世界が報じたパスポートを強制返納させる安倍政権の異常-BBC、CNN、ロイター、NYタイムズetc
シリア取材を予定していたフリーカメラマンの杉本祐一さんがパスポートを外務省に強制返納させられた問題について、複数の海外主要メディアがとりあげている。英国のBBC放送や米国のCNN、FOXニュースといったテレビ局、ロイターやAP、AFPといった通信社、さらには、APの配信記事を米国のニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙が掲載している。中でも踏み込んだ見解を示したのが、米国の老舗週刊ジャーナリズム誌の『タイム』だ。同誌は2月11日付けで「シリアに行くことを考えることすらしてはならない-日本がジャーナリスト達に伝える」というタイトルで杉本さんのパスポート強制返納問題を取り上げている(該当記事)。記事冒頭で「安倍政権はなんて酷い方法で、シリアでの人質危機を防ごうとするのか?」「シリアに行こうと考えただけで日本のジャーナリストはパスポートを奪われる」と痛烈に批判。また日本外国特派員協会(外国人記者クラブ)が、本件について抗議声明を発表することも検討している、とも報じた。
○先進国での「報道の自由」の重み
なぜ、日本のフリーカメラマン一人のパスポートが取り上げられたことを、海外主要メディアがこぞって報じているのか。それは、まず第一に、少なくとも欧米先進国では、個人がパスポートを持つこと、つまり個人が自由に国家間を移動することは、普遍的な権利とみなされていることからだ。例えば、犯罪をおかし、裁判で実刑判決が下されているなどの例外を除き、基本的には、国家が個人のパスポートを取り上げることはあり得ないことである。最近では、各国の若者が戦闘員、或いはその花嫁としてISIS(イスラム国)の支配地域へ向かっていることが問題となっているため、そうした目的での渡航を当局が未然に止めようとすることは行われているものの、ジャーナリストが取材目的でシリアに向かうことを国家が逮捕・拘束という強硬措置をちらつかせ妨害することは、明らかに異常なことなのである。今月12日に外国人記者クラブで行われた杉本祐一さんの記者会見に参加した各国の記者達は、一様に驚きを隠せない様子であった。会見で質問したフランス人記者、イタリア人記者達は共に「自国ではあり得ないこと」と語っていた。フランスもイタリアもジャーナリストや人道支援関係者がISISに拘束されながら(その後解放)、ジャーナリストの取材活動を制限してはいない。「テロ組織」に対し最も強硬な米国ですら、ケリー国務長官が「ジャーナリズムには危険が伴う。リスクを完全に取り除く方法はなく、唯一の例外は沈黙だ。しかし、これは降伏だ。世界は何が起きているか伝えられることを必要としている。沈黙は独裁者や圧政者に力を与える」 と演説しているのである。こうした背景には、人々の「知る権利」と直結する「報道の自由」が、民主主義制度の根幹である、という共通認識が根付いているからだ。
○「報道の自由」を自ら捨てる日本のメディアの存在意義は?
それに比べ、日本はどうか。読売新聞も産経新聞も、社説で今回のパスポート返納を「妥当」と公言した。メディアが自ら「報道の自由」「取材の自由」より、政府の意向を優先するとしたのだ。人々の「知る権利」を保障するというメディアとしての使命を自ら投げ捨てたのである。権力とは常に暴走する危険性を抱えており、だからこそ政府広報(場合によってはプロパガンダ)とは、距離を置いた報道機関がチェック機能を担う、というのが、近現代ジャーナリズムの基本中の基本である。それを捨てるというならば、メディアとして存在意義はない。今、問われているのは、杉本さん一人の権利ではない。日本の報道のあり方、民主主義のあり方そのものが問われている*。そういう視点で、海外のメディアも日本の動向を観ているのだ。
*戦後初のジャーナリストに対するパスポート強制返納は、外務省単独の判断ではなく、官邸の強い意向が働いていたことが福島瑞穂議員の調査によりあきらかになっている。官邸の意向でジャーナリストの取材活動が阻害されるということならば、政府に都合の悪い情報が隠蔽されていく恐れがある。
○福島事務所が確認した事実経過は以下の通り。
2/2(月)警察が杉本さんのシリア渡航計画を認識。
2/4(水)同日付け新潟日報報道
2/5(木)外務省(旅券課、海外邦人安全課)が初めて事実認識。
2/4付新潟日報の報道を受け)
2/6(金)午前中、杉田官房副長官が外務省に対して、官邸に説明に来る
ように要請。午前中から午後にかけてのどこかの時間帯で、外務大臣に諮り
省内で協議。夕方、外務省三好領事局長が官邸に行き、杉田官房副長官に説明。
官邸の意向を踏まえ、その場で旅券返納命令を決定。