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『週刊文春』スクープ連発の舞台裏を探る

篠田博之月刊『創』編集長

『週刊文春』の新年からのスクープ連発が大きな話題になっている。発売日の前日の水曜日には、翌日発売の『週刊文春』『週刊新潮』がどんなスクープを載せているかが話題になるという状況が続いている。

週刊誌がこれほど続けて注目されたのは久々だ。雑誌低迷が叫ばれていた折だけに、出版界あげてこの状況には歓迎ムードだ。文藝春秋社内でも、1月14日号のベッキー不倫スキャンダルに社長賞、1月28日号の甘利大臣スキャンダルには局長賞が出されている。

スクープを放っても発売日からテレビやネットがその内容を報じてしまうため、なかなか部数につながらないというのが週刊誌界の悩みだった。しかし、さすがにこれだけスクープが重なると、部数も大きく底上げされている。

『週刊文春』はこの1月半ばから刷り部数を約2万部載せて現在約66万部の発行。2015年上半期の平均実売部数は41万7000部(ABC公査)で、実売がじりじり下がっていくのに頭を抱え、少しずつ刷り部数を減らしていた。しかし、この1月から実売部数が上がり、1月28日号の甘利大臣追及第1弾の号が実売8割を記録した。業界では完売と呼ぶ仕上がりだ。

さらに甘利大臣追及第2弾を載せた2月4日号には、SMAP騒動が重なり、実売9割という状態。清原和博逮捕と宮崎謙介議員の不倫スキャンダルが重なった2月18日号も9割の完売となった。元少年Aの写真を載せた2月25日号もほぼ完売。このところの平均実売部数は昨年と比べて号当たり10万部も増えているという。週刊誌の部数がこれだけ急激に底上げになるのは異例のことだ。

ベッキーのスキャンダルでスクープ連発のきっかけを作った1月14日号は、年明け最初の発売で、「3カ月休養」を命じられていた新谷学編集長の復帰の号だった。復帰したからには実績をあげなければならないと、新谷編集長自身はもちろん、編集部も気合がこもっていたことは言うまでもない。一連のスクープ連発には運が作用した面もあるのだが、それを呼び寄せた背景に編集部の意気込みがあったことは確かだろう。「3カ月休養」を含む、同誌をめぐる背景については後述するとして、まずは復帰第1号以降の、スクープ連発の舞台裏を明らかにしていくことにしよう。

一連のスクープのうちで、甘利大臣スキャンダルは、誌面でも明らかにしている通り、昨年秋から追跡取材を行っていたものだった。それを1月に掲載したのは、国会が始まってからと考えたからだった。せっかく永田町を揺るがすスキャンダルを掲載しても、国会でそれが取り上げられて新聞・テレビが連日報道するという状況がないと、大きな展開は期待できない。秋以降、甘利大臣の秘書と告発した男性の密会現場を隠し撮りするなどし、年内にはほぼ全容を固めてはいたのだが、掲載は国会の始まる1月と決めていた。

また2月25日号に掲載した元少年Aの近況も、昨年6月頃より追跡を行って、掲載のタイミングを計っていたものだ。この時期に掲載に踏み切ったのは、スクープ連発で実現した追い風を終焉させないという意図があった。そのふたつは昨年来準備を重ねて満を持して放ったスクープだったが、SMAP分裂騒動や清原逮捕、そしてその前のベッキースキャンダルなどは、たまたまタイミングよくその時期に重なって転がりこんできたものだ。もちろん、それをきちんとモノにしているのは、『週刊文春』の取材力のたまものだろう。

一連のスクープのうち、ベッキースキャンダルと元少年Aのケースについては既にこのブログに一度書き、元少年Aについて書いた記事は月間MVA(Most Valuable Article)に選出いただいた。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20160205-00054155/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20160220-00054598/

一連のスクープのうち評価できるものと、危ういところに踏み込んでいるなと思わざるを得ないものと、それぞれあるのだが、私は、ベッキースキャンダルと元少年A報道は議論すべき余地があると思っている。それについてはまた機会があれば書こう。

見事だった甘利元大臣金銭スキャンダル告発

大物政治家の金銭スキャンダルを暴いて辞任に追い込んだという意味で、甘利大臣追及は見事なスクープだった。『週刊文春』1月28日号「『甘利大臣に賄賂1200万円を渡した』実名告発」が発売されたのは1月21日。その前日から永田町は大騒ぎになり、甘利大臣が会見を開いて釈明。その後、新聞・テレビが連日大報道を展開した。

