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現地取材(2)日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「日本と韓国の違い」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
FCソウルの主力として活躍する高萩洋次郎(写真提供:FA Photos)

Jリーグ時代には2010年ナビスコカップでニューヒーロー賞に輝き、2013年からはサンフレッチェ広島のエースナンバーである背番号10を背負った高萩洋次郎。多彩なパスワークで試合を組み立て、豊富な運動量を駆使して攻守のバランサーの役割もこなし、2013年7月には東アジアカップで日本代表デビューも果たしている。

そんな彼が海外に渡ったのは2015年1月。前年度のACLを制したオーストラリア・Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCに完全移籍したのが最初だった。

そのウェスタン・シドニー・ワンダラーズで6カ月プレーしたあと、2015年6月にはKリーグのFCソウルに完全移籍している。

日本発、豪州経由の韓国行き。その挑戦にはどんな理由があったのか。高萩洋次郎がその真意を明かす。

―高萩選手は2012年にサンフレッチェ広島でJリーグ優勝も経験したあと、オーストラリアに渡りました。韓国進出の前に、そもそもなぜ、オーストラリアだったのでしょうか。

「もともと海外に挑戦したいという思いがありましたし、行くなら英語圏の国でプレーしたいという思いがあったのですが、何よりも海外進出の大きな動機となったのはFIFAクラブ・ワールドカップでした。広島時代の2012年にJリーグ王者として開催国枠でクラブ・ワールドカップを経験したのですが、僕的にはあの舞台でさまざまな刺激を受けました。“もう一度、あのピッチに立ちたい”という想いが強くなったんです。そんな中、僕にオファーをくれたウェスタン・シドニーはACLを制していたので、再びACLを制すればクラブ・ワールドカップへの道も広がると思った。ACLタイトルを狙えるクラブでアジアを戦い、クラブ・ワールドカップのピッチに立つ。それがオースラリア行きを決めた一番の理由でした」

―ただ、ウェスタン・シドニーは2015年ACLでグループリーグ敗退となり、その1カ月後くらいの2015年6月にFCソウルに完全移籍します。かなり電撃的でしたが、聞けば、当時、FCソウルを率いていたチェ・ヨンス監督から熱烈なラブコールがあったとか。以前、チェ・ヨンス監督にインタビューしたとき、「現役時代に最も影響を受けたのはオシム監督」と言っていたのが印象的ですが、チェ・ヨンス監督からはどのように口説かれたのですか?

「チェ・ヨンス監督からはかなり評価してもらって、直接、電話をもらって話もしました。普通に“うちに来てほしい”みたいな感じで(笑)。監督はJリーグでも選手生活を送ったので、日本語が喋れるんですよ。当時の僕にはウェスタン・シドニーに残る道もあったし、日本に戻ろうかなという選択肢もなくはなかったのですが、考えに考えた末にソウルのオファーを受けることにしました。決め手となったのは、やはりACLです。ACLのチャンピオンになるには、ソウルに行くことが一番の近道かなっていうのが頭の中にありましたので」

―Kリーグについてはどんな印象を持っていましたか?

「正直言うと、Kリーグに関しては漠然としたイメージしか持っていませんでした。まったくわからなかったと言ったほうが、正しいかもしれません。ただ、ACLなどでKリーグ勢とは対戦しましたし、特にFCソウルは広島時代にもウェスタン・シドニー時代にも対戦していたので、“レベルが高いな”という印象は持っていましたよ」

―韓国メディアの中には「JリーグこそアジアNO.1のリーグ」とする意見もありますが、Kリーグ、レベル高いですか?

(参考記事:韓国人記者も評価!!「総合力ではJリーグがアジアNo.1だ!!」

「Kリーグ全体として見たとき、例えばクラシック(1部リーグ)でも優勝を争う上位チームと降格争いに転じる下位チームとの差はあるという印象はありますけど、FCソウルに関してはACLで優勝できる可能性を十分に持ったチームだと思います。選手個々の技術や能力はもちろん、ここぞという時のパワーや底力、勝負に対する執着心やこだわりのようなものも強烈です」

―ただ、韓国サッカーの激しさや勝負に対するこだわりは、日本ではラフでハードだと受け止められがちです。「ダーティーだ」と指摘する声もないわけではない。実際にプレーされて、高萩選手はどう感じますか?

「たしかにKリーグはJリーグと比べるとラフかもしれないですし、Kリーグはその激しさからダーティーだというイメージがあるかもしれませんが、それはちょっと違うような気がします。Jリーグも速いし、強いし、フィジカル的に韓国と差があるわけではないのですが、Kリーグの激しさの度合いがちょっと違うような気がします」

―昨季、釜山アイバークでプレーした渡邉大剛選手は、「韓国では日本みたいにスペースを使おうとしたら、”逃げた”ことになる」という印象を持ったようですが、高萩選手はどうですか?

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”

「ひとつ言えることは、韓国の選手たちは球際の勝負で絶対に引かない。ボールを持っているほうも、奪いにいくほうも徹底しています。行けると思ったらドリブルでガンガン攻めますし、奪うほうも強くぶつかっていく。両方ともそこまでしなければ勝てないくらいの覚悟でやっていますから、それが普通なんですね。自分がミスして相手にボールを奪われたとなると、必死に取り返しにも来るし。その辺の感覚というか習慣化が、日本とはちょっと違うんです。韓国に来て最初に感じたのは“荒く激しいんじゃなくて、これが普通なんだな”ということでした」

―つまり、Kリーグの激しさに対して拒否感はなかったと?

「ええ。フィジカルの強さということに関してはオーストラリアで免疫ができていたというか、フィジカル・コンタンクトの強さという点ではAリーグのほうがありましたし。韓国はその強さに加え、“メリハリのある激しさ”が不可欠という感想ですね」

―そんなKリーグでプレーすることで高萩選手自身も変わったことは?

「そうですね。やはり守備に対する考え方というか、激しさでしょうか。フィジカルも強くなったと思いますし、ボールを奪うためにガツガツ守備に行くようになった。僕はもともとそういうタイプではありませんでしたが、ここ(韓国)ではそこを意識していかないとやっていけないですし、そこは自分にとって新たなプラスアルファになったと思います」

―韓国でプレーすることで、サッカー観にもプラスがあったんですね。

「サッカー観というか、“郷に入ったら郷に従え”という感覚ですね。実際、そうしたことで自分のプレースタイルの幅が広がった実感もありますし、守備に関しては自信を持てるようになった。環境が変わったことによって、僕も成長できたと思いますね」

ただ、Kリーグに進出したすべての日本人選手たちがかの国で成功や自信を手にできるわけでもない。韓国では外国人選手のことを“ヨンビョン(傭兵)”とも言うが、傭兵である以上、結果を求められ、ときには容赦ない査定評価を下されることがある。

韓国のサッカー専門誌がKリーグ・クラシック12チームに所属する外国人選手を対象に行なった評価でも、日本人選手で及第点を得たのは、高萩と増田誓志(蔚山現代)だけだった。

(参考記事:サッカー専門誌による日本人Kリーガーたちへの容赦なき“格付け”4段階査定評価

そんな韓国で高萩は日々、どんな生活を送っているのか。次回は高萩の韓国生活について紹介したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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