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乙武洋匡さんスキャンダルのウラ事情はともかく、考えさせられたのは妻の発言だ

篠田博之月刊『創』編集長
週刊文春と女性セブンの「独占告白」

『週刊新潮』3月31日号に端を発した乙武洋匡さんの不倫スキャンダルにウラがあるのではとの指摘がなされているが、私もそう思う。なぜならば乙武さんが昨年12月25日から行っていたという外国への不倫旅行での、相手女性との私的会話が記事中に具体的に再現されているからだ。これは関係者の協力なしには書けないだろう。

実は『週刊新潮』は1週前の3月24日号でも乙武さんのもうひとつの話を暴露していた。恐らく乙武さんの不倫旅行の情報を同誌がつかんだのは、その3月24日号の記事を取材する過程だったと思われる。実はこの24日号の記事もスクープといえばスクープなのだが、誌面上はワイド特集の1本に過ぎなかった。中身は、乙武さんが昨年10月、野党である「日本を元気にする会」から出馬することを約束した誓約書にサインしていたというものだった。

乙武さんは、その後、自民党から誘いを受け、結局「寄らば大樹」で鞍替えすることへ傾いていったと思われる。その『週刊新潮』の記事は、ソデにされ裏切られた側からもたらされた情報に基づくものと考えるのが自然だ。

たぶん乙武さんの周囲には、彼が自民党になびいていくのに反発する人が少なくなかったのだと思う。実際に、乙武さんは4月初めの40歳の誕生日に盛大なパーティーを開いてそこで自民党から出馬表明を行う予定だったと言われるから、3月下旬にスキャンダルが炸裂するというのはタイミングとしても絶妙だった。結果的に出馬の話は潰れることになった。

あくまでも状況証拠しかないのだが、まあ、普通に考えればそういう背景があったと思わざるをえない。乙武さんが自民党から出馬するらしいとの観測が上がり始めた時、多くの人の間に、今まで言ってきたことと違うではないかとの失望感が一気に広がったから、乙武さんのスキャンダルを知り得る立場にあった関係者の中にも、そう思った人がいて不思議はないだろう。

これにちょっと似たケースが、『週刊文春』2月18日号の宮崎謙介元議員の「ゲス不倫」スキャンダルだ。こちらは宮崎元議員が1月30日に自宅に不倫相手の女性を招き入れた現場を押さえたことが決定的だったのだが、実は同誌もそのスクープの前に1月21日号で宮崎議員の「二股婚約破棄」という話をワイド特集で取り上げていた。

地元の財界人の娘とのごたごたを扱ったものだが、同誌が2月18日号でスクープした女性の話はその取材過程で入手したものだろう。1月30日の京都自宅の張り込みも、何か具体的な情報がないとなかなかあそこまではできないものだ。ひとつのネタを追っていたらそこで接触した関係者からもっと大きな別のネタがとれた、というわけだ。乙武さんのスキャンダルもどうもそういうケースだったように思われる。

このへんの真相は当事者が明かさない限り今後も明らかにならない可能性があるのだが、私はむしろ乙武さんのこの時期の自民党からの出馬がなくなってよかったと思う。

でも今回の騒動をめぐるポイントはそこよりもむしろ、障害を抱えた乙武さんの家族や夫婦生活が浮き彫りにされたことのほうにあるような気がする。大きかったのは、彼の妻のメッセージだ。

乙武さんのスキャンダルに油を注いだ感があったのが、『週刊新潮』発売の3月24日に夫婦で出された謝罪だった。「妻である私にも責任の一端があると感じております」という妻の謝罪に一気に反発が吹きだした。夫の不倫に、被害者であるはずの妻がなぜ謝罪するのかと誰もが疑問に思い、選挙を念頭に置いた誰かが妻にその謝罪を強いたに違いないと考えた。

それが騒動をさらに大きくしてしまったのだが、結論的に言うと、どうもそうではなかったらしい。妻は『女性セブン』4月14日号で「実は周りには反対されたのですが、私の希望でコメントを出しました」と答えている。

ちなみに妻のコメントは同じ3月31日発売の『週刊文春』4月7日号と『女性セブン』4月14日号に掲載されている。発売日が同じなのに月号が違うからややこしいうえに、両誌とも「独占告白」とぶちあげている。同じ日に2誌に出ているのに「独占」って何だよ、という疑問は措くとして、よく読むと両誌とも妻を取材しようとして断られているのだ。断る際のやりとりを「独占告白」と銘打って載せるというのも何だかなあと思うが、これはまあ週刊誌のいつもの手法だ。

ただ、「何もお話することはありません」と言いながら、妻は結構話しているから、どこかに世間の誤解を解いておきたいという気持ちはあったのだろう。

『週刊文春』のスクープ連発がずっと続いているから、今回の2誌に載った「独占告白」もどちらかというと『週刊文春』のほうが注目されてしまったのだが、『女性セブン』の記事「乙武くんの妻『介助』『子育て』『夜』の話」もなかなかのものだ。

妻は例えば『週刊文春』の取材依頼に対して「言いたいことはあるのですが、私が取材を受けることはできません」と断りながら「ただ、先日の週刊新潮の報道を受けて、私が出したコメントに関しまして、言葉足らずだった為に、誤解されてしまった方もいるようですので、そこだけは説明させてください」と幾つかのことを語っている。

「子どもが生まれてからは私自身が子育てに精一杯で、心身ともに疲れきっており、主人の世話から少しでも解放される時間が欲しいと思ったのは事実でした」

主人の世話といっても一般的な夫婦の場合と意味が違う。

「多くの方は、乙武は自分ひとりで何でもできると思っているようですが、彼は一種一級障がい者です」

3人の子どもの養育と夫婦の関係をどう両立させるかについては、実は今回の報道の前から話しあいを続けていたという。「私たちの問題は、昨年から長い時間をかけて話し合いをしてきて、夫婦で乗り越えようと決めた矢先の報道でした」

不倫問題の背後には障害者の夫婦生活や家族問題など難しい事情が横たわっているということのようだ。

「私にも責任の一端がある」と語った真意を『女性セブン』の記者に訊かれて、妻はこうも答えている。

「私は日場生活に困難を抱える彼と生活する大変さをわかって結婚したつもりでしたが、子供を育てる中で、手足のない体をぞんざいに扱ってしまったことで、彼がとても屈辱的な思いをしたこともあったと思います」

障害者の抱える性の悩みなどについても『女性セブン』の記事は踏み込んでいてなかなか興味深いのだが、妻の結論はこうだ。

「家族としてもう一度、やり直したいんです。報道は本当に残念ですけど、夫婦の間ではもう解決した話しですので、そっとしておいてほしいです」

確かにスキャンダルが炸裂してからの一部マスコミの報道は、嵩にかかって叩きまくるというものだった。例えば『FLASH』4月12日号の見出しなど「乱倫教育者『乙武クン』笑顔の裏の猟色人生」って、これ幾ら何でもすごすぎないか。

考えてみれば、障害者の夫と3人の子どもを育てるって大変なことだ。今回の騒動は、障害者の家族問題にスポットをあてたわけで、それを多くの人が具体的に考える契機になれば無駄ではなかったと思う。むしろそこをもっと議論すべきなのかもしれない。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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