そこで暴かれた話は、昨年8月下旬に実名告発の主・一色武氏から、以前から面識のあった『週刊文春』J記者にもたらされたものだった。ちなみにその記者は清原薬物疑惑の担当でもあり、昨年3月に張り込み中に清原に遭遇し、羽交い絞めにされた人物だった。

一色氏は、関わった事柄についてこまめにメモを残すというキャラクターの人で、甘利事務所とのやりとりについても録音を行うなど、膨大なメモや資料を残していた。

『週刊文春』側は一色氏の話をもとに裏付け取材を始め、9月7日から甘利大臣の秘書たちとの密会現場へ張り込みも行うようになった。誌面で公開した喫茶店での現金授受の場面の写真は10月19日に隠し撮りしたものだ。この段階ではそういう張り込みを行っていることは一色氏に伝えないで進めたという。

『週刊文春』のスクープ直後から自民党関係者が着目したのは、一色氏と甘利大臣秘書らのやりとりが膨大に録音されていたといった事情で、彼らは当初、このスキャンダルは最初から政治的に仕掛けられたものではないかと考えたようだ。

自民党側も情報戦で対抗したようで、一色氏がもともと右翼団体に所属していたという情報が、当時の名刺のコピーとともに出回った。

一色氏をめぐるそうした情報は『週刊新潮』2月4日号に「甘利大臣を落とし穴にハメた『怪しすぎる情報源』の正体」と題して大きく報じられた。さすが『週刊新潮』で、一色氏の過去の経歴を丹念に取材した記事だった。実際その記事の中では匿名の全国紙記者がこういう見立てをしている。

「薩摩と一色は補償交渉でURからお金を取ろうと、甘利を利用しようとしたが、動きがよくなかったため、切り捨てて、文春にタレこんだという構図でしょう」

つまりスキャンダルは元々金銭目当てで仕掛けられたもので、『週刊文春』がそれに乗ったのだという見方だ。『週刊文春』はもちろんそういうカウンター情報が流されることも想定して事を進めていたが、きちんと裏をとっていなければ、緒戦で足をすくわれていたかもしれない。

ちなみに、おかしいのは『週刊新潮』の記事で一色氏がかつて所属していた右翼団体の元会長がこうコメントしていたことだ。

「あいつは異常なくらいマメな男でね。領収書なんかもいちいち取っておいて、何時に誰と会ったかも全部メモしているような奴だった」

その性格が今回の告発に役立ったわけだが、元会長は続けてこう言っているのだ。

「そういう男は右翼には向かない」

さて、『週刊文春』がこの話を半年前から追い続け、満を持して記事にしたことは前述したが、スクープしてからの対応もなかなか戦略的だった。例えば翌週の第2弾が発売されるまでは、一色氏が他のマスコミにいっさい接触できないように隔離した。テレビや新聞は一色氏をつかまえようと連日自宅を訪れたが、全く接触できなかった。

この段階で他のマスコミが接触してしまうと、それらが独自取材として報道を展開するので、週1回発行の週刊誌は不利な立場に置かれることになる。第2弾が出るまでは同誌は独走状態を保とうと考えたのだ。こういう場合に週刊誌がいつもやる手法だった。結果的に他のマスコミは、『週刊文春』の記事を引用せざるをえず、「週刊文春によると…」という報道が続くことになる。

そのあたりの攻防は当然、『週刊文春』も予測のうえで、「報道ステーション」が最初の報道で『週刊文春』の名前を出さずに内容を紹介したというので法務部と相談のうえ抗議を行っている。新聞やテレビはかつて、こういう場合に「一部週刊誌によると」という言い方で内容を報じてしまうことが多く、週刊誌側はしばしば反発していた。

SMAP分裂騒動で『週刊新潮』と張り合う

さて甘利大臣スキャンダルを報じた『週刊文春』1月28日号にはもうひとつ「SMAP裏切りと屈服 ジャニーズ首脳実名告白」という記事も載っていた。

SMAP分裂騒動がマスコミを賑わすことになったのは、その前の週1月13日のスポーツ紙2紙と14日発売の『週刊新潮』1月21日号「4対1に分裂!SMAP解散への全内幕」が端緒だった。この騒動については本誌前号で詳しく書いたが、周知のように大きなきっかけになったのは昨年の『週刊文春』1月29日号のメリー喜多川副社長インタビューだった。今回の騒動でもこの記事は大きな話題になり、『週刊文春』は急遽、それを電子版で販売し、1月28日号の本誌に再録した。そういう経緯があったから、今回の分裂騒動のスクープをライバルの『週刊新潮』に抜かれたのは痛恨の極みだった。

