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田代まさしさん「盗撮」騒動の結末がわかりにくいので説明しよう

篠田博之月刊『創』編集長
田代まさしさんとダルクの近藤代表

田代まさしさんの「盗撮」騒動が一応決着した。田代さん本人が2015年9月18日、久々に公式ブログに書き込みを行い、一連の騒動についての謝罪と経過報告を行った。

http://tashiromasashi.seesaa.net/

この日、この発表を行うことになったのは、朝日新聞デジタルの17日付のこの報道があったからだ。

http://digital.asahi.com/articles/ASH9K45KRH9KUTIL01M.html

東京都迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで書類送検されていた田代まさしさんについて、東京簡裁が9月1日付で罰金30万円の略式命令を出していたことを伝えたものだ。朝日新聞の独自取材によるもので、司法関係者から得た情報だろう。17日午後にwebサイトにアップしたものだ。

実はその17日午後に、私は田代さんがスタッフを務めている日本ダルク本部を訪れ、近藤恒夫代表にインタビューしていた。その事務所に田代さんもいて、罰金を払うことになったことも聞いていた。その情報をそのまま公表するのはちょっと待って、と言われて事務所を後にしたのだが、その日の安保法案をめぐる動きが気になってネットを見たら、何と朝日新聞デジタルがその情報をアップしていたのだった。タイミングがあいすぎていて、私が朝日にタレ込んだと思われても困るので、すぐにダルクに電話して、「さっきの話、朝日新聞がネットで報じていますよ」と教えた。他のメディアもすぐに後追いするのは見えていたので、じゃあ公式コメントを出そうということになってアップされたのが、田代さんの公式ブログの見解だ。

でも、それらを見た人はいまだにわかりにくいと思っているのではないだろうか。なぜならば公式ブログで田代さんは、世間を騒がせたことをお詫びしながら、こう書いているからだ。

《今回の事件については、一部マスコミの報道により、私が女性のスカート内を盗撮したことを認め、略式起訴、略式命令になった等の記事が出ていますが、実際には、私は盗撮行為をしていませんし、盗撮行為をしようともしていません。捜査においても携帯電話を入念に調べてもらい、私が盗撮していないことは確認してもらいました。》

つまり盗撮はやっていないという説明だ。朝日新聞の報道で「盗撮容疑で書類送検され、本人も容疑を認めて略式起訴された」と書かれたので、そうでないことを強調したのだろう。でも田代さんのそのコメントの後でも、例えば下記の18日夕方の日テレ系の報道では、田代さんは「盗撮行為を認めていた」と報道されている。

http://www.news24.jp/articles/2015/09/18/07310074.html

いまだに報道が混乱しているわけで、結局、田代さんは盗撮をやったのかやってないのか、どっちなんだ?と戸惑った人もいるだろう。実は田代さんの公式ブログでは、盗撮を否定したうえでこう書かれている。

《ただ、私の当時の行動に誤解を招くような動きがあり、それが東京都条例違反にあたるとのことでしたので、私はそれを真摯に受け入れ、裁判所の略式命令についても対応することにしました。》

私はその17日に田代さんに会った時に、詳しい経緯を聞いているのだが、この書き方だと「誤解を招くような動き」って何なのだ?と疑問に思う人が多いだろう。ここで詳細を明らかにしてもよいのだが、近々直接本人の言葉で説明したのをお伝えできると思うので、それまで保留しよう。確かに盗撮はしていないのだが、かといって冤罪だと言えるような状況でもない、ということだ。

それよりも私には、田代さんがこの時期に、どうして騒動になるような行為を行ったのかが気になるところだ。ダルクでは、この事件は、薬物とは別のことだが、広い意味での依存症と関わりがあるのでは、と見ているようで、田代さんもその見方を受け入れているようだ。

実は田代さんは、既に日本ダルクの講演などに以前と同じように登壇し、この騒動についてお詫びし、これも依存ということらしいので、自分も考えていきたい、といったコメントをしているという。今回の事件と依存症の関係というのも興味深いテーマだ。

9月17日に私が日本ダルクを訪れたのは、その田代さんの事件についての取材ではなく、10月16日(金)に開催されるダルクの「30周年記念フォーラム」について近藤代表に話を聞くためだった。

http://www.darc-dmc.info/30th%20event.htm

日本ダルクは薬物依存からの回復に取り組んでいる民間団体で、30年前に近藤さんが日暮里に開設した東京ダルクから発展したものだ。今では全国約60カ所に拠点を持つ大きな組織になっているのだが、日本における薬物依存克服の歴史はこのダルクの歴史だと言ってよい。ダルクの大きな特徴は、薬物依存経験者が他の薬物依存者のサポートをするという仕組みであることだ。近藤さんも元は薬物で逮捕経験があるし、ダルクのスタッフは基本的に全員薬物依存経験者だ。だからダルクは、薬物依存に苦しんだ人たちが互いに支え合う互助グループといえる独特の集団なのだ。これを日本に作り上げたのは、近藤さんのキャラクターに負う部分もあるだろう。

