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現地取材(3)日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「韓国で選手生活を送るということ」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国のサポーターからも愛されている高萩洋次郎(写真提供:FA Photos)

2015年6月からKリーグのFCソウルで活躍する高萩洋次郎。韓国での生活も早いもので1年以上を過ぎたが、日本人選手が韓国で選手生活を送る際に生じることで起きる問題や文化的な違いに戸惑うことはあるのだろうか。

「日本人選手が韓国で生きるということ」をテーマに、過去の事例などを元に高萩にさまざまな質問をぶつけてみた。

―ピッチ内の日韓比較ではなく、今度はピッチ外の日韓比較にテーマを絞ってお聞きしたいと思います。Kリーグで選手生活を送りながら、戸惑ったりなかなか慣れないことはあったりするのでしょうか?

例えばKリーグでは大事な試合前になると直前合宿が頻繁にありますし、独身選手は寮生活です。そういった部分に関して、韓国人である元セレッソ大阪のキム・ボギョンですら「日本と韓国の違いに戸惑った」と言っていましたが、高萩選手はどうですか?

「サッカーをする上で戸惑ったり、慣れずに困っているということはほとんどないですね。試合前日にクラブハウスや合宿所に泊まることは、広島時代にもやっていましたし、日本でもリーグの中断期間は短期キャンプがあったりもしましたから。あえて困ることを挙げるとすると、チーム・スケジュールがなかなか出てこないことです。韓国のチームメイトたちも言うことですが、練習の日程、休みの日程、練習時間がなかなか出てこない(苦笑)。今の監督(ファン・ソンホン監督)はいつも1週間分の予定を出してくれるのですが、その予定通りになったことも、なかなかないんですよ(苦笑)」

―言葉の問題はどうでしょうか。昨季シーズン途中まで釜山アイパークでプレーした渡邉大剛選手には専属通訳がおらず、Jリーグでプレー経験がある韓国人選手が通訳を買って出てくれたものの、かなり苦戦したそうです。渡邉大剛選手はそのほかにもいろいろと大変だったようですが、高萩選手はいかがでしょうか。

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”

「FCソウルには日本語ができる専属通訳がいるので、言葉に関して苦労したことはないですね。その通訳に韓国語を教わったり、自分でも韓国語の教材CDなどを車の中で流したりしながら勉強したので、韓国語は一通り読めるようになりました。韓国語は母音と子音の組み合わせですから、その読み方を覚えてしまえばすぐに読めるようになるんです。意味がわからないときはありますけどね(笑)。レストランで注文したり、買い物をしたりとかは特に問題はないです」

―では、生活をするうえで驚いたり当惑することもないですか? 例えば車の運転の荒さだったり。

「たしかに運転は少々荒いけど、それも1カ月くらい運転すれば慣れたので問題なです。というか、生活全般にまったく問題ないですよ(笑)。むしろ食事に関しては大満足です。もともと辛いものが大好きだということもありますが、韓国は食に対するこだわりというか、食べることに貪欲なので、食材も豊富です。スーパーマーケットなどに行けば、オーガニック野菜なども充実していて、日本にいた頃には見たことかなかった種類のヘルシー野菜がいくつもある。体重はほとんど変わっていませんが、体脂肪の数値などは明らかに低くなったと思いますね」

―チームメイトとの関係はいかがですか? 最近の韓国人選手は個性的な選手も多く、若手も以前に比べて自由奔放です。日本のサッカー界ではタブー視されそうなタトゥーを刻む選手も多い。以前に比べて、年功序列や儒教的価値観が薄まりつつある印象があるのですが…。

(参考記事:日本よりも強烈で大胆な韓国サッカー選手たちのタトゥー事情

「昔と今を比べてどうかはよくわかりませんが、僕は普通に韓国人選手と飲みに行ったりするし、彼らも普通に接してきますね。僕よりも年上の選手やコーチたちは、僕のことを“ヨジ”、“ヨウジロウ”、“タカ”と呼びますし、年下の選手たちは僕のことを“ヨジ・ヒョン”と呼んでくれます。みんな、僕のことを外国人選手と思っていないんじゃないですか(笑)」

―ヒョンを日本語にすると「兄貴」「兄さん」という意味ですが、ならば高萩選手はパク・チュヨンや去年引退したチャ・ドゥリなど先輩選手をどう呼んでいるのですか?

「それはもちろん、ヒョン付けですよ。チュヨン・ヒョン、ドゥリ・ヒョンと呼んでいます。」

話を聞いていると、すっかり韓国に馴染んでいる高萩洋次郎の日常が想像できた。過去に小野伸二、小笠原満男ら日本の選手たちと、全北現代のイ・ドングッら韓国人選手たちが語り明かした交流会で通訳を担当したことあるが、あのときと同じ“胸の熱さ”を感じずにはいられなかった。

(参考記事:日韓サッカー黄金世代たちが語り合った伝説の“チェンマイの夜”を完全再現!!

高萩は韓国で充実した日々を送り、FCソウルで“かけがえのない存在”になっていることは間違いない。ただ、その高萩もACLではFCソウルの一員としてJリーグ勢の前に立ちはだかる。日本人Kリーガーの目に、Jリーグはどう映るのだろうか。

最終回となる次回は、日本人Kリーガー高萩洋次郎から見た「ACLとJリーグ」について迫ろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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