そこで1週遅れたとはいえ、それを挽回すべく1月28日号で大特集を組むと同時に、メリー喜多川副社長に再度登場願うべく交渉を行ったのだった。しかし、結局、これもうまくいかず、メリー副社長は『週刊新潮』1月28日号に「独占100分 メリー喜多川副社長かく語りき」と題して登場した。

メリー副社長が『週刊文春』登場にためらったのは、以前同誌で父親の葬儀について誤った記事を書かれたことがあって、それにこだわったと言われるが、結局、前週にスクープを放った『週刊新潮』のオファーに応えることになった。ただ『週刊新潮』にとって痛恨だったのは、そのメリー副社長が同誌の質問に答えたのが1月16日土曜の夕方だったことだ。実はその直後から事態は急転回し、18日の月曜日にフジテレビ「SMAP×SMAP」でSMAPの謝罪会見が行われた。このへんが雑誌媒体の悲しいところで、『週刊新潮』が発売された1月21日時点では、その記事は少し古い話になっていたのだった。

一方、『週刊文春』もジャニーズ事務所に何とか食らいつき、メリー副社長インタビューはライバルに奪われたものの、同事務所顧問の小杉理宇造氏のインタビューを掲載した。1月28日号では「ジャニーズ首脳 実名告白」という見出しが掲げられた。ちなみにメリー副社長の昨年のインタビュー記事を商品化した電子版は1万ダウンロードという大きな部数になったという。

清原逮捕と同じ号で宮崎議員の不倫騒動も

SMAP騒動がさめやらぬ2月2日、今度は元プロ野球選手・清原和博の逮捕事件が起きた。これも周知のように『週刊文春』は2014年3月13日号で大きく薬物疑惑を報じ、大きなきっかけをつくっていた。警視庁が内偵捜査に動き出したのもその頃からだと言われている。

逮捕がなされた2月2日は火曜日で『週刊文春』の校了日だった。その日から新聞・テレビは一斉にこの事件を報じ始めるのだが、残念ながら疑惑追及の本家本元にあたる同誌は、その週にそれを扱えなかった。満を持して大特集を組んだ号が発売されたのは翌週10日発売の2月18日号だった。「清原和博懺悔告白」と題した特集タイトルには「本誌でしか読めない逮捕までの全真相」と大きく謳われていた。出遅れた分だけ内容で勝負という気概だったのだろう。

『週刊文春』も『週刊新潮』も清原特集は充実していた。特に『週刊新潮』は群馬の密売人として後に逮捕された人物の家族にも取材を敢行しており、取材力をうかがわせる内容だった。『週刊文春』のスクープ連発に対抗意識を燃やしているのだろう。今年に入ってからの『週刊新潮』もなかなか健闘している。

さてその清原逮捕を特集した『週刊文春』2月18日号には、もうひとつ「育休国会議員の“ゲス不倫”撮った」というスクープ記事も掲載されていた。妻を思いやって育休宣言をした宮崎議員が、実はその妻の出産直前に別の女性を京都の自宅に招き入れていたというとんでもない展開に、世間は大騒ぎになった。周知の通り、宮崎議員は議員辞職することになった。

あまり知られていないのだが、このスクープの発端は、実はベッキースキャンダルの第2弾が掲載された1月21日号にあった。ワイド特集のひとつとして「国会議員の育休提唱 宮崎謙介議員に“二股婚約破棄”騒動」という記事が載っていたのだ。この記事には宮崎議員が京都の有力財界人Aさんの娘など妻以外の女性と噂になっていたことを報じているのだが、地元では宮崎議員の女性問題はしばしば取沙汰されていたらしい。そしてこの取材を推し進める過程で、今回の一件に行き着いたのだった。

