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【熊本地震】復興支援のためにウェブ関係者117人が自腹で取材旅行に行った話

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
集まった117人による記念撮影。熊本県南小国町のパワースポット「押戸石の丘」にて

「黒川温泉に100人集めて、お金を落として情報発信しませんか?」

今年5月23日(月)、イーアイデム社が運営するウェブサイト『ジモコロ』が、ウェブ関係者に対してそう呼びかけた。

【熊本震災支援イベント】黒川温泉に100人集めて「お金を落として」「情報発信しよう」 - イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」

ライター、編集者、ブロガー、クリエイター、メディア関係者など、情報発信に長けた人たちを集めて一斉に熊本県の復興支援をしようというツアーだ。もちろん「お金を落とす」のだから自腹だ。

福岡県に住む筆者もライターとして熊本支援がしたいと考え、一も二もなく参加を表明した。

ツアーは飲めや歌えやの楽しいイベントが盛りだくさんだったが、この記事では被災地の方々が復興に向けてどう動いているのかをお伝えしたい。

迂回路を通って阿蘇神社へ

ツアー当日の7月2日(土)、参加者たちは熊本空港へと集まった。日本全国から参加があるため、まずは空港で揃ってから被災地を巡るという流れだ。

最初に向かったのは阿蘇神社だ。熊本市から阿蘇市の主要道路をつなぐ『阿蘇大橋』が崩落しており、峠を越える迂回路を通って阿蘇市へと向かった。

途中、地震で崩れたという山も見えた。

土砂崩れを起こした山。筆者撮影
土砂崩れを起こした山。筆者撮影

バスでの移動中に撮った写真のためキレイな写りでなく申し訳ないが、土砂崩れにより山肌が大きく傷ついているのが分かる(読者の方より、山崩れではなく採石場ではないかとの指摘を受けました。説明では崩れたとの話であり、真偽を確認できないため両方の情報を掲載します)。

そんな山々を見ながら着いた阿蘇神社も、国の重要文化財に指定されている楼門と神事を行う拝殿が全壊、そのほか3つの神殿も半壊していた。

今後、この阿蘇神社をどう復興させていくのか。権根宜(ごんねぎ・神職のひとつ)を務める池浦さんに話を伺った。

阿蘇神社「建物は倒壊したが今まで通りの役割を果たしたい」

阿蘇神社の倒壊した楼門。筆者撮影
阿蘇神社の倒壊した楼門。筆者撮影

まず、倒壊した楼門は重要文化財に指定されているため復旧費用の補助金も下りることになり、今後数年かけて災害復旧の事業が進められていくという。ただ、一番大変なのは楼門をどうやって再建するか、だ。

楼門は重要文化財のため、基本的に再建は元の部材を使わなければいけない。どうしても欠損している部分のみ新しいもので補うが、崩れ落ちた“無事な部材”を掘り起こすのが大変なのだそうだ。

楼門と平行してほかの建物の修復も行われるが、今のところ10年ちかくかかる見込みだという。

むしろ、大きな課題はもうひとつの倒壊した建物、拝殿の方だ。

倒壊した拝殿。後ろには半壊した神殿が3つある。筆者撮影
倒壊した拝殿。後ろには半壊した神殿が3つある。筆者撮影

拝殿は文化財の指定を受けていないため、自己資金での再建となる。拝殿は神事を行う場所であり、これがないと神事が行えない。今は建築申請の不要な仮設を隣に建てており、今後はそこで神事を行う予定しているという。

「建物はないが、復旧に向けて神社としての今までの役割をきちんと果たし、参拝者の受け入れやお祭りの神事を確実にやって社会の復興に貢献していきたい」と池浦さんは語る。

また、復旧できるところは随時行っていくが、復旧の課程も見て欲しいと考えているそうだ。たとえば楼門は伝統的な建造物の技術が使われているため、文化庁と相談しながら業務に支障のない範囲で観光資源として提供していきたいという。

被害のひどい阿蘇神社だが周辺はそうでもなく、住民の方々にも好意的に復旧に協力して頂いているため、観光客にリピートして復旧の進捗を確認して貰えるような取り組みをしていきたいとのことだ。

「地震のあと、予約が真っ白になった」

黒川温泉女将の会の代表、北里有紀さん。筆者撮影
黒川温泉女将の会の代表、北里有紀さん。筆者撮影

阿蘇神社での短いインタビューのあと、南小国町役場、黒川温泉とめぐり、続いで瀬の本高原に建つドライブイン『三愛レストハウス』で夕食が振る舞われた。

三愛レストハウス 阿蘇・瀬の本高原

夕食はビュッフェ形式であり、熊本名物の馬刺しもヤマメの塩焼きもあか牛の丸焼きも食べ放題かつお酒も呑み放題という豪勢なものだった。そんな宴のなかで、黒川温泉女将の会から参加されていた旅館の女将さんたちに震災後の話を伺った。

――震災後の宿泊状況はどうでしたか?

