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「ゆるい就職」というゆるい自殺

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
週休4日で「遊ぼう」と誘惑するゆるい就職のホームページ。筆者キャプチャ。

「週休4日で人生を楽しもう」的な働き方を提案する『ゆるい就職』なる人材派遣サービスがあるそうです。が、結論から先に言いますと若者はこんなものに騙されない方がいいですよ。

毎日新聞が「ゆるい就職:若者が正社員で働くのは「負け」 慶大助教が提案」といったタイトルで若者を煽っていますが、ワークショップに参加しただけの23歳の若者の発言を、人材派遣サービス提案者である慶大助教の発言のように掲載するのは新聞社としていかがなものでしょうか。

べつに若者が仕事を「勝ち」「負け」で判断するのは良いんです。若いとき、そういう考えにいたることもあるでしょう。でも働くことに勝ちも負けもありません。あるのは給与の差。そしてこの若者と同じ目線で判断するなら、このゆるい就職は明らかに負けの方です。

その働き方、ワークシェアリングだよ。知らないのか?

ゆるい就職は週休4日で月給15万。倍勤務して週休1日だとすると月給30万。年収にして360万円です。360万円の仕事を、週休4日という制度で分け合っています。

これをなんと呼ぶか、皆さんご存じですよね? そう、ワークシェアリングです。失業者が増えるのを防ぐために、少ない仕事を分け合う仕組みです。

ワークシェアリングの代表的な国はオランダですが、オランダではフルタイムの労働者とパートタイムの労働者の時給や社会保険制度加入などに格差がないからこれができるだけで、「週3日勤務は社会保険の適用外」の日本でこれをやるのは自殺行為です。

日本でこれができるのはIKEAです。ゆるい就職とか言ってないでIKEAでパートしましょう。

行き着く先は30代宿無しフリーター

ゆるい就職の記事を読んで「ずるいなぁ」と感じるのは、プロジェクトリーダーである宇佐美啓さんの以下のコメントです。

若者全員にこの働き方を押しつけるわけではない。選択肢を増やしたいだけ。安定を得る代わり単身赴任も長時間労働も受け入れ、家族を養うのが当然だった50、60代男性と今の若者とは見える光景が違う。ワーク・ライフ・バランスを大事にし、仕事以外にも充実感を得たいのが僕ら、そしてより若い世代

出典:ゆるい就職:若者が正社員で働くのは「負け」 慶大助教が提案 - 毎日新聞

「選択肢を増やしたいだけ」と言うのは、つまり「私たちは選択肢を増やしただけであってゆるい就職を選んだ若者の将来に何も責任を負わない」ということにほかなりません。

まあ成人を捕まえて責任云々もおかしな話ですが、その増やした選択肢の行き着く先が「30代宿無しフリーター」だったら「ずるい」と指摘するくらいは良いでしょう。

「ワーク・ライフ・バランスを大事に」、「仕事以外にも充実感を得たい」の言葉も聞こえは良いですが、ゆるい就職は基本的にダブルワークをしないと就職氷河期世代と同じ待遇になってしまうのが目に見えています。

企業の採用が細る中で就職戦線を迎えたこの世代は、正社員になるチャンスを逃した人が多い。「派遣」や「フリーター」という不安定な雇用関係を強いられ、働いてきた。中には、ネットカフェや漫画喫茶を転々とし、「日雇い労働」の生活を強いられる「ワーキングプア」に転落する者まで出てきている。

出典:日経スペシャル ガイアの夜明け : テレビ東京

ボクは企業での採用の手伝いもしていますが、「30代、ゆるい就職で働きながら休日を満喫してましたが生活が苦しくなったので正社員になることにしました。雇ってください」とか言われても困る。いや本当に困る。

ゆるい就職が使えるのは、起業を目指す若者が初期の生活費を稼ぐためだとか、アーティストが一発当てるまで頑張るためだとか、「将来的にゆるい就職以外で食べていく」ことを目的としたダブルワーク以外にありません。

週休4日で遊び放題などこの日本では「ゆるい自殺」でしかないので、若者の皆さんは誘惑に惑わされずに普通に就職した方が良いですよ。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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