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サムスン後継者にナッツ姫…なぜ韓国の“財閥2世”たちは、不祥事ばかりを起こすのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

韓国の財閥がまたもや“負の注目”を浴びている。サムスンの後継者と呼ばれる、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が出頭したのだ。

李副会長は1月12日、崔順実(チェ・スンシル)の国政介入事件に関連した贈賄などの容疑で特別検察官チームの取調べを受けた。全面否定しているが、同事件の特別検察官チームが財閥トップを聴取するのは、初めてだった。

言わずもがな、韓国における財閥グループの存在感は凄まじい。

韓国銀行の「企業経営分析」によると、韓国財閥企業の利益額は、韓国の全企業の利益額の79%を占めているという。そのなかでもサムスンは圧倒的な存在で、韓国企業“時価総額トップ10”を見ても、16年連続でサムスン電子が1位を独走している。

韓国の財閥はそういった経済面での存在感だけでなく、さまざまな好奇の目にもさらされている。

今回出頭した李副会長の場合、ふとしたきっかけで彼が愛用している“リップクリーム”が話題となった。

韓国メディア『文化日報』などは出頭を報じる記事で、「サムスン李在鎔副会長“贈賄容疑の身分”で検察に出頭、第2の“李在鎔リップクリーム”は出るか」と見出しを打ったほどだ。

(参考記事:激安すぎて拍子抜け!? 出頭した大財閥サムスン後継者のリップクリームの正体

そんな韓国財閥は最近、一族の不祥事が目立つ。

日本で最も知られるのは、“ナッツ姫”こと大韓航空の元副社長・趙顕娥(チョ・ヒョナ)だろう。ニューヨーク発・仁川行きの大韓航空機のファーストクラスに搭乗した際、皿に盛られて出されるはずのナッツを袋のまま提供されたとして激怒。動き始めていた同航空機をリターンさせて責任者を降ろし、仁川への到着を11分遅らせる“ナッツ・リターン事件”を起こした。

韓国財閥の力を見せ付けんばかりの横暴は、非難の的となった。それから早2年。最近になってナッツ姫は韓国メディアの前にも現れたが、世論は相も変わらず厳しいままだ。

それも仕方がないかもしれない。というのも、財閥一族たちは自らの首を絞めるように、次々と不祥事を起こしているのだ。

“お騒がせファミリー”としてスポットライトを浴びているのは、韓国財閥のハンファ。1月上旬、キム・スンヨン会長の三男が警察に連行された。

彼は飲食店スタッフの顔を叩いたり、拳で頭を殴ったりした挙句、出動した警察官にも罵詈雑言を浴びせ、パトカーを蹴って窓ガラスを割るといった騒動を起こしたという。三男ばかりか、次男や会長自身もとんでもない事件を起こしているのだから、話にならない。

(参考記事:鉄パイプで暴行!? 会長三男が逮捕された韓国財閥“ハンファ”、実はかなりのお騒がせファミリーだった

昨年末には、東国製鋼のチャン・セジュ会長の長男チャン・ソンイク氏も、飲食店で従業員にグラスを投げるといった騒動を起こし、問題になった。

ナッツ・リターン事件やハンファ会長の三男の例を挙げるまでもなく、何かと不祥事が多いのは“財閥2世”たちだろう。なぜ財閥2世は問題ばかりを起こすのか。

韓国若者たちが皮肉る「スプーン階級論」を使えば、財閥2世たちは「金の匙」をくわえて生まれてきたから横柄だといえるだろう。が、話はそれほど単純ではない。

そもそも韓国の財閥は、政経癒着の産物といわれている。一方で、財閥創業者たちは、自分たちがお金を稼ぐことで、結果的に国家を発展させ、若者たちに職場を提供すると主張してきた。その精神は「事業護国」と呼ばれ、現実に財閥企業の肥大化とともに韓国経済は発展してきた。

しかし財閥2世の経営者たちには、その「事業護国」の精神が希薄との指摘が尽きない。

書籍『韓国インテリジェンスの憂鬱』において、元ヒュンダイ自動車CEOのイ・ゲアン氏が語っている。

「財閥創業者たちは、たとえ羊頭狗肉であったとしても“事業護国”の精神で、国家の発展や人材育成に貢献しようとしました。しかし、現在、財閥企業を経営する2~3世の財閥たちは、その思いが希薄になっています。昔のように、財閥が国家の発展計画や経済開発計画に足並みを揃えて産業分野を開発・進出すればいいという時代ではないからでしょう。

仕方のない部分もあります。今の財閥企業は世界市場を相手にした競争にさらされており、生き残るためには、生産工場を海外に移して、国内の企業を海外にも売り、海外企業も買収しなければならない。ただ、そのせいで財閥企業の成長と国家の発展がリンクせず、むしろ衝突も起こすようになった。韓国で財閥に対する批判が加熱している理由は、まさにそこにあります」

さらに、韓国には日本と違い、起業して大金持ちになる夢を見ることができない圧倒的な格差もある。財閥2世たちに厳しい世論が向かうのも当然かもしれない。

(参考記事:日本と韓国の大富豪は何が違う? 億万長者の成り立ちに見る韓国の経済格差

サムスン後継者の出頭を皮切りに、今後も韓国財閥に捜査のメスが入ると考えられている。政界と財界を巻き込んだ一大スキャンダルは、はたして収拾するのだろうか。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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