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現地取材(1)日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「韓国チャンピオンへの道のり」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
FCソウルでリーグ優勝した高萩洋次郎(写真提供:FA Photos)

韓国サッカー界で“パスマスター”と呼ばれ、その評価を高めている日本人選手がいることをご存じだろうか。高萩洋次郎がその人だ。

2012年にはサンフレッチェ広島のJリーグ初優勝に大貢献。自身もJリーグ・ベストイレブンに輝いた男は、オーストラリアAリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCを経て、2015年6月からKリーグ屈指の人気クラブであるFCソウルでプレーしている。

海本幸治郎が2001年に日本人初のKリーガーとなって以来、前園真聖、戸田和幸、大橋正博、岡山一成、高原直泰、家長昭博、馬場憂太、島田裕介、エスクデロ・セルヒロといった日本人選手たちがKリーグでプレーしてきたが、高萩が残してきた実績は素晴らしい。

2015年度はFAカップで大活躍。FAカップは日本の天皇杯に匹敵するが、高萩は日本人選手として初めてFAカップMVPに輝いている。日本人選手が韓国サッカー界の公式大会でMVPに輝くのは史上初のことだった。

2016年シーズンも、FCソウルの“中盤の要”として大活躍。FCソウルは昨季、2012年以来4年ぶりの王座に返り咲いたが、高萩はリーグ戦32試合に出場して1得点4アシストを記録。サポーターからも絶大な支持を集め、Kリーグ優勝セレモニーでは古巣・広島のユニホームも掲げるなど、大きな注目を浴びた。間違いなく今、韓国で最も愛されている“日本人Kリーガー”だ。

彼はなぜKリーグで成功できたのか。彼が見て感じた日韓サッカーの違いは何か。韓国のソウルで行った独占インタビューを紹介したい。

―まずはKリーグ、優勝おめでとうございます。FCソウルはデヤン(モンテネグロ)、アドリアーノ(ブラジル)、オスマール(スペイン)など外国人選手も強力で、韓国人選手もパク・チュヨンなど多彩。そのなかにあっても高萩選手の存在感は光っていましたが、今季を振り返るとどんなシーズンでしたか?

「今季は韓国に来て2年目ということもあって、Kリーグのサッカーにも慣れてまったく違和感なくプレーができました。個人としてはシーズン途中に監督が変わるなかでも、コンスタントにある程度は一定のレベルを保てたと思いますし、何よりもチームとして最終的に優勝出来たことが一番嬉しい。良いシーズンでした」

―韓国メディアの評価も高かった。『インターフットボール』は、「高萩は専売特許である繊細なキックと鋭い技術でFCソウルの中盤を牽引した」と評価していましたし、韓国のサッカー専門誌『FourFourTwo KOREA』外国人選手格付け評価]でも上位にありました。

(参考記事:サッカー専門誌による日本人Kリーガーたちへの容赦なき“格付け”4段階査定評価

「僕自身は、韓国の記事とかニュースをほとんど見ないのであまり気にしていないですけど、評価してもらえるのは嬉しいですね。ただ、Kリーグでは僕だけではなく、ほかの日本人選手たちも頑張っています。例えば蔚山現代では増田(誓志)君がプレーしていますが、蔚山のサッカーは増田君がいないと成り立たないですよ。何度か対戦しましたが、増田君がいるかいないかで、蔚山はスタイルも結果も変わってくる。そういう意味では、僕に対する韓国メディアの評価はチームの結果も関係していると思います。優勝できたことで、僕個人の評価もアップした的な(笑)」

―それでもFCソウルは試行錯誤もあったのでは? シーズン途中にチェ・ヨンス監督が中国リーグに引き抜かれ、高萩選手もいろいろと変化を求められたと思います。

「確かに監督がチェ・ヨンスさんからファン・ソンホンさんに変わることによって、どうなるのかなっていう部分はありました。監督が変わればやり方も変わるし、監督が望んむプレーも変わってくるので、できるだけ早く順応しようということだけ考えてやっていましたね」

―チェ・ヨンス監督とファン・ソンホン監督のスタイルは、やはり違いましたか?

「そうですね。例えばチェ・ヨンス監督の場合は、どちらかというと試合の中で選手が考え判断するよう求められ、細かい指示はあまり多くない。一方でファン・ソンホン監督は、ポジショニングだったり、守備のやり方やプレスを仕掛けるタイミングなど、細かくはっきり指示を出します。約束事でがんじがらめになるほどではありませんが、“こういうやり方をしよう”というものがあるタイプです」

―ただ、ファン・ソンホン監督になってから、序盤はなかなか結果が出なかったじゃないですか。そこをチームでどう改善していこうと思いましたか?

「監督が目指すサッカーをチーム全体が理解するまでには時間がかかるのは当然なので、試合を重ねながら改善していったという感じでしょうか。それにFCソウルは選手たちのクォリティが高いので、順応は時間が解決してくれるだろうという確信が、監督にも僕たち選手たちにもありましたから」

―そして見事に優勝したわけですが、Kリーグ優勝の瞬間はどんな感覚でした? サンフレッチェ広島時代にJリーグでも優勝を経験していますが、違いとかありましたか? 韓国では最近、優勝賞金をめぐってKリーグとJリーグの比較もあったりしましたが?

「日本人とか外国人とか関係なく、選手としてやはり優勝は嬉しいものです。Jでも優勝を経験していますが、こみ上げてくる喜びとか、チームとしての盛り上がりとか、日本と変わらず同じですよ(笑)。違いがあったとすれば何かなぁ……。あ、日本だとJリーグ・アワードには優勝チームの全選手が参加して表彰されるじゃないですか。韓国ではそれがなく、Kリーグ・アワードは受賞者や表彰される可能性がある選手だけが参加する。違いといえば、そんなところではないでしょうか」

とはいっても、日本と韓国では様々な違いがある。過去に韓国でプレーした日本人選手も日韓サッカーの違いや共通点を告白している。

元大宮アルディージャで昨季は釜山アイパークで開幕を迎えた渡邉大剛も、韓国サッカーに馴染めず現在はカマタマーレ讃岐に所属。「難しいところに来てしまったな、というのが正直なところ。日本のJリーグとすべてがあまりに違いすぎますからね…」と告白しているのだ。

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”

そんななかで高萩はいかに韓国サッカーに適応し、Kリーグで結果を残してきたのか。次回は高萩が「韓国に渡った理由」について紹介したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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