Yahoo!ニュース

韓国で実写ドラマ化!? 映画『君の名は。』の“独走”で生じているドタバタ劇

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真:韓国公式HP

韓国で映画『君の名は。』の“独走”が止まらない。

韓国映画振興委員会によると、『君の名は。』は1月9日、15万4759人を動員して、累積観客数133万6992人を突破した。同作は1月4日の公開からわずか6日でこの記録を達成している。

さらに興味深いのが、2位との差だ。観客動員数2位を記録している『マスター』の観客数は6万5274人(1月9日)となっているので、『君の名は。』は2位にダブルスコアをつける“独走”状態なのだ。

新海誠監督も韓国を訪れて、舞台挨拶やトークイベント、メディア取材をこなし、ニュースやラジオ番組にも出演している。なんでも新海監督と韓国の縁は15年にも及び、「作品を作るたびに韓国を訪れている」らしい。

(参考記事:『君の名は。』新海誠監督が語る韓国、そして韓国限定のサプライズ公約とは?

あまりに人気が高いからか、1月10日には「『君の名は。』ドラマ化」という見出しが韓国マスコミを躍った。

ある韓国メディアは独占スクープとして、「新海誠監督の『君の名は。』が韓国で実写ドラマ化される。ある関係者は“国内公開と同時にドラマ化も推進されてきた。アニメーション輸入に続いて版権契約を論議中だ”と耳打ちした」と報じた。

今まで『のだめカンタービレ』や『花より男子』など日本作品が数多く韓国でリメイクされてきただけに、妙な説得力があったが、これは誤報とのこと。

同日午後、映画関係者が「韓国ドラマ化に関連して日本の東宝に問い合わせたところ、版権販売は事実無根」と発表し、事態は収拾。独占スクープを報じた媒体は、その記事を削除している。

仮にドラマ化が事実だったとしても、韓国での反応はイマイチだったと思う。韓国ネット民たちが「この素晴らしい感性を韓国式にしないでほしい」「ドラマ化がデマで本当に良かった」「アニメだからこそ背景が美しくもかわいくて、雰囲気もあって、人気がある。それを実写にして誰が見るんだ?」と胸をなでおろしているくらいだからだ。

そんな誤報が出るほど韓国で『君の名は。』の注目度が尋常ではないわけだが、その証拠に、同作の熱気はスクリーンを超えている。

12月28日に出版された『君の名は。』の原作小説やスピンオフ小説は、オンライン書店アラジンでベストセラー1位と6位を記録。同じくネット書店イエス24でも、日間ベストセラー1、2位となっている。

(参考記事:韓国で『君の名は。』原作小説が売れ行き好調!! 韓国における日本文学の位置は

このまま『君のは。』の独走状態が続き、アニメ映画としては歴代最多動員数を誇る『ハウルの動く城』(観客動員数300万人)を超える勢いだ。すでに観客動員数の累計150万人突破は確実視されており、今後も勢いは止まりそうにない。

何度も強調したいが、この大ヒットは特例といえる。そもそも韓国映画界において、実写映画とアニメ映画には明らかな“格差”がある。

韓国映画は国際的な評価も高い作品が多く、“韓国版アカデミー賞”と呼ばれる「青龍映画祭」や、「釜山国際映画祭」などのイベントも豊富だ。各受賞式では人気俳優や女優がレッドカーペットを歩き、非常に華やかで注目度の高いセレモニーも行われている。

(参考記事:韓国女優たちの露出バトル!! 絶対に押さえておきたいレッドカーペット“棚ぼた”

一方でアニメ映画の制作環境は劣悪とされており、「なかなか出資してもらえない」「作ってもスクリーンが確保できない」「日本やアメリカのアニメ映画に押されて観客動員が難しい」というのが現実なのだとか。それは、韓国アニメ業界関係者も触れてほしくない“韓国アニメ黒歴史”があることとも無関係ではないだろう。

いずれにせよ公開初日に13万人強を動員し、1週間が経ってもまったく勢いにかげりが見えない『君の名は。』。韓国における注目度は、ますます高まっていくばかりだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事