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【速報】杉本祐一さん外国人記者クラブでの声明全文ーパスポート強制返納問題

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
外国人記者クラブで会見する杉本祐一さん

シリア取材を計画していたフリーカメラマンの杉本祐一さんが、外務省にパスポートを強制返納させられた問題で、本日2月12日昼、外国人記者クラブで会見を行った。以下、杉本さんの声明全文。

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この度、私、フリーカメラマン杉本祐一のために、

このような場を提供いただき、まことに有難うございます。

私は、この20年間、旧ユーゴスラビアや、アフガニスタン、パレスチナ、イラク、そしてシリアで写真を撮り続けてきました。紛争地で生きる人々、難民キャンプでの生活、自由と民主主義を求め戦っている青年達の姿を、私の地元、新潟県の新聞やテレビなどを中心に、各メディアを通じて日本の人々にお伝えしてきました。その度に大きな反響をいただき、感謝しております。

今回、突然、パスポートの強制返納という事態に直面し、大変驚き、またショックをうけております。パスポートを失うということは、私のフリーカメラマンの仕事を失うということであり、また私の人生そのものが否定されるということだからです。

事の起こりは、今月はじめ地元の新聞に取材を受けたことでした。記者にまたシリアに行くのか、と聞かれ、何度も取材を受けてきた信頼していた媒体だったので、シリアでの取材を検討している、と答えてしまいました。ところが、新聞記事で、私がシリアに行くこと、さらには詳しい日程まで、掲載されてしまい、本当に驚きました。私は静かにシリアに行き、また静かに帰国することを望んでおり、全く不本意なことだったのです。

それから、すぐに外務省から電話がかかってきました。確か2月の2日か3日だったと記憶しております。その内容は、「新聞記事を読んで杉本さんがシリア行きを計画していることを知った、今回の取材はやめて欲しい」旨のお話でした。しかし、私は、昨年11月、シリア北部のコバニでの攻防戦を取材し、そのコバニがイスラム国から解放され、クルド人部隊による海外記者を案内するプレスツアーも行われているというので、是非取材に行きたいと思い、現地行きのチケットを手配していました。ただ、イスラム国の支配地域に行くつもりはありませんでしたし、そもそもシリアに入るかどうかも、現地の信頼できる仲間と相談して、現地情勢を見定めながら判断しようと思っておりました。刻一刻と情勢が変わる紛争地では、当初の予定通りにことが運ぶとは限りませんから、遠くはなれた新潟ではなく、シリア国境近くで情報を収集し、判断したかったのです。外務省の職員の方とは「中止して欲しい」「行きます」とのやりとりが続きましたが、その電話は15分から20分ほどで終えたと記憶しております。

その翌日に、今度は新潟県警の中央警察署の警備課長からお会いしたいとの電話をいただき、喫茶店でお会いしました。その時も「シリア行きをやめて欲しい」「行きます」とのやり取りだったのですが、警備課長は最後に家族の連絡先を教えて欲しい、無事に帰ってきて欲しいと、言ってくれたのを記憶しております。その後の7日の午後7時頃、私が外出先から自宅へと戻ると、近くの駐車場にライトをつけっぱなしの車が止まっており、その光の中に浮かんだ数人の男達の姿がありました。そして、自分が自宅玄関を開けようとした際に、男たちは駆け寄ってきて「杉本さんですか?」と声をかけてきました。「あなた方は?」と聞くと「外務省から来ました」と答えたのでした。

外務省の職員達に「部屋に入れて欲しい」と言われたので、部屋に案内しました。私の正面に外務省領事局旅券課の外務事務官が座り、その横には、課長補佐が立っておりました。その後ろに警察官2名が立っていましました。そこでまた「行かないでくれ」「行く」とのやり取りとなったのですが、「パスポートを返納しろ」とも言われ、「返納しない」と応じました。その後、外務事務官は、岸田文雄外務大臣の名前入りのパスポート返納命令書を読み上げ、旅券法の辞典を開き、ここを読め、と言われましたので、読みました。

こうしたやり取りの中で、「返納しない場合は逮捕する」と2,3回言われました。どうしようかと悩みましたが、どちらにせよ逮捕されてしまえば、パスポートは没収されること、狭いところに押し込められ、事情聴取を受け、起訴され裁判になった際の弁護士の費用を考えました。これらのリスクを考えた際、パスポート返納に応じざるを得なかったのです。そして、夜7時55分頃、外務省の職員らは私のパスポートを持って引き上げていったのでした。

私も、シリアに退避勧告が出されていることは知っており、外務省からもそうした説明を受けていましたが、退避勧告とは、あくまで危険情報であり、強制力を持たないものだったはずです。確かに、旅券法には、旅券名義人の生命・財産を保護する目的で返納を命令できるとは書いてありますが、一口にシリアと言っても場所により状況は全く異なります。先ほども申し上げましたように、私はイスラム国の支配地域には行くつもりはありませんでした。コバニはイスラム国から解放されており、クルド人部隊の警護の下でプレスツアーが行われ、多くの外国の記者が取材に入っておりましたので、コバニならば、大丈夫であろうと私は判断しました。また、今回、もし可能であれば自由シリア軍の支配地域での取材は考えておりましたが、私も20年間の経験から、決して無理はしないと決めており、あくまでコバニや、トルコ側のアクチャガレの取材を優先しておりました。

報道関係者が、外務省にパスポート強制返納されたのは、戦後、日本国憲法が公布されて以来、初めてのケースだと聞いております。私としましては、自分のパスポートを取り戻したいのは勿論のこと、私の事例が悪しき先例になり、他の報道関係者まで強制返納を命じられ、報道の自由、取材の自由を奪われることを危惧しております。つきましては、できるだけ早くに、外務省に異議申立てを行い、場合によっては法的措置も取ることも検討したいと思います。最後に皆さんに伺いたいのですが、皆さんの国では、このような事例があるのでしょうか?教えていただければ幸いです。

ご静聴ありがとうございました。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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