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「暴かれた化けの皮」との声も。WBC惨敗で韓国野球のバブル大崩壊が始まるのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
キム・テギュンも不振だ(写真提供:SPORTS KOREA)

韓国野球が屈辱に塗れている。第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で韓国は、初戦のイスラエルに延長戦の末1-2で敗れ、続くオランダ戦では0-5の完敗。昨日行われたチャイニーズ・タイペイ対オランダ戦で、オランダが勝利したことにより、韓国は最終戦を待たずして1次リーグで敗退することになった。

不甲斐ない結果に終わった自国代表に、韓国メディアは厳しい目を向けている。

「ホームで惨事の韓国野球、井の中の蛙に転落」(『News1』)、「韓国は番狂わせの生贄か?高尺ドーム大惨事は必然だった」(『スポーツ朝鮮』)、「打率2割3厘、韓国WBC歴代最弱のウォーターバットだった」(『SPOTV NEWS』)、「無気力な韓国野球の化けの皮は暴かれた“話にならない実力”」(『MKスポーツ』)と、メディアの論調も厳しさを増している。

ファンたちはもっと厳しい。ネット上で運営されるいる野球ファンたちの掲示板には、「恥さらし」「面汚し」などと目を覆いたくなるような悪罵や侮言が並んでいる。

(参考記事:「豚どもの集まり」「ヘラヘラ笑うな」韓国のWBC2連敗に辛辣な批判が続出)

ただ、それも無理はない。韓国の野球ファンたちにとってWBCの韓国開催は悲願だったのだ。記念すべき韓国初開催の大会で不本意な結果に終わったのだからショックも大きいのだろう。期待が大きかった分だけその反動も大きく、批判の声も辛辣になるのは当然かもしれない。

個人的に懸念しているのは、今回のWBCの結果が韓国野球にもたらすであろう悪影響である。

というのも、近年、韓国プロ野球はかつてないほどの人気と熱狂の最中にある。その活況を現す端的な例が観客動員数だ。2004年は263万に過ぎなかったが、2007年に400万人突破、2008年に500万人突破、2011年に600万人突破、2017年に700万人突破と、順調に観客動員数を伸ばしてきた。

その中には女性客も多く(全体の35%近くになった年度もある)、ユニホームをセクシーに着こなす“ヤグヨジャ”が韓国野球に欠かせないキーワードにもなっている。

そうした熱狂もあって、選手年俸も高騰した。ほんの10年前まで韓国プロ野球では1億ウォン(約1000万円)が「夢の年俸」とされてきたが、今では2億ウォンが平均年俸。高額選手になると、10億ウォン(約1億円)を優に超えるようになった。今季から韓国球界に復帰したイ・デホなどは、4年150億ウォン(約15億円)にもなる。

(参考記事:チームの“年俸総額”を侍ジャパンを比較すると…年俸で見るWBC韓国代表)

プロ野球中継権も高騰している。2005年は79億ウォン(推定)だったが、2006年から115億ウォン(推定)に跳ね上がり、2013年には200億ウォン(推定)を突破。2015年には350億ウォン(推定)を超えたと言われれている。

この数字はKリーグの5倍、代表Aマッチを主催するKFAのそれよりも多い。「韓国で最も人気があるプロスポーツはプロ野球だ」と言われる理由のひとつが、ここにある。

観客動員も、選手年俸も、テレビ中継権も右肩上がり。最近はそんな野球人気に便乗して、 “野球女神”というキャッチフレーズを売り物にする女子アナやタレントが増え、彼女たちの“セクシー始球式”が毎試合のように話題にもなる。まさに韓国プロ野球は人気絶頂にあると言っても過言ではない。

ただ、前出の数字を見てすでにお気づきだと思うが、その人気はWBC効果によるところが大きい。韓国初のメジャーリーガーで、第1回WBCにも出場したパク・チャンホも、以前、こんなことを言っていた。

「第1回大会を終えたあと、“韓国野球は強くて面白い”というイメージを人々に植えつけることに成功した。それが今日の野球人気のきっかけになっている」

ただでさえ“韓国対世界”という構図に魂を奮わせる韓国人にとって、WBCはその“愛国心”を大いに刺激してくれるものだった。韓国代表がWBCで見せた快進撃が韓国人の“スポーツ・ナショナリズム”を大いに刺激し、人々は野球に熱狂するようになった。WBCが韓国の野球バブルの始まりだったのである。

しかし、野球バブルに慣れてしまったために、ハングリーさを失い、鈍感になった部分もあった。熱狂の裏側で、韓国球界では毎年のように不祥事も絶えなかったのだ。

昨年は選手たちの違法賭博、飲酒運転、性的暴行、公然わいせつといった不祥事はもちろん、球団も関与していた八百長が発覚している。それでも昨年の観客動員数は史上初めて800万人を突破したのだから、選手も関係者たちも危機感を抱けなかったのだろう。

(参考記事:韓国球界激震!! 飲酒、性的暴行、公然わいせつに八百長まで。韓国球界で不祥事が続く理由)

今回のWBCで人々が韓国野球に寄せる期待と信頼は失墜し、それがそのままプロ野球人気に飛び火しそうな雰囲気もある。果たしてWBCで始まった韓国の野球人気は、皮肉にもWBC惨敗によって弾けてしまうバブル大崩壊となってしまうのだろうか。

韓国プロ野球は3月31日に新シーズンが開幕するが、韓国のWBCショックは当分の間、まだまだ続きそうである。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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