(インタビューの相手は北里さんではありません、念のため)

「地震のあと、本当に一瞬にして5月6月の予約が真っ白になった。アッハッハッハッハ。ウチはすぐ片付けて3日後には『もう営業できる』と組合に連絡したんだけどね(肝心のお客さんがこない)」

――ボクも熊本には良く行くのですが、果たして行って良いものかと

「一番まずいのは『地震のあと行って良いのかな?』という空気が流れること。そこはメディアの力だよね。『大丈夫』という情報を、小さいことでもいいから発信して欲しい」

「ふっこう割、本当にありがたい」

ビュッフェなので馬刺しが無限に出てきた。筆者撮影
ビュッフェなので馬刺しが無限に出てきた。筆者撮影

――ふっこう割のクーポンの感触は?(インタビューは7月2日。クーポンが出た翌日)

「熊本と大分は1万枚用意されてたけど、すぐになくなった。クーポンは取るだけじゃなくて予約もしないといけないから、取っただけで(安心してしまって)おわった人も多いんじゃないかな?

ただ、クーポンは本当にありがたい。ウチは昨日の予約だけでも200組、(クーポンの値引き分だけで)400万円になる。そんなに(差額分を)税金で投入して貰えるなんて。

この2ヶ月間、本当に値段を下げていても来なかった。もう慌てて銀行に行って、支店長なんか顔を見るなり『あ、運転資金ですね』って、お金がなくてしのいでいた。だからクーポンは本当にありがたい」

ヤマメも女将さんたちが無限に焼いてくれてました。筆者撮影
ヤマメも女将さんたちが無限に焼いてくれてました。筆者撮影

――別の女将さんにも話を伺うと

「じゃらんさんとか、楽天さんとか、ああいうところからすごいFAXの量がきてました。工事で営業を一週間休んでいて昨日から旅館を再開したんですけど、こんなに来ているとは思わなかった」

――震災直後のキャンセルは?

「(地震前は)結構調子が良くて、今月も良い調子で行くねっていう話を娘としてたら、地震でいっぺんにキャンセルです」

――今も?

「今もです。みんなそれなりに大変です。従業員をけっこう抱えているので、これだけお客さんがこないと……」

あか牛が上手に焼かれてました。筆者撮影
あか牛が上手に焼かれてました。筆者撮影

熊本県・大分県に行こう!

このあとも紙面には書けないような話をいろいろと聞くことができた。

女将さん方はいずれもふっこう割に感謝しており、とくに梅雨明けの時期からに期待しているとのことだった(つまりあなたがこれを読んでいる今)。

女将さんの口からは言えないだろうが、福岡県に住む人間としてはもはや地震はほとんど感じない。大丈夫、と言って良いだろう。もしも熊本県・大分県への旅行に迷っている方がいれば、ぜひ遊びに行って欲しい。

そうそう、面白いというか女将さんから聞いた話のなかで「ありがたいな」と思った話をひとつ紹介したい。震災後、黒川温泉では外国人旅行客が一斉にキャンセルしたそうだが、1組、台湾からのグループだけキャンセルせずに泊まって行ってくれたのだそうだ。

そのグループが震災後の熊本を応援したいと思っていてくれていたのかは定かではないが、話を聞いてひとりの日本人として感謝したくなった。

震災の影響が気になる人はいるだろうが、大丈夫なことはこの日のツアーで十分に体験してきた。美味しいものを食べて、いろんなところを見て、熊本県・大分県を楽しんで欲しい。

そのほかのツアー参加者の記事が読んでみたい方は、以下のリンクからどうぞ。

自腹で情報発信! 熊本震災支援イベントに「100人のライター」が集まった結果 - イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」

黒川温泉に行ったら漬物屋さんできゅうりの一本漬けを食べてみてください。美味しいです。筆者撮影
黒川温泉に行ったら漬物屋さんできゅうりの一本漬けを食べてみてください。美味しいです。筆者撮影
ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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