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舛添都政は短命。では、脱原発派都民の課題は?マスコミ世論操作への対抗策は?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

予想通りであったが、今回の都知事選のマスコミの報道ぶりが最初から最後までヒドすぎた。「舛添氏圧勝」「安倍政権に信任」…そんなに安倍政権や原発業界に媚を売りたいのか、それとも脳ミソ空っぽで何も考えていないのか。冷静に今回の得票数を観てみよう。宇都宮健児氏、細川護煕氏のいわゆる「脱原発候補」の得票はそれぞれ、98.2万票、95.6万票。合計すれば約200万票だ。それでも舛添氏の得票数には及ばないが肉薄する数である。一方、都知事選で唯一、「原発推進」を訴えていた田母神俊雄氏は約61万票であった。舛添氏が「私も脱原発」と語り、脱原発の争点外しにやっきになっていたことから考えれば、脱原発200万票はバカに出来ない数字である。安倍首相はあまり調子に乗り過ぎない方がいい。原発再稼働が承認されたわけではないのだから

さて、新都知事となった舛添要一氏だが、おそらく4年間の任期を務めあげることはできないだろう。拙稿でも取り上げた通り、舛添氏は政党助成金の不正使用疑惑など、「政治とカネ」でのツッコミどころが多すぎるからだ該当記事)。女性関係のスキャンダルも色々と追及されることであろう(関連記事)。だから、今回、宇都宮氏や細川氏を応援した都内の人々は、「舛添後」を考えて動き始めた方がいいだろう。その上で、いくつか課題がある。

○低投票率への批判と制度改革

首都圏を襲った大雪のせいもあってか、今回の投票率は46%と半数にも満たなかった。この様な低投票率では選挙の正当性だけでなく、民主主義そのものが成り立たない。だから、提案したい。日本も義務投票制を導入すべきではないだろうか。実際、オーストラリアなどでは、投票に行かないと罰金が科せられるため、投票率は常に90%台である。無論、身体にハンディキャップのある方々のことは考慮しないといけないが、日本が代議制民主主義制度を採用し、主権が国民にあると憲法に明記されている以上、特に理由もなく投票に行かない、ということは、この国の根底部分を揺るがす。「投票したい候補がいない」という人々もよくいるが、彼らがどれ程、各候補の政策を読み、理解しているのか。投票が義務化されたら、少しは政治に関心を持つようになるかもしれない。ただ、不投票の摘発は法改正が必要だろうし、裁判等のコストもかかる。ならば、投票にいくことへのインセンティブを持たせる、というもの良いかもしれない。私のフェイスブックに、「投票した人に、1週間有効の、5千円分の地域クーポンを配るのはどうでしょう。低コストで、投票率と地域経済の向上に貢献できると思います」という提案があった。非常に良い提案だと思う。こうした制度改革についての議論がもっと行われるべきだ。

○勝ち馬予測的な報道から、政策・実績の分析重視の報道へ

日本の政治報道はその多くが、政局報道であって、政策報道ではない。有力政治家の派閥争いやら、誰が誰とくっついた離れたやらと、芸能ゴシップとさして変わらない内容だ。特に、選挙戦中は「公平さ」という大義名分の元、各政党・各候補の政策・実績の分析よりも、世論調査で「どの党・どの候補が人気」という競馬の勝ち馬予測的なものが大半となる。今回の都知事選でも、早い段階から「舛添氏が最有力候補」という報道が繰り返された。有権者は自分の投票がムダになるのを嫌う傾向があり、こうした世論調査は「世論操作」という側面もある。だから、諸外国では選挙前の一定期間、世論調査を禁じていたり、世論調査を行うにしても、厳格なルールを定めているということも多い(関連論文。そして、実は日本においても、公職選挙法138条の3において、「選挙戦での人気投票を禁じる」という規定があるのである。

第百三十八条の三  何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。

出典:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html

マスコミ側は、「世論の分析であって人気投票ではない」としているが、上記したような日本の政治報道のお粗末さや、結局は知名度に勝る候補が当選しやすいという昨今の日本の有権者のレベルから考えて、公職選挙法138条の3は、より厳格に守られるべきだろう。

