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あれから早2年。“ナッツ姫”の「最新情報」と韓国の財閥批判が今も続くワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国の“ナッツ姫”を覚えているだろうか。韓国を代表するエアライン「大韓航空」の元副社長の趙顕娥(チョ・ヒョナ)のことだ。

すっかり表舞台から姿を消していたナッツ姫が最近、2年ぶりにマスコミの前に登場した。韓国メディアによると、亡くなった趙亮鎬会長の母、つまり彼女の祖母の葬儀に参加したようだ。

彼女が2014年12月に起こした「ナッツ・リターン事件」は、日本でも大きな話題となった。

チョ・ヒョナは当時、ニューヨーク発・仁川行きの大韓航空機のファーストクラスに登場した際、皿に盛られて出されるはずのナッツを袋のまま提供されたとして激怒。動き始めていた同航空機をリターンさせて責任者を降ろし、仁川への到着を11分遅らせた。

財閥令嬢の傲慢すぎる行為は非難の的となった。チョ・ヒョナは大韓航空のすべての職務を辞任。本人だけではなく、父である韓進グループ会長の趙亮鎬(チョ・ヤンホ)の謝罪、検察への出頭など、一大騒動となった。

韓国ではナッツ・リターン事件をきっかけに、財閥企業やその一族に対する不満が爆発。彼らの傍若無人ぶりが次々と暴露された。

例えば、財閥一族の“脱・韓国籍”だ。

テレビ局KBSが報じたところによると、韓国10大財閥の一族921人中、95人がアメリカ国籍を取得していたという。「兵役逃れ」や「有事の際に“韓国脱出”を計るため」などと、非難された。今現在、韓国籍から離れているのは財閥一族だけではないという点は、なんとも皮肉だが、大きなイシューとなった。

(参考記事:財閥一族だけじゃない! 韓国籍から離れ、移民志向が高まっている理由

また、財閥と庶民の経済格差も改めてクローズアップされることに。

特に、起業して大金持ちになる夢を見ることができない韓国の圧倒的な格差は、若者たちに自国が“ヘル朝鮮”であることを知らしめる結果につながっている。

(参考記事:日本と韓国の大富豪は何が違う? 億万長者の成り立ちに見る韓国の経済格差

ナッツ姫によって作られた財閥批判の流れは、現在進行形といえるだろう。

今年11月末にはテレビ局SBSが「“ナッツ・リターンを契機に反省?”…大韓航空オーナー一家はまったく変わっていなかった」と見出しを打った。詳細は省くが、「(ナッツ・リターン事件後も)大韓航空を株主らの会社ではなく、オーナー一族の会社ととらえ、本人たちが持ち分を持った会社に利益を集中させる行動は継続された」などと報じている。

また、12月6日に開かれた財閥トップたちによる聴聞会では、元ハンファ投資証券代表理事のチュ・ジニョンが「我が国の財閥は基本的にヤクザの運営方式と同じで、誰かが言葉に逆らうと確実に処罰し、他の人も服従させるという論理があると思います」と発言し、現場をざわつかせた。

この「財閥はヤクザと同じ」という発言は韓国国民から絶賛され、今年を代表する“サイダー発言”として取り上げられたりもしている。

(参考記事:スカッとする!! 韓国国民の心を代弁した「2016年サイダー発言」ベスト7

一連の財閥批判が韓国社会を健全にする自浄作用になっていれば、ナッツ姫にも功績はあったと言えたかもしれない。しかし、数々の報道を見る限り、財閥たちに変化はなさそうだ。

特に最近は、韓国経済が停滞している原因を財閥企業と見る傾向も出てきている。事実、韓国企業の時価総額トップ10は、その増加率が年々低下しているという。

いずれにせよ、ナッツ・リターン事件をきっかけに噴出した韓国の財閥批判は、まだまだ続いていきそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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