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朝日バッシングとジャーナリズムの危機

篠田博之月刊『創』編集長

「自爆」ともいうべき8月5日以来の朝日新聞の迷走は深刻な影響をもたらしつつある。慰安婦問題そのものをなかったことにしようという動きが「朝日新聞も謝罪した」との文言とともに拡大しているし、言論・ジャーナリズムの世界でも「売国奴」「国賊」などという言葉が平気で使われる状況になってしまった。国家や政府を批判することが「売国奴」なる言葉とともに封じられた経験を持つ日本においては、戦後一貫して言論の自由を尊重しようという共通の思いがあったのだが、それがいまや崩壊しつつある。戦後の言論の歴史のなかで今が恐らく大きな転換点になりつつあると言っても過言ではないだろう。

特に深刻なのは、一部雑誌が「国賊」「売国奴」なる表現をためらいもなくぶちあげ、朝日社長を国会招致せよなどと表紙に大書する週刊誌も出ている状況だ。この何年か、出版不況で次々と赤字に転落しつつある週刊誌が、「嫌韓憎中は売れるらしい」との話を聞いて昨年来、次々とその路線に転換。今回の朝日叩きに競うようにして煽情的な見出しを躍らせていることに、まっとうな言論人なら誰もが胸を痛めていると思う。週刊誌が個人名を挙げて、慰安婦報道に関わった朝日の元記者を指弾し、それを受けてそれらの元記者が所属する大学に「売国奴を辞めさせろ」という脅迫がなされている事態も先頃報道されたばかりだ。

今の状況は朝日新聞というひとつの媒体にとどまらず、ジャーナリズム界に深刻な問題を提起していると思う。大事なことは言論・報道に関わる者がきちんとした議論を行うことだが、ジャーナリズム界においてはなかなかそういう場がないのも実情だ。そこで10月15日、下記のような場を設けて集会を行うことにした。東京新聞などが大きく紹介してくれたおかげで、たくさんの人から参加したいという連絡が届いている。現状で事前予約だけで200人くらいメールが届いているが、470人参加可能な会場で、まだ当日参加は可能だと思うので、この問題に関心を持っている人はぜひ参加いただきたい。新聞社などの現場記者も参加する予定だし、日々、言論報道の仕事に関わっている人たちや、今のメディアの状況に関心を寄せている市民たちが直接顔をあわせて議論したいと思っている。

このヤフーブログをこういう告知に使うのはなるべく避けようと思っているが、今回は特別ということでご理解いただきたい。

緊急シンポ!「朝日バッシングとジャーナリズムの危機」

8月以降の朝日新聞に対するバッシングは「国賊」「売国奴」といった言葉が飛び交う異常な状況になっていますが、これは単に朝日新聞社だけの問題でなく、リベラルな言論を委縮させ、ジャーナリズム全体に深刻な問題を引き起こしつつあります。この状況についてメディアや言論、ジャーナリズムに関わる人たちの間で議論する機会を設けました。檀上の者が一方的に話をして終わるというのでなく、会場をまじえて活発な議論を交わしたいと思います。朝日関係者はもちろん、それを批判する側の関係者もぜひ参加して下さい。

10月15日(水)18時開場/18時半開会

文京区民センター3階 電話03-3814-6731

最寄り駅:都営三田線・大江戸線「春日駅A2出口」徒歩2分/東京メトロ丸ノ内線「後楽園駅4b出口」徒歩5分/東京メトロ南北線「後楽園6番出口」徒歩5分/他

入場料1000円  定員470人

発言:青木理(ジャーナリスト)/野中章弘(アジアプレス代表)/新崎盛吾(新聞労連委員長)/森達也(作家)/香山リカ(精神科医)/辰濃哲郎(ノンフィクション作家)/池田恵理子(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)館長)/山口二郎(法政大教授)/下村健一(慶応大学特別招聘教授)/永田浩三(武蔵大教授)/他。

進行:篠田博之(『創』編集長)

※予約なしでも参加は可能ですが事前に座席確保したい方は予約をお願いします。下記メールアドレスへ件名「10・15参加希望」でお名前と連絡先(電話番号、ファックス番号、メールアドレス)をお送りください。 live@tsukuru.co.jp

主催:10・15集会実行委員会(『創』編集部/アジアプレスインターナショナル/アジア記者クラブ/『週刊金曜日』編集部/他)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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