今回の都知事選でも、日本の政治・選挙報道の弊害は際立った。猪瀬前都知事の辞任引き金が「政治とカネ」であったにもかかわらず、舛添氏はじめ各候補の「クリーンさ」は十分に論議されることはなかった。安倍首相の「原発は国政の問題、都知事選とは関係ない」という主張をタレ流しにしている報道も目立ったが、東京都は東電の大株主であり、最大の電力消費地である。東京都のエネルギー政策は自ずと原発の是非にも関わってくる。こうした政策論争がもっと活発に行われるべきだったのだ。開票後の宇都宮事務所での会見で、NHKインタビューでの「政策が届かなかったということか?」との質問に対する宇都宮氏の「街頭宣伝では届く範囲が限られている。テレビ討論が16回もなくなったのは残念。NHKはなぜ、政策討論会を開かなかったのか?私はききたいですね」という切り返しには全く頷けるものがある。

正直、私自身、日本のマスコミが劇的に変わるとも思えないのだが、NHK会長・経営委員人事を観ればわかるように、安倍政権は露骨なメディアへの介入を何の躊躇もなく行っている。視聴者や読者が声を上げなければ、日本のマスコミはますます劣化していくことだろう。

○既存メディアしか目にしない人々にどう伝えるか

報道によれば、舛添氏は高齢者から圧倒的な支持を得たという。「福祉の舛添」というイメージ戦略が成功したのだろうが、大変皮肉なことだ。先日、拙稿でも触れたように、舛添氏はテレビで高齢者を「ジジイ、ババア」「ヤツら」と罵り、「高齢者から金を取ればいい」と発言していたメンタリティの持ち主である。そして、舛添氏は厚生労働大臣時代に「姥捨て山制度」「高齢者いじめ制度」として悪名高い後期高齢者医療制度を、「長寿医療制度」として正当化。後に、同制度の見直しを示唆したが、「制度の根幹は変えない」との発言の通り、高齢者の保健負担額はむしろ増大した。「医療費適正化計画」として医療費削減を推進した、という「実績」もある。「適正化」の掛け声の元、多くの高齢者達が、入院してもすぐ病院から放り出されるという憂き目にあったのだ

だが、今回の投票傾向でも明らかになったように、多くの高齢者の方々は「福祉の舛添」というイメージに流された。その原因として、高齢者の多くはネットも使わず、情報源はテレビや新聞といったマスコミだけ、ということがあげられるだろう。デジタル・デバイドであり、メディア・デバイドでもある。つまり「情報格差」だ。少子高齢化が進む中、高齢者の票の動向は、バカにできないものがある。既存のマスコミ情報に頼る高齢者達に、いかにオルタナティブな情報を届けるかは、日本の市民社会の課題だろう。ツイッターで私に寄せられた意見では、「ずっと自民党支持だった高齢の母に、Youtubeでいろいろな動画を紹介したら、別人のように意見が変わりました」というものもあった。ネットメディアにはネットメディアの弊害もあるものの、ともかく、もっと多種多様な視点や分析がより多くの人々にとどくことは重要である。

○あくまでで日頃が大切―もし、200万人が官邸前に押しかけたら

所詮、短い選挙期間でできることは限られている。だからこそ、普段からの行動が大事なのだ。今回、東京都だけで約200万人の人々が脱原発候補に投票した。この200万人が一斉に行動を起こす―例えば、首相官邸前に押しかけるなどすれば、それ自体の効果のみならず広範な連鎖反応を呼び起こし、脱原発への道は一気に開けるであろう。私は小泉純一郎氏は全く信用していないし、彼のイラク戦争支持・支援は絶対に許すことはできないのだが(関連記事)、もし、小泉氏が本気で脱原発を考えているのならば、細川氏や宇都宮氏らと共に、即時脱原発一斉行動を呼びかければいい。あるいは、脱原発派の都民がそう求めればいい。

今回の選挙結果をただ敗北と受け止めるのか。それとも、次の行動のステップとするのか。それは脱原発派の人々の一人ひとりに問われることなのである。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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