宮崎議員は2月5日に同誌の直撃を受けて不倫疑惑を否定したのだが、致命的だったのは自宅に女性を招き入れた1月30日に現場を張りこまれ写真を撮られていたことだった。騒動が『週刊文春』の勝利に終わったのは何といっても現場の証拠写真があったからだが、ではその日、宮崎議員が女性を招き入れることを同誌はどうして知っていたのか。宮崎議員の女性問題をめぐっては、まだ報じられていない部分があるのかもしれない。

皇室報道では宮内庁から抗議

一連の『週刊文春』の報道を見てきたが、実は違った意味で気になる記事もある。例えば1月21日号に掲載された「美智子さまが雅子さまを叱った!」という記事だ。12月23日の天皇誕生日の夜に雅子妃を「お呼び出し」して美智子皇后が意見したという内容だが、あたかも見てきたかのように詳細にその時のやりとりが再現されていたので驚いた。

そしてさらに驚いたのは、宮内庁がホームページでその内容を全くの事実無根と強く抗議したことだ。皇室の話はもともと菊のカーテンの内側のことだから、週刊誌が報道して宮内庁が事実無根と抗議するケースはあった。でもこの場合に気になるのは、『週刊文春』の記事がひどく詳細なことと、宮内庁の抗議が根拠を示したうえで、そういうことはありえないと非難していることだ。

その号の目玉の記事でもあり、翌週の誌面で何らかの説明があるのかと思っていたら、何もないままだった。この対処のしかたを含めて、気になるところだ。

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昨年の「3カ月休養」事件は何だったのか?

新谷編集長の「3カ月休養」問題についても少しだけ触れておこう。

昨年10月8日号に掲載された春画が問題となって、新谷編集長は「休養」という名の事実上の謹慎を申し渡された。当時、業界では大きな話題になった事件だが、その後いろいろ取材してみると、問題は単なる春画掲載の是非だけでなく、同誌の誌面方針をめぐる問題が背後にあることがわかった。総合週刊誌トップを独走する『週刊文春』でも、昨年は部数の落ち込みに悩まされていたのだった。

例えば昨年、同誌のスクープとして業界で話題になったものに小泉進次郎議員の女性問題があった。小泉議員が女性とホテルで過ごした現場を張りこんで詳細な記事にしたものだった。8月13・20日号という2週売りの夏休み合併号で放った同誌としても力を入れたスクープだった。しかし、これが予想に反して思ったほど売れ行きが伸びなかった。

相手女性も独身で、不倫騒動にはならなかったことや、小泉議員のさわやかなキャラクターが根強く浸透していたことなど考えられる理由は幾つかあった。そして、もしかして読者の反発を買ったのではないかと思われたのが「小泉進次郎が抱いた復興庁の女」という、一昔前の週刊誌感覚丸出しのタイトルだった。『週刊文春』は女性読者が多いことで知られるのだが、その女性読者の反発は小泉議員でなく、独身同士のプライバシーを暴き、かつ「小泉進次郎が抱いた女」というオヤジ目線の見出しを掲げた『週刊文春』に向けられた可能性があった。

大衆ジャーナリズムは、どんなふうに読者を巻き込んでいくかというのが大切だ。例えば今回のベッキー不倫騒動は、第2弾で川谷の妻が登場して証言したことで同情が集まり、女性たちが夫に不倫された妻に自分を投影して川谷とベッキーに反発した。『週刊文春』に追い風が吹いたのである。そういう誌面展開が今回の一連のスクープではかなり戦略的だ。

今回の快進撃が果たしていつまで続くのか。その後同誌はどうなるのか。昨年、会社上層部と編集部との間で議論されたことや、それがこの間の誌面でどう生かされたのかなど、検証すべきことはたくさんあるように思える。

以上、この記事は月刊『創』4月号に載せたものを整理したもので、『週刊文春』はその後もスクープを飛ばしているが、それも含めた週刊誌のスキャンダル報道については、近々このブログにアップする。

またTBSラジオ「渋谷和宏・ヒント」にゲスト出演してこのテーマについて発言した。放送は日曜の早朝とかで4月3日と10日に分けてオンエアされる予定。早朝といったも朝5時5分スタートとすごい時間だが、リアルタイムでなくてもネット経由で聞くこともできるらしい。余談だが、前にこの番組に出演した時に、いま服役中の「黒子のバスケ」脅迫犯の渡邊受刑者から「獄中でラジオを聞きました」と手紙が届いた。ラジオというのは獄中者にとっては貴重な娯楽なのだ。

(文中一部敬称略)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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