている。“マリンボーイ”とは競泳男子自由型の五輪メダリストであるパク・テファンのことだ。
“マリンボーイ”とは1970年代に韓国で放映されて人気を博した日本のアニメ『海底少年マリン』(韓国版タイトルは『海の王者マリンボーイ』)から来ている。パク・テファンと言えば、日本ではすっかり“土下座スイマー”のレッテルがついて回り、リオデジャネイロ五輪でも結果を残せなかった。
(参考記事:汚名晴らせなかったパク・テファンの落日と韓国水泳界の驚愕すべき実態)
だが、12月6日からカナダで行われていた世界短水路選手権で、自由形の200m、400m、1500mで金メダルに輝き、3冠を達成。その快挙を韓国メディアも、「パク・テファン、完璧な復活」(『ハンギョレ新聞』)、「リオ五輪の不振や外圧の論乱を吹き飛ばして復活」(『ノーカットニュース』)などと報じている。
土下座までして出場を嘆願したリオデジャネイロ五輪では自由形100m、200m、400mのすべてで予選落ち(1500mは棄権)。北京五輪でアジア初の自由形400m金メダルに輝き、2012年ロンドン五輪でも200mと400mで2つの銀メダルに輝いていただけに、その結果は“マリンボーイ沈没”とまで報じられたが、パク・テファンはリオ五輪後も腐らなかった。
10月に行われた韓国国体では、200m、400mで優勝。11月に東京で行われた第10回アジア水泳選手権でも100m、200m、400m、1500mの4冠を達成。いずれの大会も世界トップレベルでの戦いとは言い難いが、それでもコンスタントに結果を出し続けたのだ。
そして今回の短水路世界選手権である。短水路世界選手権は五輪規格(50m)の半分にしかならない25mのプールで行われることもあって、五輪種目にも採択はされていない。それでも、国際水泳連盟(FINA)が主催する世界選手権で、結果を残したことは評価できるだろう。
まして11月には“崔順実ゲート”に絡んだスキャンダルの渦にも巻き込まれた。フィギュアスケートの女王キム・ヨナや、新体操の妖精ソン・ヨンジェもその渦に巻き込まれたが、パク・テファンの場合は直接的に脅迫されていたことが明るみになった。
(参考記事:キム・ヨナもパク・テファンも…政治スキャンダルに巻き込まれた “悲劇”の真相)
今や国賊的な扱いとなった“崔順実ゲート”の一味から圧力をかけられていたことが明らかになって同情論も高まる一方、彼が2015年にドーピング違反を犯したことも事実である。それだけにパク・テファンが一方的な被害者だったとは言い切れないが、そうした混乱の中でも動揺せずに着実に結果を残してきただけに、今日12月19日の帰国会見で彼が何を語るか、注目されているのだ。
韓国メディアが聞き出したいのは、崔順実スキャンルや彼にリオ五輪を断念するよう迫った文化体育観光部関係者に対する言葉だろうが、個人的に注目しているのははたしてパク・テファンは4年後の2020年東京五輪に出場するのか否か、という点だ。
リオ五輪直後、「現時点で東京五輪のことを決めることはできないが、もしも東京五輪に出場することになれば、リオ五輪のような失敗はしない」と語っていたパク・テファンだが、最近の韓国メディアとの取材では、もう少し突っ込んだことを話しているのだ。
「(東京五輪は)まだ先のことです。ただ、再び世界の舞台で笑えるような日が今日から始まりました。これからも一生懸命に頑張りたい」(韓国国体を終えて)
「東京という場所は僕にとって決して遠い場所ではないので、水泳で何かをお見せできる日が続くまで最善を尽くしていきたい」(短水路世界選手権を終えて)
東京五輪出場宣言こそないものの、明らかに4年後を意識したコメントが増えているのである。
それだけにパク・テファンの今後には注目が集まる。旧知の韓国スポーツ新聞記者に問い合わせてみたところ、パク・テファンが当面のターゲットとして定めているのは来年7月にハンガリーで開催される世界水泳選手権らしい。
屈辱を味わった2016年の最後の最後に自信を取り戻し、静かに復活の狼煙を上げた韓国の“マリンボーイ”。個人的には4年後に東京のプールで、ぜひともその雄姿を見てみたい。