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「安保法制は法的、政治的、経済的に間違っている!」―憲法や安全保障の専門家らが安倍政権にダメ出し

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
議員会館にて会見を開く国民安保法制懇メンバーら

集団的自衛権の行使や米軍等の活動を自衛隊が支援できるようにする安保法制(戦争法案)を、政府が15日、国会に提出した。これを受けて、同日午後、憲法学者や元政府高官などでつくる「国民安保法制懇」が、安保法制関連法案の撤回を求めて記者会見を行った。

○米軍のような無差別虐殺を自衛隊が行うことにも?!

元内閣官房副長官補、元防衛省・防衛研究所長の柳澤協二氏は、これまで自衛隊が海外派遣における武器使用の要件が「自身の身を守るため」であったのが、安保法制においては「(敵対勢力の殲滅など)任務遂行のため」となることから、「完全に憲法と乖離している」と批判。また、自衛隊が米軍などのROE(交戦規則、部隊行動基準)に従って行動することになるが、「イラク戦争でのファルージャでの戦闘*では、米軍のROEは『動く者は何でも撃つ』というものになっていった。実際の戦場で戦闘を行うとなれば、自衛隊も同じようなことになってしまうのではないか」と危惧した。

さらに、安倍首相が「安保法制によって抑止力は高まる」と、日本の防衛力が強化されると主張していることに対し、「先月改定された日米新ガイドラインでは、『離島の防衛は自衛隊が行う』とされている。米軍側のやることは今まで通り変わらないのに、自衛隊側の負担は一方的に重くなる」と指摘。また米軍の武力行使に自衛隊が一体化することにより、「むしろ、日本への攻撃を誘発するのではないか」と懸念した。

○「切れ目なく、シームレスな対応」は国会軽視、有権者軽視

憲法学者の樋口陽一・東大名誉教授は、安倍首相が安保法制によって「切れ目なく、シームレスな対応」として、自衛隊を米軍との共同行動をさせたり、海外派遣できるようにしていることについて「国会軽視だ」と批判した。樋口名誉教授は「切れ目、切れ目で議会で審議し、国民が判断するというのが議会制民主主義」であると主張。「憲法において、国会議員は、その一人一人が全ての国民の代表であるとされる。所属する党派や会派の一員であるということを優先させては、本来はいけないのである」と呼びかけた。議会での審議を前に勝手に安保法制の成立を米国議会で約束するなど憲法や議会制民主主義をないがしろにする安倍首相にただただ追従することが国会議員の役割なのかと、与党議員も考えるべきだ、ということだろう。

○法的にも、政治的にも、経済的にも間違っている!

憲法学者の小林節・慶應義塾大学名誉教授は、「安保法制は、法的、政治的、経済的に間違っている」とバッサリ。「憲法9条2項が、軍隊と交戦権を禁じている以上、日本は海外で軍事活動できない。これを破って海外で軍事活動を行うならば、堂々と国民に問うて、憲法改正するべきだが、その議論が吹っ飛ぶのはおかしい。違憲状態のままで話が進んでいる」と批判。また「安保法制は、非戦の誓いという戦後70年の財産をかなぐりすてるもの。米国とともに世界のイスラム教徒達を敵にまわすのか?」と米国追従の軍事行動が日本にとって多大な政治的損失になると指摘した。さらに会見で安倍首相が「軍事費は増えない」と発言していたことについても、「米国がいつでも戦場に自衛隊を呼び出せる制度を作ってしまったら、戦争で疲弊した米国が日本を頼らないわけがない。米国は戦争に莫大な金をつぎ込んだ結果、財政破綻したが、日本は財政的に第二のアメリカになる」と畳み掛けた。前出の柳澤元内閣官房副長官補も、「新ガイドラインや安保法制に沿うならば、少なくとも海上自衛隊がもう一つ必要になる」と莫大な財政負担が強いられることを示唆した。

○ますます米国の言いなりに

愛敬浩二・名古屋大学教授(憲法学)は、「安保法制によって、在日米軍は日本とその周辺のための安全に寄与するために日本に基地を置くという日米安保条約の制限は、意味をなさなくなる」と警告した。「これまで、オスプレイの配備なども日本の安全保障のために、とされていたが、米軍と共に世界中に自衛隊が出動するようになれば、日本の防衛のためだけ、という理由は成り立たなくなる。人口密集地にもどこにも日本の防衛とは関係なく、オスプレイ等が配備されるようになるだろう」と語った。また「これまでは米軍への協力に『憲法上できない』と言えたが、(安倍政権の憲法解釈や安保法制によって)『憲法上は可能だが、やりたくない』と言うことになるが、果たしてそれが言えるのか?」と、ますます日本が米国の言うなりになる、と指摘した。

○憲法を守る最後の番人は国民

伊藤真弁護士は、「集団的自衛権が認められたら、他国に対する武力行使や現場での武器使用ができるようになる。それは、わざわざ海外に出かけて行って人を殺し、学校や家を壊し、そこにいる人々の生活を破壊すること」と海外で自衛隊が軍事行動を行うことがどのようなことになるのか、想像力を働かせるべきだと訴えた。

前出の樋口名誉教授も「憲法の番人は誰なのか、という議論は以前からあるが、最終的には国民だ」と語る。「これには2つ意味があって、ひとつは有権者としての役割。もうひとつは、パブリック・オピニオン、公共の場での議論だ。そうした議論において、メディアの役割が重要だ」(樋口名誉教授)。

安倍政権は安保法制を今年8月の国会会期末までに成立させると、米国議会で約束した。逆に言えば、安保法制を国会会期中に成立させられなければ、安倍政権は追い込まれることになる。憲法を無視した「法律の下克上」(伊藤弁護士談)を許すのか、否か。国民一人一人が問われている。

(了)

*米軍が2004年4月と11月に行ったイラク西部の都市ファルージャへの攻撃。現地武装勢力の殲滅や「アルカイダ幹部アブムサブ・ザルカウィの殺害」が目的とされたが、街自体を包囲し、病院や救急車まで攻撃するなど無差別虐殺となった。イラク赤新月社などの報告によれば、4月の攻撃では800人近く、11月の攻撃では6000人以上が殺害されたとされる。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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