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現地も驚き!映画『君の名は。』の韓国興行1位はどれだけスゴくて意義あるのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国ではノベライズも好調だ。(写真提供:S-KOREA編集部)

大ヒットアニメ『君の名は。』が韓国でも最高のスタートを切った。『君の名は。』は韓国で1月4日から全国ロードショーが始まったが、昨日1月5日に韓国映画振興委員会が発表した興行成績によると、公開初日で13万8028人の観客を動員してボックスオフィス1位を記録したという。

この快挙は多くの韓国メディアで取り上げられている。「日本アニメ『君の名は。』公開初日にボックスオフィス1位」(『聯合ニュース』)、「アニメ『君の名は。』興行1位、“新海マジック”韓国でも通用した」(『ノーカットニュース』)などである。

もっとも、韓国でも成功することはある程度は予想できた。昨年10月の釜山国際映画祭に招待作品として公開されたときも、チケットが発売開始からわずか1分で全席完売となるほどの大盛況を呼んだのだ。

第18回富川(プチョン)国際アニメーション映画祭でも、長編コンペティション部門で優秀賞と観客賞の “2冠”に輝いた『君の名は。』は韓国でもマニアたちの間でかなり前から期待と話題を集めていただけに、今回の公開ダッシュは約束されたと言えるだろう。

(参考記事:ジブリを超える名作!? 映画『君の名は。』に対する韓国人の偽りなき反応)

ただ、特筆すべきは『君の名は。』が数あるライバルを蹴散らしていることだ。

韓国では12月28日から『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』が公開されている。クリス・プラット&ジェニファー・ローレンス主演の『パッセンジャー』も年明け早々にロードショーされているが、それらハリウッドの大作を抑えて堂々の1位を独走していたのが、イ・ビョンホン、カン・ドンウォン、キム・ウビンら豪華俳優陣が共演した韓国映画『マスター』だった。

だが、『君の名は。』は1日だけの集計だが、ハリウッド映画はもちろん、韓国の娯楽大作を抑えてデイリーランキングの1位に輝いたのである。

「『君の名は。』は新作洪水の中でボックスオフィス1位、韓国でも通用した!!」(『ホワイトペーパー』)、「『君の名は。』、『マスター』の独走を防いだ」(『Dispatch』)と、韓国メディアも舌を巻いている状態だ。

同時に、日本アニメの快進撃を複雑に見つめる眼差しも。

『君の名は。』が公開された1月4日には、チャ・テヒョン主演の『愛しているから』、キム・ハヌル主演の『女教師』など韓国の人気俳優の主演映画も封切りされているが、それらも抑えてしまっただけに「アニメーションに押されるとは…日本の伏兵登場に韓国映画が“ぐらり”」(『SBS funE』)、「アニメの攻襲が始まった」(『毎日経済』)と報じたメディアもある。

そもそも韓国映画界ではアニメ映画がメガヒットした例が日本ほど多くなく、最近も韓国アニメ映画に『千と千尋の神隠し』のパクリ疑惑が浮上したりと、アニメ映画の位置づけはそれほど高くはない。

「アニメは子供のもの」と思われがちであるし、韓国アニメは「ほとんど見る価値がない」と話す人も少なくない。それは、韓国アニメ業界関係者も触れてほしくない“韓国アニメ黒歴史”があることとも無関係ではないだろう。

そうした認識が潜在的にあることもあって、『君の名は。』の快挙が一部のメディアには不思議に映るのだろう。

ただ、そんな韓国にもアニメの目利きがいる。これはあまり知られていないことだが、実は韓国にはかなり前から新海誠監督に注目する会社があった。

今回の『君の名は。』を韓国に輸入した会社は、実に4年前から新海誠監督の新作に期待を寄せていたらしい。『君の名は。』は時空を超えた“縁”がひとつのテーマにもなっているが、韓国とも浅はかならぬ“縁”があったわけである。

(参考記事:韓国と『君の名は。』の意外な因縁、「新海誠監督の次回作は無条件で私たちに…」)

それだけに期待してしまうのは、韓国での日本アニメ映画の観客動員記録の更新である。

韓国で日本のアニメ映画と言えばジブリ作品が有名で、宮崎駿監督の作品は軒並みヒットしてきた(もちろん、いくつかの例外もあるが)。

その中でももっとも多くの観客動員を記録したのが『ハウルの動く城』。同作は『千と千尋の神隠し』を抑えて韓国では観客動員数300万人を超える大ヒットとなった。『ハウル』は韓国で公開された日本アニメ映画の観客動員数でも堂々の1位にある。

(参考記事:韓国の映画ファンが評価するスタジオジブリ作品のベスト10とワースト1位は?)

その『ハウル』の韓国公開時のオープニングスコアは5万2955名。『君の名は。』はそれを優に超える最高のスタートダッシュを切ったと言える。果たして、『君の名は。』は韓国でどこまで観客動員数を伸ばしていくのだろうか。これから韓国で起こるだろう社会現象と併せて、注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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