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「ゲスの極み乙女。」川谷絵音の活動休止の背景には考えてみるべきことがあるのでは

篠田博之月刊『創』編集長

「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音が10月3日に発表した突然の音楽活動の休止宣言は、まだファンに衝撃を与えたままのようだ。その後、マスコミで「2018年復帰」説が報じられたことに対して10月14日、本人がツイッターでそんなこと言ってないと反論。「何でそうまでして嘘や憶測でニュースにするんだろうか」と呟いた。このエピソードは、今回の活動休止宣言を理解するうえで重要な気がする。川谷はもちろん自分が非難されたことに対する忸怩たる思いもあるとは思うが、それ以上に活動休止を決意した背景には、芸能マスコミに追い回され、あれこれ詮索されることに対する反発があるように見える。そのことを含めて一連の不倫スキャンダル騒動には、思うところがあるので書いておきたい。

今回、活動休止の理由として発表されたのは、交際している女性が未成年なのを知りながら一緒に飲酒していたことだという。その相手女性、ほのかりんは、既にレギュラー出演していたNHK・Eテレの番組『Rの法則』と舞台の降板が決まっている。

この騒動のきっかけは9月29日発売の『週刊文春』10月6日号「ゲス川谷『未成年タレント』とお泊りデート撮った」だった。ほのかが六本木などのバーの常連客だと書いたうえで「未成年タレント」と強調していた。発売翌日に彼女のテレビと舞台の降板が決定した。

実はこの騒動には前段があって、最初に二人の交際をスクープしたのは、8月30日発売の『週刊女性』9月13日号「川谷絵音、20代美女とロマンスがありあまる夜」だった。マンションに二人が一緒に出入りする現場を同誌が直撃したのだが、女性を特定できなかったようで、「20代美女」と誤って書いていた。川谷を追いかけていて、女性と飲酒しているところを捉えたのだが、飲酒しているので当然20代と思い込んでしまったらしい。

『週刊女性』はその時の裏話を、騒動が勃発した直後の10月18日号に書いている。直撃した時、川谷に「彼女は20代前半の一般女性ということ?」と質問したら、「はい。だから写真は撮らないでいただきたいです」と言われ、そのまま信じてしまったという。ちなみにほのかは10月4日に20歳の誕生日を迎えた。その直前に未成年飲酒が発覚してしまったわけだ。

さて、ここまでの話なら、わざわざここで取り上げるまでもないのだが、この騒動を見ていて気になったことがある。

交際していた女性が未成年飲酒で騒動になったとして、それを理由に川谷が活動休止を決めたのには、少し複雑な思いが背景にあるように感じるのだ。

例えば今回の騒動の発端となった最初の『週刊女性』の記事は、ベッキーと川谷の明暗を強調。ベッキーは休業を余儀なくされたのに、川谷は不倫騒動でバンドの知名度がアップし、公私とも絶好調と指摘していた。ベッキーは辛い思いをしているのに、一方の川谷は…という切り口は、この間の週刊誌報道で一貫している。

また『女性セブン』10月20日号「ああ不倫偏差値の残酷」は、男女が不倫した場合、女性に対して厳しい追及がなされる。ベッキーと川谷の場合もそうだったという記事だ。その指摘は確かに当たっているし、「不倫偏差値」とはなかなかいいネーミングだが、そういう文脈で非難され、常時週刊誌に追い回されていては、川谷に、「いい加減にしろ」という気持ちが生じるのも無理はないだろう。

1月初めのベッキー不倫スキャンダル以降、週刊誌は毎週のように有名人の不倫を追いかけ、読者も「次は誰か」と期待して見るようになった。不倫スキャンダルがこれほど相次いで芸能マスコミを賑わすのは久しぶりだ。

最近は、マンガ家の浦沢直樹さんのように、芸能人以外にまでターゲットが拡大している。人気マンガ家のスキャンダルなど、マンガによって経営が支えられている講談社や小学館の週刊誌ではタブーだろうが、報道したのは『週刊女性』。いまやネットも含めて媒体が多様化したために、「出版社にとって作家のスキャンダルはタブー」と言われたような聖域が狭まりつつあるのだ。

ただ、最近の騒動を見ていると、いい思いをしている有名人がスキャンダルで引きずり降ろされるのを見て溜飲を下げるという鬱屈した思いが投影されている空気を感じてならない。権威あるものを引きずりおろすというのは週刊誌ジャーナリズムの基本だが、それが強大な権力に向かわず、「休業したベッキーに対していい思いをしている川谷」といったわずかな差異に飛びついてわかりやすいバッシングの構図が作られる。

1月以来、ブームとも言えるほど連続する不倫スキャンダルと、それがウケるという風潮、背後に考えてみるべき問題を内包しているように思えるのだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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