知らぬは日本人ばかり?安倍首相「戦後70年談話」に込められた本音―謝りたくない、慰安婦否定etc
戦後70年の安倍談話が、首相官邸のウェブサイトで公開されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html
村山談話や小泉談話で明記された「侵略」「おわび」などの言葉を盛り込むなど、外交上の問題を配慮し、当初懸念されたような安倍カラーが濃厚な談話にはならなかったためか、世論調査によっては支持率が微妙に回復した結果も出ている。しかし、安倍首相の本心は別のところにあるのは、これまでの振る舞いからも明らかだ。
安倍政権の本音は、一見マイルドな談話にも透けて見える。例えば、以下の部分。
謝罪を続けるのか否か、つまり許す、許さないは、加害者が決めることではなく、被害者が決めること。上記部分には、「もう戦後70年経つんだから、いい加減、過去の戦争についてゴチャゴチャ言うな」という、安倍政権の傲慢さが見え隠れする。これに対し、ドイツのメルケル首相は、同国にとって第2次大戦の敗戦から70年となる今年5月8日に合わせ公表したビデオメッセージで「歴史に終止符はない」と発言。「歴史の知識は学校や社会で広めなければならない」と、歴史教育の重要性を強調している。これは全くその通りで、一度他国を侵略・占領した、ということによる被害者の恨み、憤りは数十年どころか、場合によっては数百年も受け継がれるものだ。志葉が中東を取材していた時、現地の人々は欧米諸国のことを「クルセイダー」、つまり十字軍と呼んでいた。のべ9回に渡った十字軍遠征は1096年から1272年のことだから、実に700年以上前のことだ。第一次大戦からイスラエル建国、湾岸戦争やイラク戦争と、この間の米国やイギリス等の国々の中東政策に多大な問題があったことが、中東における欧米諸国への反感の最大の理由だが、過去の侵略行為は、その後も歴史的事実として、情勢が緊張した際に再び人々の憤りを呼び起こすのである。安倍政権が進める安保法制が危険なのは、過去だけでなく未来にも、そしてアジアだけでなく中東やアフリカなどにも、禍根を残しかねないからだ。
慰安婦問題について言及したであろう部分も酷い。
昨夏の従軍慰安婦問題についての朝日新聞の報道をめぐる安倍政権のキャンペーンは、いわゆる「吉田証言」の信ぴょう性への追及から、従軍慰安婦問題自体が誤りであるかのように主張するものへと拡大している。昨年10月、安倍政権は、国連人権委員会の「女性に対する暴力」の特別報告官だったスリランカの法律家ラディカ・クマラスワミ氏に対し、同氏が1996年にまとめた従軍慰安婦問題についての報告「クマラスワミ報告」*の記述の一部を修正するよう求めている。これに対し、実際に元慰安婦らから聞き取り調査を行ったクマラスワミ氏
は「吉田報告は証拠の一つに過ぎない」と修正を拒否したが、安倍政権はその後もクマラスワミ報告への攻撃を続けている。今月3日には、自民党の稲田朋美政務調査会長が会見で次の様に語っている。
リアルタイムで元慰安婦達へのセカンド・レイプを続けている安倍政権が「二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリード」など、どんなブラック・ジョークなのか。
*クマラスワミ報告全文http://www.awf.or.jp/pdf/0031.pdf
安倍談話は、ほかにもツッコミどころが満載だ。
「法の支配を尊重」するなら、憲法違反の安保法制を閣議決定し、国会に提出しているのはどういうことなのか。イラク戦争が国連憲章違反の違法な戦争であることを認めず、大量破壊兵器査察の結果を無視して「大量破壊兵器を所有していないと証明できなかったイラクが悪い」というような悪質な責任転嫁までして、イラク戦争支持の正当化を今国会でも繰り返したくせに何を言うか。
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http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150602-00046254/
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150731-00048032/
という部分も欺瞞に満ちている。今年4月の核拡散防止条約再検討会議にオーストリアが提出した核兵器禁止への努力を誓う文書「人道の誓約」には107カ国が賛同した。しかし、安倍政権は米国からの働きかけ(圧力)もあり、この「人道の誓約」には賛同しなかった。ことあるごとに「唯一の被爆国」「核廃絶をリードする」とアピールする日本だが、国際社会の中で真剣に核廃絶を求めている国々の政府関係者らや活動家達の間では、むしろ核兵器容認派の国だと観られているのが実際のところなのである。
戦後70年の談話で、不必要に外交問題を引き起こすことはなかったものの、安倍政権が実際に何をやっているかは、世界の国々も注視しており、その言行不一致ぶり、欺瞞ぶりがバレていないと思うのならば、大間違いだ。案の定、米国やイギリス、ドイツなどのメディアは、安倍首相の戦後70年談話を批判的に報じた。知らぬは日本人ばかりとならないよう、日本の人々も安倍政権の本質を見極めないとならないだろう。