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「韓国の優勝は決まり」の声も…大谷翔平のWBC“辞退”を韓国はどう見ているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
大谷の雄姿をWBCでも見たかったが…。(写真:アフロスポーツ)

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)制覇を目指す侍ジャパンのメンバーから大谷翔平が外れることになった。日本代表の看板選手として注目を集めていた大谷の出場辞退は、お隣・韓国にも衝撃をもたらしている。

韓国メディアは、「足首負傷の大谷、結局WBC日本代表から除外」(『聨合ニュース』)、「足首負傷の大谷、結局WBC代表チームを最終下車」(『スポーツワールド』)、「“日本野球のエース”大谷、足首の負傷でWBCエントリーから除外」(『スポーツトゥデイ』)などと見出しを打った。

「大谷WBC不参加…“侍ジャパン”軸が抜けた」という記事を掲載したのは『スポーツ東亜』だ。

「戦力の核であり興行の中心軸とされた“怪物投手”大谷翔平がWBC28人の最終エントリーから除外された」と事実関係を報じながら、「日本は選手層が厚いため、依然として投手陣を無視することはできない。しかし実力と興行の軸とされていた大谷の不参加は、単純な戦力のマイナス以上に象徴的な意味を持つ」と締めくくった。

そもそも、韓国でも大谷への注目が高かった。投手としても打者としても活躍する彼のことは、「二刀流」「怪物」などと伝えられており、「“マンチッナム”大谷翔平、WBCで見られない」(『Herald経済』)などと、韓国独特の修飾語もつけられて報じられていた。

(参考記事:「怪物」「マンチッナム」…韓国メディアは大谷翔平をどう報じているのか

そのため大谷の進退は、マウンドに立たないと報じられたときから、関心を集めていた。

「大谷翔平、投手も打者も不透明…メガトン級の悪材料」(『Dailian』)という記事では、「大谷は日本代表の自慢でありエースだ」としながら「田中将大、ダルビッシュ有らメジャーリーガー投手がWBC参加を拒んだなかで、大谷はエースの役割を果たすはずだった」と惜しむようなニュアンスも見られたほどだ。。

韓国では日本人メジャーリーガーのなかでも特にダルビッシュの人気が高いのだが、彼がいないぶん、大谷の注目度はさらに高かったのだ。

(参考記事:「日本のネトウヨを一喝する骨のある男!!」と絶賛。ダルビッシュ有が韓国でも人気なワケ

もっとも、韓国代表が順調に1次ラウンドを勝ち上がれば、2次ラウンドで日本との対戦が濃厚だっただけに、一部メディアの間では強力なライバルが減ったことを喜ぶ声もある。

実際に「投打兼業は無理という事実を証明したな」「韓国の優勝が決まったようなもの」「二兎追うものは2匹とも取り逃す」などと書き込む韓国野球ファンもいた。

ただ、ネット上に寄せられている韓国の野球ファンたちの書き込みを総合すると、大谷の辞退を惜しむ声のほうが圧倒的に多い。

「WBCで絶対に見たい選手のひとりだったのに…」「韓国にとってはプラスだけど…大谷は絶対見たかった」「大谷がメジャーリーガーに通用するか見たかったのに」「WBCで見るべきものがひとつなくなってしまった…」「大谷を見るためにWBCを楽しみにしていたのに」「まだ若いんだから次の大会に期待しよう」などがそれだ。

韓国のネット民たちの書き込みというと、普段は辛辣でときに目を覆いたくなるような酷いものもあるという印象が強いかもしれないが、その一方で日本の長所を認め、しっかりと評価し、ときに絶賛も惜しまない。

韓国で長らく“愛憎の対象”とされてきたイチローが、日米通算で世界最多安打記録を更新したときも、著名な解説者が「韓国人はイチローから学ばなければならない」という趣旨の記事を大手メディアに寄稿したこともあった。大谷への書き込みも、韓国人が抱く彼への関心の大きさの表れと言えるだろう。

それにしてもメジャーリーガーの出場が1人だけなど、WBCに挑む日韓代表には共通点が少なくない。そのため小久保ジャパンに同情論もあったが、大谷の辞退でその傾向はさらに強まるかもしれない。

(参考記事:小久保ジャパンに同情論も!? 韓国メディアはWBC日本代表メンバーをどう見ているのか

とはいえ韓国代表は最近、メジャーや日本球界の誘いを断って復帰したイ・デホ(李大浩)がWBCに合流することが決まり、少しずつだが雰囲気は一時よりも良くなっているようだ。

いずれにしても大谷の辞退で厳しい状況に立たされている侍ジャパン。1次ラウンドの第一戦(3月7日)まで、残された時間は1カ月だ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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