よく芸能人が薬物事件を起こすと、テレビのコメンテイターが「芸能人だからと甘やかさずに厳罰に処すべきだ」というコメントをするのだが、これは日本における薬物に対する意識がいかに遅れているかを示すものだ。刑務所に2~3年閉じ込めておいても、治療をしない限り薬物依存は治らないのだから、また出所後再犯に至ることになる。大事なのは処罰よりも治療なのであって、欧米ではそういう考えが浸透し、薬物対策が進んでいるのだが、日本では治療という発想が基本的に欠けている。

…といったことを、私は、田代さんの事件もそうだし、その前に女優・三田佳子さんの次男の事件に関わることによって少しずつ理解してきたところだ。元オリンピック体操選手の岡崎聡子さんとも、もう何年も関わっている。

薬物事件の悲惨なところは、出所後、本人も「今度こそ立ち直る」と誓い、周囲も大変な思いをして応援していくのに、それを裏切ってまた逮捕されてしまうといったことの繰り返しであることだ。家族などが懸命になって更生に関わるのに、その努力が再逮捕で水の泡になるという深刻なことが何度も繰り返されるのだ。自分も周囲も崩壊することがわかっていながらなぜ再び薬物に手を出すのか、と誰もが思うのだが、そこが他の犯罪と違う、病気でもあるゆえんだ。

日本でも最近はダイバージョンといって、処罰から治療へという考え方が、次第に浸透しつつある。日本における薬物依存との闘いは、まさに30年かかってようやく変わり始めたのだが、それはダルクの取り組みを抜きにはありえなかったろう。

その日本ダルクが30年の経緯を振り返る集会を行うのが10月16日だ。日比谷公会堂という何千人もが入れる会場を使うことでわかるように、これは薬物関係者の集まりというだけでなく広く社会に理解を広げてもらうという趣旨のイベントだろう。そして、そのイベントの第2部(夜の部)の司会を田代さんが務める予定だという。

私も薬物事件に関わる機会があって思うのだが、日本における薬物依存の問題やダルクの取り組みについては、もっと多くの人に知ってほしいと思う。そして昨年7月の府中刑務所出所後、そのダルクの運動をスタッフとして支えてきた田代さんが、30周年のイベントに登壇するのはとても良いことだと思う。2008年に田代さんが黒羽刑務所を出所した後、田代さんの誕生日など多くの機会にロフトプラスワンなどでイベントを行い、そのたびに全国から田代さんのファンが集まったが、そういう人たちにぜひこの集会に足を運んでほしい。

2008年の出所後は月刊『創』編集部が窓口になったので、いろいろな人から田代さんあてのメールや手紙が編集部に届き、私も多くの田代ファンと知り合った。九州からいつも上京してくれた女性、北海道から来てくれた女性、あるいは横浜地裁での裁判の時、傍聴席の最前列に座って田代さんが入廷すると同時に泣き始めた女性など、田代さんを支え続けたファンの存在に、私も感動するような思いになったことが何度もあった。田代さんにとって、それこそが大きな財産だ。

ぜひ10月16日にはそういう人たちが全国から駆け付け、現在の田代さんに接すると同時に、日本における薬物依存の問題を知ってほしいと思う。日本ダルクのホームページにはこの30周年記念フォーラムについて「詳しい内容は後日お伝えします」とあるから、いずれ詳細が掲載されるはずだ。

田代さんの今回の「盗撮」騒動については、いったい二子玉川駅のホームで何があったのかを含め、近いうちにこのブログや『創』で報告しようと思う。そういえば「盗撮」騒動のさなかに編集部に電話してきて、近々友人の結婚式があって、田代さんのファンなのでメッセージをもらえないかと言ってきた人がいて、今はそれどころじゃないだろうとそのままにしてしまったが、その結婚式がまだだったらもう一度、編集部に電話をしてほしい。

最後に、前回もブログに書いたが、『創』のホームページにこれまでの田代さんをめぐる経緯を「田代まさしという生き方」と題してまとめた。『創』や田代さんの著書『審判』から主要部分を抜粋したものだが、興味ある方はアクセスしてほしい。記事を全文読むには有料だが、全体の流れは無料で見られるようになっている。

http://www.tsukuru.co.jp/

〔訂正とお詫び〕上記の記事は9月19日深夜に書き上げたもので、アップして終電に飛び乗ったのだが、私がダルクを訪れた日が17日なのに18日と書いていたことに気が付いた。今回の騒動の結末をめぐる混乱を書いているのに、その記事が混乱していては話にならないと、20日昼に編集部に来て、この訂正した記事を書いている。訂正した者を再度アップするが、現時点で既に誤った記事を読んでしまった人もいるだろう。お詫びし訂正したい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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