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宮内庁と官邸の確執や愛子さま不登校など、内部事情が報道されない皇室報道の問題

篠田博之月刊『創』編集長

皇室をめぐって、この間、最大の問題といえば天皇の「生前退位」だが、これについてこの間、週刊誌で相次いで気になる情報が報じられている。

例えば『サンデー毎日』10月23日号「なぜ宮内庁長官は『更迭』されたのか」。毎日新聞の伊藤智永編集委員の署名記事だ。9月26日付で宮内庁長官が交替した人事をめぐって、霞が関では「懲罰人事」という見方がなされているという。

「同庁幹部の異動は春が慣例で、退任した風岡典之氏は来年3月まで在任すると見られていた。霞が関は、天皇陛下の『生前退位』宣言を止められなかったことに対する『懲罰人事』『事実上の更迭』と受け止め、安倍官邸の強権ぶりに息をのんでいるというから、穏やかでない」

「人事発令は『天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議』設置発表の3日後。タイミング的にも皇室の『攻勢』に、官邸側が主導権を奪い返そうと『反撃』に出る仕切り直しの一環とみえる」

もうひとつ、『週刊新潮』10月13日号が「NHK『生前退位』スクープを陰から支えた宮内庁幹部が斬られた」という記事を掲げている。10月1日付の宮内庁人事で、西ヶ廣渉・宮務主管が退任したことをめぐる報道だ。

それによると、NHKが生前退位のニュースを流した7月13日直後から、官邸では、誰が天皇の意向を記者に伝えたのかという「犯人探し」が始まった。そして、天皇の気持ちを受け止めた秋篠宮の意を受けて、宮務主管がNHK記者を秋篠宮に引き合わせたのではという見方がなされ、詰め腹を切らせたのだという。

これらはもちろん憶測を紹介したものだ。しかも、生前退位の話をNHK記者につないだのは秋篠宮だという見方については、『フライデー』8月19・26日合併号「生前退位「天皇の意向」が報じた際に、宮内庁が事実無根と否定している。

しかし、今回の宮内庁人事については、いかにもありそうな話だとして広がっているようだ。

さらに『週刊朝日』11月4日号は「皇室の願いvs官邸の思惑」という特集記事を掲げ、宮内庁と官邸の間に確執が起きていることを伝えている。記事では安倍首相が周囲にこう漏らしたという話を伝えている。

「宮内庁はやんごとない独立王国のようなもの。アンタッチャブルだ」

天皇が長年持っていた生前退位の意に反して官邸が動こうとしないのを見て、この夏、皇室や宮内庁関係者が動き、直接天皇が国民に語りかけるという方法に打って出た。官邸がそれに反発して関係者を更迭するという形で宮内庁人事にメスを入れたというのだ。これが本当だとすると、生前退位をめぐる動きは一般に思われているほど単純ではないわけだ。

もうひとつ、この間、週刊誌が毎週のように報じてきたのが、愛子さまの不登校だ。これについては10月25日の定例会見で宮内庁の小田野展丈東宮大夫が初めて詳しく説明し、新聞などでも比較的大きく報じられた。

愛子さまは9月26日から学習院女子中等科を欠席し、それが1カ月も続いていた。宮内庁は定例会見でこれまで詳しい説明を避けてきたため、新聞・テレビではそのこと自体が殆ど報じられてこなかったのだ。

しかし、中間試験も欠席するなど、長期にわたる不登校はさすがに波紋を広げ、ここへきて週刊誌が毎週のようにその異変を報じていた。『週刊文春』10月27日号によると、東宮御所に勤める職員の間でもピリピリと緊張感が漂い始めていたという。

愛子さまは以前も不登校で騒動になったことがあるが、今回がその時と違うのは、どういう事情なのか踏み込んだ報道がこれまでほとんど見られないことだ。関係者の間に強い緘口令が敷かれているのかもしれない。

この間の週刊誌報道で気になるのは、この症状が、母親の適応障害と関係があるのではないかとの指摘がなされていることだ。例えば『週刊文春』10月20日号「愛子さまに何が起きているのか」は、愛子さまを知るある小児科医の話としてこう書いていた。

「子供は、親がうつや適応障害などの病気療養中であれば全身で案じ、母子の間に親密さがあるほど影響を受けます。小さい頃の愛子さまがあまりお笑いにならないで無表情だったのは、センシティブな一面を表していたと思います」

25日の会見では、担当の侍医の見立てが「少しずつ快方に向かわれているが、回復にはもう少し時間が必要」と紹介された。

健康状態というのはプライベートな情報だからいちいち公表する必要はないという考え方もあろうが、その結果、憶測も含めた未確認情報が増封されていくという構造で、どう対応すべきか宮内庁も困惑しているだろう。

もともと皇室の情報は「菊のカーテン」という言葉もあるように、ある種のタブーに覆われてきた。新聞・テレビがほとんど宮内庁の発表しか報道せず、その裏側の情報はもっぱら週刊誌が書いてきた。昨年、「生前退位」が急進展するきっかけとなった天皇の行事における幾つかのミスも、週刊誌が報じたために知られるところとなったものだ。

皇族のプライバシーと公的情報の区別をどう考えるかという問題も曖昧なままだ。

最近波紋を投げたのは『週刊女性』11月1日号「熱愛発覚 眞子さま横浜デート後のラブラブ車内」だ。表紙にもデカデカとぶちあげて、秋篠宮眞子さまの電車内でのプライベート写真を公表した。ネット上には鮮明なカラー写真も公開している。

http://www.jprime.jp/articles/-/8327

近くに皇室護衛官の姿も見えたと書かれているから本物の眞子さまなのだろう。熱愛発覚と書かれているものの、一緒にいた知人男性との関係などいっさい書かれていないから、たまたま眞子さまの写真を入手したので載せたということだろう。ふたりの車内での様子を居合わせた乗客がコメントしているから、もしかするとその乗客がスマホで撮った写真を編集部に持ち込んだのかもしれない。

一般市民の場合なら、電車内の様子を撮影してこんなふうに公開することはないだろうが、同誌はタレント同様、眞子さまも公人だから報道されてしかるべきと考えたのだろう。

眞子さま本人がこんなふうに電車に乗っていたことのほうに驚いてしまうが、それが撮影されてアップされるというのは警備上の問題も引き起こすから、たぶんこの報道には宮内庁としても困惑したに違いない。

「生前退位」から愛子さま不登校、最近では再び雅子妃の公務ドタキャンが続いてこれも週刊誌で書かれている。皇室は難問山積だ。しかし、新聞・テレビではそれらの事情がさっぱりわからないというこの構造、そろそろ見直すべきではないのだろうか。特に「生前退位」をめぐる経緯については、なぜNHKがあのタイミングで報道したのかを始め、わからないことだらけだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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